9ーフォラン
皆の視線が一斉にフォランに集中した。
なんだって!? このガキが犯人なのか!? まだ13歳だろ!? 子供じゃねーか! いやいや、それ以前に姉弟だろ? 自分の実の弟を殺そうとしたのか!?
「フォラン……何か言う事はあるかい?」
なんだよ、父は分かっていたのかよ!? 皆もなんで平然としているんだ!? もしかしてリボンで分かったのか? だからあの反応だったのか?
気付かなかったのは、俺だけなのか?
「お父様、言い掛かりですわ! 私はその様な事はしておりません! レピオスは私を舐めているのですわ!」
フォラン皇女が、レピオスを指差して睨み付けながらそう叫んだ。
「お父様、フォランは少し気がキツイところは御座いますが、まだ小さい自分の弟にまさかそんな事……する筈がありません」
「イズーナ、お前は何も知らないのだね?」
ああ、この父は気付いていたんだ。
自分の娘が、自分の息子を殺そうとしたと言う事に、気付いていたんだ……
「……お父様? 何の事ですか?」
「そうか」
「お父様、教えて下さい。何をご存知なのですか?」
可哀想に。この姉、震えてるじゃないか。膝の上に置いたギュッと握られた手が震えている。
「オクソール…… 」
「はい、陛下。半年前です。リリアス殿下が階段から落下されました。咄嗟に私が殿下のお身体を引き寄せ、大事には至りませんでした。その3ヶ月後、リリアス殿下の靴に毒針が仕込んでありました。ニル殿が発見し、早急に靴を変更し何事もありませんでした。またリリアス殿下が2歳の頃に不審者が忍び込んだ事も御座います。フォラン様、その様な事があって私共が何もしないとでも思われますか? 城の中に専門の調査部隊を潜伏させております。その結果、貴方方のお母上の第1側妃のレイヤ様、レイヤ様付きの侍女。そして、今回はフォラン様、フォラン様付きの侍女です。リリアス殿下のお命を狙っていらした事は明白になっております。既に証拠は押さえてあります。今頃はお二方のお母上も、拘束されている事でしょう」
俺ってそんなに狙われてたの? え? 俺って嫌われてる? 俺、そんなにメンタル強くないからさぁ。凹むわー。
「お父様! 言いがかりですわ! 私はリリアスに罠に嵌められたのですわ! こんな物、証拠にもなりませんわ!」
顔を真っ赤にして怒りながら言い訳をしている。両手でドレスをグッと掴みながら。
だが3歳児の俺が何をどうやって罠に嵌めるんだよ。
「陛下、宜しいでしょうか?」
「ああ、仕方ないね」
「ルー様、お姿を」
オクソールがそう言うと、何処からか光が集まり一つになり鳥の姿に変わった。
「るー!」
「リリ、暫く離れててごめんよ」
喋りながら俺の方へ飛んでくる。
「ありぇ? るー、話せりゅの?」
「うん、もういちいち念話にするの、面倒になっちゃった!」
なんだそれッ、あれ面倒だったのかよ!? カッコよかったのに。
「ルー様、お願いします」
「うん、オクソール分かった。貴方が皇帝陛下?」
俺の膝に止まり父の方を見る。
「はい、初めてお目に掛かります。リリアスの父、オージン・ド・アーサヘイムと申します。この度はお力添え頂き有難うございます」
「あー、止めて。普通に話して。僕、そう言うの嫌なんだ」
「有難うございます」
「じゃ、皆いいかな? 僕は光の精霊でルーです。リリに加護を授けて守護する事にしました。光の神の恩恵を受けているこの国で、光属性を持つリリが命を狙われるのは許せないんだ。それは、光の神を裏切る事と同意だよ。分かるかい? そこの馬鹿なお姫様」
「……ッ!? ば、馬鹿ですって! 鳥如きが私に何を言ってるのよ!」
「ああ、もう言い逃れはできないんだよ。リリは狙われるのが辛いと言った。たった3歳のリリがだよ。これでも僕は怒っているんだ。僕はリリの残滓を辿れる。オクが見つけたその黄色のリボンにも、生地の繊維にもリリの残滓がある。君の黄色のドレスにもね。どのドレスか分かるかい? リリが湖に落ちた時に君が着ていた黄色のドレスだよ。ああ、今日のドレスも黄色だね」
「嘘よ! 光の精霊なんて見た事ないわ!」
「当然だよ。君の様な心根の人間に精霊が姿を現す訳ないだろう。それに君、光属性を持っていないじゃないか」
「嘘つかないで! 私を虐めて楽しいの!? 」
「光の国の姫が、光属性の価値を理解していないばかりか、光属性を持つ弟皇子を殺そうとするなんて。堕ちたものだ。君は、してはいけない事をしたんだ。もう終わりだよ」
「違うわ! 私は騙されたのよ! 罠に嵌められたのよ!」
「フォラン、誰が何の為に、どんな罠に嵌めたんだい? 君はまだ13歳だ。まだまだ子供だ。素直に認めて懺悔するなら罰を軽くするつもりだった……とても残念だよ」
「お父様! 違います! 私は……私は……!」
「フォラン……たとえ13歳でも、光属性を持つ者がこの帝国には必要な事位、理解出来るだろう。民の為だ。大勢のこの国に暮らす民の生活を守るのが、私達の責任なんだ。君はその責任を取れるのかい?」
「……お父様……私は……」
「なんだい? 言ってご覧?」
「私は……私は……お母様が伯爵家の出だと言う事で蔑まれるのが我慢できないのです! リリアスのお母上は最後に入ってきたのに、侯爵令嬢だと言うだけでチヤホヤされて! リリアスさえいなければ! 私は!」
――パンッ!
突然、隣に大人しく座っていた姉のイズーナがフォランの頬をビンタした。
「おねえさま…… 」
「誰がお母様を蔑みましたか? お母様にも散々申しましたが、貴方達は卑屈に受け取り過ぎているのです。皇后様も第2側妃様もリリアスのお母上も、皆様どれだけ良くして下さっているか、貴方には分からないのですか? どれだけ心が歪んでしまっているのですか?」
「……そんな! 姉様が知らないだけですわ! 私達のお母様だけ伯爵家の出です! 私達だけが髪の色が違います! 私達だけ!」
「フォラン、イズーナの言う通りだよ。誰もフォランや君達の母上を蔑んだりしていない。髪の色なんて全く関係ない。皆、私の可愛い子供達だよ……残念だ……捕らえなさい」
兵が入ってきて第3皇女フォランを捕らえた。
「離してよ! 私に触らないで! 私は皇女なのよ!」
「フォラン、君のその身分は剥奪する事になる。それだけではすまないだろう。覚悟しなさい。最後位は皇女らしくいれる様にね」
最後だと……!?