99ートゲドクゲの卵
領都の中を、カッポカッポと森に向かって馬を進める。領都内はまだスピードを出せない。
沿道には領都民達が、出てきている。
――クーファル殿下、カッコいい!
――ああ! なんて素敵なお姿!
――リリアスでんかー!
――かーわいいー!
――いってらっしゃーい!
ん? 子供の声じゃねーか。
子供に可愛いとか言われたくないぜ。
俺も子供だけどさ。
調査隊の構成をお知らせしておこう。
一番先頭に領主隊隊長、アラウィンとアルコース、そして領主隊。
その後ろにクーファル、ソール、そしてオクソールに乗せてもらっている俺、リュカ。
俺たちの後ろはレピオスとシェフ。
それから薬師達が数人。その中にケイアもいる。そしてアスラールとハイク、領主隊副隊長。一番後ろが騎士団だ。
「殿下、人気者ですね!」
「リュカ、面白がってるよね!?」
「ククク……」
「オク、笑わない」
「クハハハ」
「リュカー!」
あー、手が届いたらくすぐってやるのに! コチョコチョッてな。
領都を出たらスピードアップだ。風を切って馬は進む。畑が広がる地域を抜けて暫く走ると森はもう直ぐそこだ。
森の前で一旦止まって、小休憩を兼ねて虫除けを塗って装備をつける。
長い手袋にマスク代わりの被り物をつける。その上からローブの帽子を被る。
「オク、魔石持ってる?」
「はい、持ってますよ。今日のメンバーは皆持ってます」
「そう。何があるか分からないからね。用心しなきゃ」
「はい。殿下、側を離れない様にして下さい」
「うん。分かってるよ」
「殿下、森に入ったらゆっくり進みます」
「うん、アラ殿」
「何かあれば直ぐに声を掛けて下さい」
「うん、わかった」
さあ、いよいよ森だ。
馬がゆっくりと森の中を進む。まだ魔物は出てこない。
「殿下、葉が繁ってますね」
後ろからレピオスが声を掛けてくる。
「そうだね、あの葉の裏側はどうなのかな?」
「卵ですか?」
「うん」
「リュカ、ついてきてくれるか? 何枚か葉を採取しよう」
「はい、レピオス様」
レピオスが少し隊列を離れて葉を採取する。葉を容器に入れ、ちゃんと採取場所も記してくれている。
流石、レピオス。完璧だな。
「殿下、もうトゲドクゲがいそうですか?」
「オク、まだだとは思うけど。念の為にね」
森に入って1時間位たった頃だろうか。隊列の前で魔物を討伐している音がする。
「オク、もう魔物が出てきてるの?」
「はい。まだ小物ですよ」
「そう」
そうこうしている内に、シェフも魔物を狩り出した。後ろの騎士団も、少しバラけて討伐している様だ。
「多くなってきたね」
「はい。もう少しで中間位でしょうか」
「うわ……オク、上を見て。蜘蛛の巣が沢山ある」
「そうですね。少し多いですね」
「蜘蛛もグリーンマンティスを食べるよね?」
「はい。トードだけではない様ですね」
「うん、そうだね」
アスラールが、後ろで風の斬撃を飛ばしている。蜘蛛を退治しているのだろう。
蜘蛛と言っても、魔物だからきっと大型なんだろうな。
「レピオス、あそこ。あれ見て」
俺はそれを指さした。大きな葉と茎との間と葉の裏にびっしりと産み付けられた卵だ。
「あれですね。殿下、採取しますか?」
「採取より焼き払いたいな。森の中だと無理だよね。どうしようか?」
「殿下の考案された、虫除けの液体は駄目ですか?」
「あれはかなり薄めてあるからなぁ」
「原液も持ってきていますよ?」
「レピオス、原液だと今度は植物が駄目になっちゃう」
「リリ、切り落として一箇所に集めて、焼いたらどうだい?」
「兄さま、そうですね。オク、止まってもらって」
「はい、分かりました」
オクが笛を吹くと、隊列が止まった。
「殿下、どうされました?」
アラウィンがやって来た。
「あそこ、見て下さい。トゲドクゲの卵です」
「あんな所に。凄い数ですね」
「この近辺を探してもらおう。見つけたら切り取って一箇所に集めて焼いてしまおう」
「分かりました。アスラール!」
後ろからアスラールがやってきた。
「はい! 父上!」
今の説明を、アスラールに話して指示をしてくれる。
「アスラール、後ろに指示を。私は前で指示を出す。あまり離れ過ぎない様にな」
「はい、父上。分かりました」
俺は馬から下ろしてもらう。
卵の付いた葉を集める為に、大きな植物を切り倒したりして焼く場所を作る。風魔法でね、サクサクやるよ。
リュカも風魔法で切り倒してくれている。オクとシェフは、周りに魔物が出てこないか、警戒してくれている。
「レピオス、こんなもんかなぁ?」
「ええ、殿下。充分かと」
「焼いたら駄目な薬草はないよね?」
「はい、ここら辺はないですね」
薬師も手伝いながら、薬草がないか確認してくれているが、ケイアはボーッと見つめて立っている。
念の為、周りの地面を少しだけ盛り上げて、火が燃え移るのを防ぐ。
「殿下、土魔法ですか」
「うん。周りの植物を燃やしたくないからね。出来るだけ森の生態系を壊さない様にしなくちゃ」
どんどん、卵が付いた葉が重ねられていく。
「多いねー」
「殿下、これが全部孵化していたら、どうなっていた事か」
「アスラ殿、本当ですね」
「殿下、取り敢えずこの近辺ではこれ位で。移動してまた増えてきたら集めましょう」
「そうだね、じゃあ焼くから離れてね。兄さま、お願いします」
「ああ、リリ」
そう言って皆が距離を取ったのを確認してから、クーファルに魔法で火をつけてもらう。俺はその周りを結界で囲み、火が燃え移らない様にする。
俺が焼くと思っただろう。違うんだなぁ。クーファルは頭がいいだけでなく、火魔法も得意なんだぜ。
ボワッと一気に火が回る。結界の中で沢山の葉が一気に燃え上がった。
「殿下は無詠唱なのですか?」
アスラールが聞いてきた。
「うん。一応、心の中で言ってるんだよ」
「殿下は、ら行が言えなかったですもんね」
「リュカ、ら行が言えないとは?」
「アスラール様、殿下が魔法を覚えられたのは3歳の頃なんです。あの頃は、ら行がちゃんと発音できなくて、りゃりりゅりぇりょ、だったんです。ですので、詠唱も正確に発音できなかったのです」
なんだと!? リュカ、気付いてたのか!? 俺の秘密だったのに! 黒歴史だよ。
「リュカ、知ってたの!?」
「え? 殿下、皆気付いてますよ?」
「ええー! ボク隠してたのにー!」
「あれ、そうなんですか? でも、誰でも気付くと思いますよ?」
「まあ、リリ。そうだね。皆、気づいていたな」
マジかぁー! そうなのかぁー!
かなりショックだ!