第一節 患者達のデイナイトケア
第一節 患者達のデイナイトケア
「いやー、入院中は困りましたよ」
デイナイトケアにて――。
複数人いる利用者の中で、利用者Kが笑い話の様に談笑している。
「いや、ね。薬を飲んでいたのに、薬を飲んでいないかもも知れないからという理由で、隔離室に入れられましたからね」
「それは大変でしたねぇ」
利用者Kは入院中の苦い思い出話をしている様だ。と、同時に――、
「それ、ダイヤの2っと」
「ああ、やられた」
「10付けってあります?」
利用者達はトランプの大富豪をしている様だ。
「ハイ、上がり。御柳さん、ドンケツだからトランプくってね」
「あー、ハイ」
御柳――、
天然で忘れっぽい性格の男性。40~50代。入院中、一部の患者からゾンビと呼ばれていた。サッサッサッサと、トランプをくる御柳。そして――、
「はい」
御柳はトランプを表にして配った! トランプの一枚はスペードの7をあらわしていた。
「えぇ!?」
「ちょっとぉ!」
「ん?」
周囲のデイナイトケア利用者達は驚いたが、御柳は何の気なしに構えていた。
「表出しちゃダメでしょ。その7、もう一回くってから配り直してください」
利用者Kが諭すと、御柳はああそうかと、トランプをくり直した。
数秒後――、
「はい」
御柳はまたしてもトランプを表にして配った!! 今度は、トランプはハートのキングをあらわしていた。
「ちょっとぉ!」
「何やってんのぉ!」
「ん?」
周囲の利用者は流石に激怒した。だが、御柳は何が起きたか分かっていない。ド天然である。その様子を見たT橋は言った。
「頭がおかしい」
――、
「はぁー、それにしても――」
「入院生活、大変でしたねぇ」
「ねぇ」
「ハイ」
M2ボムが手を挙げて、口を開いた。
「僕、隔離室に居たんですけど、ある日――」
ゴクリと、利用者達が息を呑む。
「汽笛が鳴った」
「ブハッ!」
「フッ!!」
「ぎゃはははは!」
周囲は笑いに包まれた。一見、和やかに見えるデイナイトケア――。しかし、そこは揉め事も絶えなかった。
NAGABAYASHI――。
彼女は70代の女性で、例のウィルスが流行っている頃、マスクをするコトを泰然と拒んだ。
「嫌なの」
「嫌じゃないでしょ? 皆マスクしてますよ」
「顔見れんようになったらいけんじゃん」
「!? 何を言っているの?」
デイナイトケアのスタッフはマスクをするよう、説得を試みるも、謎の顔面アピールで返された。自分の顔を見たいファンが居るとでも思っているのか? 数分後、観念したのか、NAGABAYASHIはマスクを顔に付けた。
「BAYAちゃん、ちゃんとしてるよ」
「偉いねー」
しかし、更に数分後――。
「ふぅー(あー、ダル)」
NAGABAYASHIはマスクを外した。
「ちょっと、マスクは?」
スタッフは問いただす。すると、
「サッ」
NAGABAYASHIは徐にマスクをした。
「BAYAちゃん、ちゃんとしてるよ」
「偉い偉い(コイツ……)」
スタッフは多少NAGABAYASHIに不信感を覚えたが、マスクをしたにはしたので、NAGABAYASHIを咎めはしなかった。しかし、更に数分後――。
「ふぅー(あー、ダル)」
NAGABAYASHIは再びマスクを外した。そして、デイナイトケアの、カラオケの時間がやってきた。スタッフはNAGABAYASHIの前に立ち塞がり、言った。
「NAGABAYASHIさん、アナタは何度言ってもマスクをしないので、カラオケに参加できません」
「でもBAYAちゃん、ちゃんとしてるよ」
NAGABAYASHIは反論した。しかし――、
「ちゃんとできていません。ダメです」
スタッフは忽然とした態度で対応した。
「いやあ! 歌いたい!!」
「ダメです」
「いやあ! いやあぁアアアアアア!!」
NAGABAYASHIはスタッフ二人がかりで連れていかれた。
どこか遠くへ――。