95ー小島
「リリ、本当に悪い顔をしてるよ」
「兄さま、悪い顔じゃありません」
「そうかい?」
「兄さま、あの小島のお話を知ってましたか?」
「ああ、光の精霊が渡って来るんだろう?」
「はい。ボクは知りませんでした」
「リリは知らなくても、ルー様と言う精霊様が付いてるじゃないか」
「あー、精霊でしたね〜」
「リリ、いつも酷いな!」
ポンッと白い光と共にルーが現れた。
見ていた隊員達がどよめいた。
「リリアス殿下!」
隊長が飛んできたよ。
「ああ、隊長。皆に気にしないで、て言ってほしい」
「しかし……!」
「ああ、いいの、いいの。気にしないで」
「ルー様。分かりました」
隊長が隊員達に説明して治めてくれている。
「ルー、どうしたの?」
「だって僕の話してただろう?」
「ああ、兄さまがね。ボクじゃない」
「リリ、本当酷いね」
「ルー様、光の精霊様が渡って来られると、言い伝えのある場所に来ているのです」
「ああ、あの小島だよね?」
「はい。ご存知でしたか」
「ああ。帝国には、ごまんとその手の言い伝えがあるからね。いちいち気にする必要はないよ」
「そうなのですか?」
「ああ。前に話したろう? 初代が、帝国の澱みを広範囲の光魔法で消してまわったと。あの名残りだよ」
「そうだったのですか」
「ああ、クーファル。君は本当に良く勉強しているね」
「有難うございます」
「そんなクーファルに聞きたいんだけど」
「ルー様、何でしょう?」
「初代の出自は残っているのかな?」
「それが全く残っておりません。どこを調べてもありませんでした。まるで突然現れたかの様です」
「そうか」
ん? なんだ……?
「ルー様?」
「いや、気にしないで。なんでもないんだ。それより、あの小島に渡るの?」
「そうだよ、これから行くんだ!」
「リリ、楽しそうだねー」
「うん!」
「じゃあ、僕も付いて行こう」
「えー…… 」
「リリ、それは酷すぎる!」
「アハハ、冗談だよ。ルーも行くの?」
「ああ、せっかく出てきたしね」
「じゃあ、みんな一緒に行こう!」
俺は上機嫌さ!
「殿下、気をつけて下さい」
「リュカ、大丈夫だよ?」
「いえ、でも手は離さないで下さい」
「分かったよ」
「ブフフ、リリはお子ちゃまだからな」
「ルー、うるさいよ! でも、凄いきれい」
「あぁ、そうだな」
俺はリュカに手を引かれて、小島に渡る海の道を歩いている。
道と言っても潮が満ちたら無くなるだけあって、海底を歩いてるみたいだ。
濡れてヌルヌルしていて歩きにくい。だから、リュカがうるさく言ってくる。
心配かけたくないから、俺も慎重に歩く。でも、あっという間に小島だ。
距離にして300メートルなかったかな? て、程度だ。
マリンブルーとエメラルドグリーンが混ざった様な色の海に、夕方までには海になる細い白い道で繋がれた、ぽっかりと浮かんでいる本当に小さな島。白い岩肌に濃い緑の木が生えている。
「陸から離れているのに、木があるんだね。不思議」
直線で歩いたら数分で向こう側に着く位の小さい島だ。
「殿下、何もないのですよ。ただ、中央に澱みがあった跡が薄らと残っているだけです」
「こんな所にも澱みがあったんだね」
「殿下、あそこです。少しだけ窪んで何も生えてないでしょう?」
「本当だ。今はもうなんともないの?」
「はい、なんとも。普通の岩肌です」
「へえ〜、不思議」
そう言いながら、澱みがあったであろう場所に足を出した瞬間……
『俺は帰り………… 』
『澱みを……平和に…… 』
一瞬、目の前の風景が変わった。
…………暗い……澱んだ空気……誰? これは……
「殿下!! 殿下!! リリアス殿下!!」
……あれ? 俺は何を……?
「リリ! 戻ってくるんだ!!」
「……えっ?」
「殿下! 大丈夫ですか!?」
「あ、ああ、リュカ……大丈夫」
リュカが俺の肩を掴んで揺すっていた。
「リリ、驚いた」
「ルー、今の何?」
「初代の記憶に引っ張られたんだ」
「ボクが?」
「ああ、嫌な予感がしたんだ。来て良かったよ」
「ルー、本当に?」
「ああ」
「一瞬だったよ?」
「リリ、数分はジッと立って反応がなかったよ」
「……え、マジ?」
いや、俺は一瞬だったよ?
「殿下、本当です。驚きました」
「リュカ、ありがとう」
「どうしてですか?」
「リュカの声が1番最初に聞こえた」
「そうなのですか?」
「うん。それからルーに戻ってこい、て言われた」
「そうか…… 」
「ルー?」
「いや、何もなくて良かったよ。何か見えた?」
「見た気がするけど……覚えてない。声も聞こえた」
「リリ、何て聞こえたんだ?」
「……分かんない」
「そうか」
「殿下、本当に大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫。隊長、ありがとう」
「いえ、戻りましょう」
「うん」
「殿下、手を繋ぎますよ」
「うん、リュカ」
俺は戻りながら何度も振り返った。なんだろう? 何か見たんだ。聞こえたんだ。なんだったんだろう? あー、分からん。
「リリ、気をつけな。また同じ事があるかも知れない」
「え? そうなの?」
「ああ、リリはあまりこう言う所、澱みの跡とか、魔素の濃い所とか、近付かない方がいいな。ほら、あの湖もそうだ」
「あぁ、そっか」
「光属性が強すぎるんだ。僕が気付いた位だからね」
「ルーが?」
「ああ、そうだよ」