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92ーハイク

 ハイクは続ける。


「私は、何度も何度も言い聞かせました。ただの架空の物語だ。アラウィン様には、仲睦まじい婚約者がおられると、本当に何度も何度も。

 しかし、私がアラウィン様について、帝都の学園で寮生活を送っている間に、人が変わった様になってしまっておりました。それはもう病的にです。

 追い出されても、仕方のない事を仕出かしております。奥様にも大変なご迷惑をお掛けして、申し訳ありません」


 ハイクがその場で跪いた。


「息子達は、あれの事が片付くまで婚姻しないつもりだ。そうだよね?」

「はい、ルー様。こんな問題のある家に来てもらう訳にはいきません」

「アスラール、お前達…… 」

「何もしようとしなかったのは、お前だけだ。辺境伯」

「ルー様…… 」

「クーファルとフィオン、リリが来たのは何かの縁だろう。もしかしたら、お前の父が呼んだのかもな。今、解決しないと一生このままだぞ」

「ルー様……」

「そう思って皇帝も、リリ達を寄越したんだ」

「オージンが!」

「ああ。まあ、これは内緒と言われてたんだが」


 言ってるよ。めちゃハッキリ言っちゃったよ。


「良いか。人の気持ちを舐めたら駄目だ。気持ち一つで状況は変わる。

 気持ち一つで、良いものも悪いものも引き寄せる。

 辺境伯、お前は良い領主だよ。よくやっている。この地を守っているし、領民にも慕われている。

 しかしな、夫としてはどうだ? 親として、一人の人間としてはどうなんだ? よく考える事だ。リリ、だから油断は禁物だ」

「ルー、分かったよ」

「じゃ、俺はシェフのとこに行ってくるよ」


 そう言ってルーは、ポンッと消えた。

 こんな時のルーは威厳がある。俺達とは別の存在なんだと思い知らされる。


「クーファル殿下、リリアス殿下。調査に同行した際は、私が責任を持って付き添います。私も、今回の事は良い機会だと思っております。現実を見せる為には、もうこれ以上の機会はないと。どうか、調査が終わるまで猶予を頂けないでしょうか? お願い致します」

「ハイク、分かった。しかし、またリリに暴言を吐く様なら次はないよ」

「クーファル殿下、有難うございます」


 ハイクはまた頭を下げた。


「そうですね。ルーも言ってたし。とにかく、皆気を引き締めて行きましょう」

「リリ、仕方ないね」

「はい、兄さま。じゃあ、レピオス明日おねがい」

「はい、殿下」


 なんだか憂鬱になってきたぜ。


「では、殿下。明日はどこにご案内致しましょうか?」

「アスラ殿がお勧めのところでお願いします!」

「ハハハ、お勧めですか? そうですね…… 父上、どこにしましょうか?」

「あの、もし宜しければ…… 」

「ウル、どうした?」

「実は領主隊が、皆殿下とまたご一緒したいと煩くてですね。それで、もし宜しければ領主隊の皆で、遠乗りにでも出掛けてみませんか」

「おーー! 乗せてくれるの!?」

「はい、殿下。勿論です!」

「でも、レピオスの説明を聞いてもらわなきゃ」

「戻られたらご説明しますよ。殿下、気になさらずとも大丈夫です」


 え? レピオスいいのかよ? 甘えちゃうぜ?


「レピオス、そう? じゃあ是非、おねがいします!」

「リリ、じゃあ兄様も一緒に行っていいかい?」

「兄さま! もちろんです!」

「フィオンも誘ってみようか?」

「えっ…… 」

「そろそろ、限界なんだよ。リリ」

「兄さま、ではアルコース殿も一緒に!」

「リリ、いい考えだ!」


 だろ? だろー? 我ながらいい考えだ!


「クーファル殿下、リリアス殿下。流石にフィオン様に遠乗りは…… 」

「大丈夫だよ、隊長」

「クーファル殿下?」

「フィオンも馬には乗れるからね」

「はい! 隊長、大丈夫です!」

「え? しかし…… 」

「大丈夫です! 姉さまはとってもお転婆ですから!」

「リリ、それは言ってはいけない」

「え? 兄さま、そうですか?」

「ああ。せめてそんな時は、活発だと言っておかないとね」

「どちらも同じだと思いますが」

「オク……」

「オクソール……」

「はい?」


 本当、オクは天然だわ。



「シェフ、美味しい!!」

「殿下、有難うございます!」


 夕食だ。俺がシェフと相談したカキフライが出てきた。ちゃんとタルタルソースが付いている。

 それに、料理人達が頑張ったのか、牡蠣のチャウダーと、マグロのカルパッチョ風のサラダも出てきた。

 スゲーな! 流石、プロだぜ! 庶民の食べ物カキフライが、コース料理みたいになってるぜ!


「リリ、本当に美味しいな」

 

 うんうん、クーファルそうだろうよ。超新鮮だしな!

 

「これは、初めて食べました」

「アルコース、ニルズが食べ方が分からないと言っていたのを、殿下が教えて下さったんだ」

「まあ、そうなのですか? そう言えば明日、街の者が何人か来るとか。それと関係ありますか?」

「母上、そうなのですか?」

「ええ、アルコース。ニルズの奥さんから連絡があったのよ」

「殿下のシェフに、調理法を教わると言っていた」

「まあ! あなた、そうなのですか? シェフ、私もご一緒しても良いかしら?」

「はい! 奥様、もちろんです!」


 クーファルが目配せしている。

 あー、フィオンだ。ヤバイな。


「姉さま、ボクがシェフと考えたフライは美味しくないですか? これなら、姉さまも美味しく食べて下さるだろうと、考えたのですが」

「リリ! そんな事ないわ! とっても美味しいわ!」

「良かったです!」


 クーファルがまだ見てるぞ。

 なんだ? あれか? 明日の事か? てか、クーファル。俺に丸投げじゃねーか。微笑んでんじゃねーぞ。


「姉さま、明日兄さまとボクとお出かけしませんか?」

「え? そう?」

「はい! 姉さま、馬に乗るのお上手でしたよね?」

「そうね、少しは乗れるわ」

「領主隊の人達が、遠乗りに連れて行ってくれるのです。姉さまも一緒に行きましょう!」

「嬉しいわ。でも遠乗りだと、私は足手まといにならないかしら?」

「では、アルコース殿。おねがいします!」


 そうだ。アルコースにも、忘れずに言っておかないとな!


「え? リリ!?」

「私も、ご一緒しても宜しいのですか?」

「ボクは兄さまに見てもらいますから、アルコース殿は姉さまをおねがいします!」

「ハハハ、私で良ければ喜んで」

「姉さま、いいですよね?」

「リリ、そんな…… 」

「姉さまは、ボクと出掛けるのは嫌ですか?」


 残念そうに上目遣いで見つめてみる。


「いいえ、リリ。一緒にお出かけしましょう! アルコース殿、宜しくお願いします」

「はい、喜んで」

「姉さま、ありがとうございます!」


 クーファルがウインクしてるよ。

 俺、頑張ったよ。ふぅ〜、一気に疲れたぜ。


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