90ーヒロイン?
「……んん~」
「殿下、お目覚めですか」
「うん。ニル、おのどかわいた」
「りんごジュースお持ちしますね」
「うん、ありがとう」
ヨイショとベッドをおりて、ソファーに座る。
「殿下、色々食べられたそうで」
「うん。ビックリした。めちゃ美味しかった!」
「殿下、フィオン様が」
「えっ? 船の上だったもん。無理だよ?」
「そうなのですが」
「えー……無理」
「殿下、なんとか」
「んー……シェフのとこに行く?」
「はい、そうですね」
で、俺はニルとリュカと一緒に調理場に来てる。
「殿下、では今日の夕食で」
「うん。そうだね」
「何か?」
「うん。夕食はこれでいいと思うんだ。でもね、まだ食べたいのがあって」
「はい、何でしょう?」
「あのね、トゲトゲのはパスタでしょ。こっちのは、ホワイトソースでグラタンもいいよね」
「ああ、殿下。美味しそうです」
「でしょ?」
「殿下、それでトゲトゲはなんて言うんですか?」
「え? おっちゃんに聞いてないや」
「殿下は何と?」
「ウニ」
「こっちのは?」
「カキ」
「はいはい、分かりました」
シェフ、メモってるぜ。
「夕食で、グラタンも少し出しますか?」
「いっぺんに出さなくていいよ。ちょっとずつでいい」
「では、やはり今日の夕食はこれで」
「うん、そうだね」
料理人達が味見をしてる……と言うか、がっついてる。
ニルとリュカまで食べてる。リュカどんだけ食べんだよ。いいけど。
「美味しい?」
近くにいる料理長に話しかけてみた。
「はい! 殿下! まさか、こんなに美味しいものだとは!」
「ね、殻を壊せなかったみたいだからね」
「はい。しかし、シェフに教えてもらった方法だと、簡単ですね」
「うん。でも手を怪我しないでね。必ず手袋してね」
「はい、殿下。殿下に教えて頂いて、大変勉強になりました」
「えー、止めて。そんな大袈裟な」
「でも、殿下。栗もそうですが、今迄は食べていなかったのですから」
「そうだね。物はあるのに、なんで食べ方が伝わってなかったんだろうね」
「初代辺境伯の日記は、大半が焼けてしまったらしいですよ」
「え、そうなの?」
「はい。今は平和ですが、やはり建国から暫くは、色々あったみたいですから」
「魔物?」
「はい。領主隊も今ほどではなかった様ですし」
「そうなんだ。代々の領主やみんなの先祖が、頑張ってきたんだね」
「はい、殿下」
「素晴らしい事だね」
「殿下、またこちらでしたか」
オクソールが探しに来た。
「オク、どうしたの?」
「調査の日程を決めたいので、辺境伯様がお越し願いたいと」
「分かった。じゃ、またね」
「はい! 殿下、有難うございました!」
ヒラヒラと俺は手を振って、オクソールに連れられて調理場を出る。
さっきまで食べてた、ニルとリュカも一緒だ。
「ニル、リュカ。美味しかった?」
「はい、殿下」
「めっちゃ美味かったです!」
「リュカ凄い食べてたもんね」
「殿下、そんな事は……」
「ない?」
「いえ、あります。だって殿下、美味いもんは仕方ないです!」
おいおい。リュカよ。開き直ったらいかんよ。プププ。
「みんな、さすが料理人だよねー」
「ええ。手際の良い事!」
「ねー。初めての食材なのにね」
そう言えば……
「ねえ、ニル。ケイアが何の研究してるか知ってる?」
「ああ、はい」
「教えて」
「なんでも、薬草でハイポーションが作れないかの研究らしいです」
「ん? ハイポーション? え? 出来るでしょ?」
「え? 殿下。出来るんですか?」
「魔力を通して作るんだよ。レピオスに教わったよ?」
「そうなのですか?」
「普通にここの薬師も作ってたよ?」
「えっと、あれです」
「何?」
「ケイア様は魔力量が少ないので、ポーション類は作れないんだそうです。ですので、魔力なしでも作れるかの研究です」
何を馬鹿な事やってんだ。
そんなの研究じゃないじゃないか!思い込みもいいとこだ!
「それは、いくら研究しても無理だ」
「そうなのですか?」
「うん。薬師なら皆当たり前に知ってる」
「あら……」
「魔力なしでは、魔素と薬草を合わせられないから、出来るわけないんだ。常識だね」
本当に5歳児の俺でも知っている常識だ。
「だからですね、殿下」
「オク、何?」
「皆が彼女を嫌っているだけではなく、馬鹿にしている感じがするので」
「ああ、そうなんだ」
「はい。言動も少しおかしいと言うか」
「どうおかしいの?」
「私はヒロインだと。奥様は悪役令嬢だと。最近だと、クーファル殿下は自分を迎えに来てくれた皇子様なんだと」
「…………」
え……ここにきてまさかの悪役令嬢の登場かよ。もしかして、不思議ちゃんなのか?
いやいや、そんな歳じゃないだろう。
「殿下」
「言葉がないよ。まぁ、確かに皇子様だけど。あッ! だから兄さまには喋り方が違うんだ!」
「その様です。あざといですね」
うわっ! キモッ! いや、いかん! 大人気ないわ。
「でも、彼女を薬師のまとめ役にしておくのは、駄目だ」
「殿下、それも」
「ニル、何?」
「ケイア様が、辞める様に仕向けるらしいです」
「はぁ!? 自分より出来る人を、てこと?」
「いえ、出来る人でも自分より下の者なら、自分の仕事をさせて使うそうです」
「じゃあ、自分より上の者を、てこと?」
「はい」
「なんでみんなは何も言わないの?」
「まあ、領主の血縁者ですから」
なんだそれは? よくみんな黙ってるな。普通に性格悪いじゃん。てか、どっちが悪役だよ。
「……」
「殿下?」
「もう、駄目だね。想像以上に」
「はい」
「アラ殿はどうしたいんだろう? アラ殿の血縁者だしなぁ」
「さぁ」
そうなんだよなぁ。俺が出しゃばって良いものなのか。でも、前世でも似た感じの人っていたよね。仕事が出来ないのに、勤続年数と態度だけはデカイ人。
アラウィンの執務室の前に、レピオスが待っていた。
「殿下、お待ちしてました」
「レピオス、待たせてごめんね」
「いえ、殿下」
「オク、ニル。また知っている事があったら教えて」
「はい、殿下」
「はい。畏まりました。私は此処で失礼します」
「うん、ニル。ありがとう」
「では、殿下」
「うん。レピオス」
さて、どうしたもんかねー。もしかして、病んでるのか? その可能性も考えとこう。