97ー付与
帰りは、最初に副隊長に乗せてもらって、途中でオクソールの馬に乗りかえた。
もう直ぐ街に入る、てところまで覚えていたのだが……
「……ん、あれ……ニル?」
目が覚めたらベッドの中だった。
「殿下、お目覚めですか」
「うん、ボク寝ちゃった?」
「はい。オクソール様が抱きかかえて連れて来て下さいました」
うー、またかよ。オクソールよ、いつも有難う。
「殿下、シェフがおやつを持って、待っていますよ」
「本当? 食べる」
「はい」
ニルがドアを開けると、シェフが入ってきた。
「殿下、お目覚めてすか。お疲れではないですか?」
「うん。シェフ大丈夫。ありがとう」
「さ、おやつです。殿下に教えて頂いた大学芋です」
「わ、ありがとう!」
懐かしいぜ! 大学芋だ! お袋がよく作ってた。
あの頃は、『また芋かよ』て、位にしか思わなかったが、今は思い出が詰まった物になってしまった。
「ん〜、美味しい〜! はい、ニル。あーーん」
俺は大学芋をフォークに刺して、ニルの前に出す。
「えっ? 殿下!?」
「いいから! あーんして!」
「は、はい。あーん……!」
「ニル、どお?」
「美味しいです! これが、さつまいもですか?」
「そうだよ。美味しいねー! シェフ、完璧!」
「殿下、有難うございます!」
「シェフ、今日はどうだった? 料理を教えたんでしょ?」
「はい! 奥様も参加されて、皆様しっかり覚えて帰られました」
「そう。シェフ今日は先生だもんね……ゴクン」
ポンッ! とルーが現れた.
「シェフ! それ僕も欲しい」
「ルー様、分かりました。ご用意しますね」
「ルー、毎日もらってない?」
「だって、もらって来てって、煩いんだよ」
「誰が、かな?」
「え? リリ、意地悪はやめようよ」
「もう! 父さまと母さまに、いい加減にして! て、言っといて!」
「わかった、わかった。それより、リリ。それ食べたら付与しようか」
「はーい……」
と、返事はしながら大学芋を食べる。
「……リリ?」
「うん、食べてんの……」
「…………」
「ニル、あーん」
「は、はい、あーん」
「美味しいねー」
「リリ」
「分かったよ。あと1個だけ……」
「殿下、りんごジュースです」
「ニル、ありがとう」
「シェフ、ごちそうさま! 美味しかった!」
「はい! 殿下! では、ルー様。ご用意しておきますので」
「うん、有難う。調理場に寄るよ」
「はい、畏まりました!」
「じゃあ、始めよう」
「ルー、付与て何にでも出来るの?」
「ああ。人にも、武器にも石にもな。マジックバッグも、普通のバッグに時間と空間の魔法を付与した物だろ?」
「なるほろ〜、ゴクゴク…… 」
「おい! 今度はりんごジュースかよ!」
「ん? ルーも飲む?」
「いや、いらないよ」
「そう? おいしいのに……」
「で、肝心の魔石だ」
「うん……」
「魔石は元々魔力の塊だから、付与しやすい」
「うん……ケフッ」
おっと。可愛いゲップが出てしまったぜ。
「リリ、お腹いっぱいなんだね」
「うん。ごめん」
「魔石によっては、合う合わないがあるんだ」
「そうなの?」
「ああ。例えば、火属性の魔物から取れた魔石に、水属性は付与出来ない」
「ほぉ〜」
「クーファルが言ってた、防御系はまあだいたいどの魔石にも付与できる」
「ねえ、防御と言うか。1回だけでもいいから、持つ人の代わりに攻撃を受けたりするのは無理?」
「身代わりみたいな感じか?」
「うん。結界? バリア? シールド? みたいなのでもいいかな。でも、それだと1回だけじゃ嫌だな」
「リリ、贅沢だな。あくまでも、お守りだぜ?」
「うん。でも、いざって時に役立つ方がいいもん」
「結界でいいんじゃない? 物理攻撃と魔法攻撃の、両方の結界にすれば?」
「うん、いいね」
「それだと、魔石を選ばないよ」
「じゃあ、そうする」
――コンコン
「リリ、起きてるかな?」
クーファルとソールだ。
「はい、兄さま。起きておやつも食べました!」
「そうかい。兄さまも食べたよ。美味しかったね」
「はい。シェフは天才です!」
「ハハハ、天才か!」
「リリアス殿下、魔石をお持ちしました」
「ソール、ありがとう」
「ソール、私がリリと話しているんだけど」
「殿下は、話が終わらないでしょう?」
「そんな事はないさ」
「リリアス殿下、何を付与するか決まりましたか?」
「うん、ソール。今ルーと相談して決めた」
「リリ、何にするんだ?」
「兄さま、結界にします。物理攻撃も魔法攻撃にも対応できる様にします」
「そう、それは良いね」
「じゃあ、リリ。魔石を手に乗せて……」
「ルー、まさか1個ずつ?」
「何言ってんの? 当たり前じゃないか。」
いやいや、まとめてやっちゃおうぜ。俺は小さい手に持てるだけの魔石を持って、両手を閉じた。
「お、おい。リリ……」
「えっと……結界……物理攻撃と……魔法攻撃……」
意識を集中する。手に持った魔石が、だんだんと熱を持ってきた。魔力を込め続けると、ふっと抵抗を感じた。
そこで魔力を込めるのを止める。すると、熱を持って暖かかった魔石の熱が引いてきた。
俺はそうっと手を広げてみる。
「……リリ、もうなんと言うか」
「え? ルー何? できているか見てよ」
「見なくても分かるわ。ちゃんと付与できているよ」
「やった。兄さま、これ……あれ? 兄さま? どうしました?」
ふと見れば、クーファルとソールが固まっている。
「リリ、規格外にも程があるよ」
「え? 兄さま、何がですか?」
「リリ、普通は一度に何個もなんて、できないよ?」
「ルー、そうなの?」
「ああ、そうだな」
「あらら」
「あららじゃねーよ? 言葉がないよ」
ポンッとルーが消えた。きっとシェフにおやつを貰いに行ったんだ。