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松本という漢Ⅵ  作者: 時田総司(いぶさん)


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第十節 とある男の日常

第十節 とある男の日常




ここは、精神病棟――。


この精神病棟に数年間入院している者が――。


「ほっ」


シゲミである。今日はシゲミのお見舞いをしに、とある男が病棟に来る様だ。


「――で、シゲミに――」


その男は、病院の待ち受けで受け付けを済まし、シゲミの居る病棟へと足を運んだ。


面会室にて――、


「クゥン……」


シゲミが下を向き、不安そうに男を待っていた。今日はどんな話を持って来るのだろう? どんなことで怒られるのだろう……? シゲミの心は不安で満ち満ちていた。


「ガチャ」




「!?」




「来たぞ」


男が待合室に現れた。どっこいしょと、パイプ椅子に腰掛ける男、シゲミの目を真っすぐ見て、話し掛ける。


「よお、オッサン。いつまでここの暮らしを続ける気だ? 他界した母親の財産が大量にあったから今は金に困ってないが、ここの暮らしは一日3万だ。死ぬまでここで暮らされちゃあ、財産が底をつくぜ?」


「ぐぬぬ」


「デイナイトとかいうのに行って、体力をつけたらどうだ?」


「クゥン……」


渋るシゲミに見かねた男は何か妙案を思いつく。


「そんなに嫌なら、俺が見学しに行ってやるぜ? デイナイトケアに行きたくない、正当な理由があるなら、行かなくていい」


「よぃん」


シゲミはその提案で、手を打つ様だった。






「そんな! 困ります!!」


「こちらも、この要求を呑んでもらわないと困る」


「で、でも!!」


男は、デイナイトケアをおこなっている病院のスタッフと揉め事になっている様だった。基本的には、デイナイト利用者か、研修に来る学生しかデイナイトケアには通えないコトになっている様だ。


そこで――、


「50だ」


「は?」


「コイツで、手を打ってはくれねぇか?」


パラッと男は諭吉をなびかせてみせた。


「……」


「どうする?」


「ガイド役をお付けします!」






交・渉・成・立!!






とある日の朝9時半――、


「大変特殊な話ですが、今日はデイ参加予定の家族の方が見学に来ましたー! 拍手で迎えて上げましょう」




「……」


「……」


「……」




拍手は起きなかった。




(何だそれ?)


(どうした? スタッフ)


(裏があるな)




利用者達の目は鋭かった。


「と、とにかく! 分からないコトがありそうだったら教えてあげてくださいね! それじゃあ、ラジオ体操始めます」


男は、ガイド役の人に話し掛けられた。


「朝のミーティングの後、ラジオ体操をするコトになっているんですよ。できない人や、しない人も居ますが……」


「そうか……」


「腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動からぁー」


ラジオ体操が始まった。日本人なら誰でも知っているであろう、あの運動から始まる。




しかし――、




「ビクンビクン」


男の視界に入った患者、河本は腕を回す運動を始めた。




「!?」




「手足の運動。いち、に、さん、し……」


未だに腕を回す運動を続ける河本。それを5、6項目全て同じ動作でこなした。


「前下に曲げます。はずみをつけて、に、さん、し、後ろ反り」


次の体操が始まった。河本は前下に上体を曲げ――、




そのままうずくまってしまった。




(何だ? アイツは……)


男は河本の奇怪な行動を目の当たりにし、不穏に思った。ラジオ体操が終わる頃、男は河本に近付く。




そして男は言った、『お前は何者だ』と。


河本は、苦し紛れに言い訳をした、『僕は左腕がマヒしているからねぇ』




「!?……」






数日後――、


男はシゲミのお見舞いに来た。


「ガチャ」


面会室のドアが開く。


「よぉ」


「よぃん」


「デイナイトケアについてだが――」


ゴクリと、シゲミは息を呑む。


「アブねぇヤツが一人、居た。ありゃ関らない方がいい」


「クゥン」


「仕方ねぇ、株で一儲けして、入院費を用意する。お前さんの生活保護の手続きもするから、一生、ここに居ろ」


「あぅん……」




シゲミ、永久入院決定!!!!


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