89ーおっちゃん海人
「いやぁ、驚きました! まさか、こんなに美味いとは!」
「領主様、リリ殿下はとんでもないですよ!」
「なんでよ! ボクにしてみれば、おっちゃんの方がとんでもないよ!」
「まさか殿下、船の上でこんな事なさっているとは」
「オク、美味しいでしょ?」
「本当に殿下には驚かされます。山のトゲトゲといい」
「トゲトゲ……? リリ殿下、海にもあるんだ。トゲトゲが」
なんだと!? 海のトゲトゲだと!?
「おっちゃん! 本当!?」
「ああ。ちょっと潜ればトゲトゲも、ごっつい殻で割れない貝も沢山いるぞ」
なんだそれは……、トゲトゲは分かる。
きっとあれだろ?
殻を割れない位の貝て、なんだ?
貝……貝……殻が……!!
もしかして、あれか!?
「おっちゃん! 見たい! 見てみたい!!」
「ああ、いいぜ。ちょっと潜ってとってきてやらぁ」
おっちゃんこと、ニルズはそう言ってさっさと下着だけになり、ザバーーンと海に飛び込んだ。
素潜りかよ! スゲーな!
海女さんかよ! じぇじぇじぇかよ! ちと古い。
そして、すぐに両手一杯に持って上がってきた。
「ほれ、殿下。これだ」
「これ……! シェフ!」
「はい! 殿下! どうしますか?」
「あのね、小さいナイフないかな? あのね、ここから……」
ニルズが素潜りで捕ってきたのは予想通り、ウニと牡蠣だった。
「うまいぃッ!!」
「アハハハ! おっちゃん、美味しい?」
「ああ、リリ殿下! スゲーよ!」
「新鮮だから何もつけなくても、美味しいね」
「ああ、もっととってくるわ!」
「おっちゃん、手が危ないから手袋するとか、ナイフ持ってくとかして! 入れる網もね!」
「ああ、そうだな! 領主様、待っててくれ。マジ美味いから!」
そう言ってニルズはまた潜った。
「殿下、私も!」
「シェフだめ!」
シェフは自分も服を脱ごうとしていた。
「ええー……どうしてですか?」
「シェフは作る人。とる人は漁師さん」
「殿下、今日だけです。私も見てみたいです」
「シェフが潜るなら、ボクも行く!」
「ええー! 殿下は駄目です!」
「でしょ? だから、シェフも駄目! ぶぶー!」
俺は手で大きくバツを作る。
「アッハハハ!」
リュカ、お前いつまで食べてるんだよ。
「じゃあ、殿下。私が行きます」
「オク! なんでだよ! じゃあって何なの!?」
「いや、私も見てみたいと」
「ダメ! ボクも潜りたいの!! 我慢してんの!」
「クフフフフ!!」
「リュカ、潜ってくる?」
「えっ!? いや、俺はいいです」
なんだよ、それ。ノリが悪ぃーな。
そうしている間に、ニルズが沢山入った網と一緒に船に上がってきた。
直ぐにシェフが捌きにかかる。
「凄い、大漁だね」
「ああ、今まで誰も捕らなかったからな。トゲトゲなんて、海底にビッシリとあるぜ」
「なんでだろ? なんでこんなに豊富なの?」
「殿下、ノール河ですよ」
「アラ殿、河……? あ、そうか。山の養分を運んできてくれるんだ」
「そうです。ですから、魚も大きくて美味いです」
「凄いなー。豊かな領地だ」
「さあ、皆さんどうぞ! 食べてみて下さい」
シェフが、牡蠣とウニをズラリと並べた。
「いたらきまーす!……うまっ! 何これ! ミルクみたい!」
俺が食べたのは、ミルズが殻を割れないと言っていた貝……
そう、牡蠣だ! オイスターだ! ちゅるんと食べたぜ。ウマウマ。しかも大きい。
ちょっと待てよ。
「おっちゃん、このトゲトゲさ、毒を持っているのもいるからね」
「……グフッ! なんだって!?」
あ、悪い。今、ウニ食べてたな。アハハハ。
「今捕ってきたのは大丈夫。でも、もっとトゲトゲが細くて長いのは、食べたら駄目だよ」
「そうなのか」
「うん。それとトゲトゲの近くに海藻はなかった?」
「お? いっぱいあるぞ。採ってくるか?」
「うん! いい?」
「ああ、待ってな」
また、ニルズは海へドボーン!
「うわ、信じらんない!」
ニルズがとってきた海藻はワカメに昆布だった。
「アラ殿、これ特産にできるよ!」
「殿下、そうなのですか?」
「うん! 凄いです! シェフ!」
「はい、殿下!」
「これ、真水で洗って、一口大に切ってミソスープに入れて!」
「え? それだけですか?」
「うん、それだけ!」
「殿下、こっちはどうすんだ?」
ニルズが滑っていて平べったい昆布を手に聞いてきた。
「これはね、干すの。干してスープの出汁にしたり、細かく切ってソイと砂糖で煮たりするの」
「殿下、出来ましたよ。どうぞ」
「シェフ、ありがとう!……美味しい! ホッコリするわー!」
あー、ワカメの味噌汁だぜ。異世界で飲めると誰が想像するよ! マジ、泣くよ?
「ブハハハ! 殿下、おっさんになってますよ!」
「うりゅさいなー! リュカ食べて!」
「殿下、うりゅ! りゅ! アハハハハ!」
「もう! いいから、食べて!」
「いただきます!」
ヤベ。ちょっと興奮して3歳の時の『ら行』の呪いが出ちまったぜ。
散々(リュカと)遊んで、港に戻ってきた。
「殿下、今日は大漁ですね」
「うん、シェフ凄いね。おっちゃんありがとう!」
「おう!まだ領地にいるんだろ? また、遊びに来な!」
「本当にいいの!?」
「ああ、いつでもいいぜ!」
「ありがとう!!」
「シェフよぉ、ちょっと頼みがあんだ」
「はい、何でしょう?」
「その、今日の料理をさ、教えてやってくれねーか?」
「もちろん、構いませんよ!」
「領主様、いいか? 女達に教えてもらいたいんだ。」
「ああ、構わないさ。何人でも邸に来るといい。良い特産物になるさ。」
「ありがとうよ!」
「シェフ、お弁当作ってくれたのに、ごめんなさい。」
「殿下、何を仰いますか。もう皆さんで全部食べられましたよ!」
「ええー! そうなの!?」
シェフのお弁当、いつの間に食べてたんだ? 俺、見てないんだけど!
そして俺は、オクソールに抱かれて部屋に連れて行かれた。
やっぱり、部屋に着くまでに寝てしまった。