88ーミソスープ
漁場について、静かに釣り竿を垂らしている。
皆、並んで釣り竿を垂らしている。
俺は、おっちゃんことニルズの隣を陣取っている。
誰が1番先に釣れるんだろ?
「ねえ、おっちゃん。これいつ掛かるの?」
俺もニルズも、海面に釣り糸を垂らしている。
「リリ殿下、今入れたとこじゃねーか」
「そう?」
「そうだよ」
「待てない」
「いや、待とうぜ?」
「そう?」
「ああ、そうですッ」
「で、まだ?」
「いや、だからさ」
「……! おっちゃん!!」
「だから、リリ殿下。待たなきゃ駄目だって」
「おっちゃん! 引いてる!!」
「えぇッ!? 」
「おっちゃん! これどーすんの!? 」
「マジかよ!? 待てよ!」
ニルズと掛け合いのよう様な事をしていたら、俺の竿に反応があった!しかも、これは大きいぞ!
ニルズが格闘してなんとか釣り上げた。
「オク! リュカ! 見て!!」
「どうよ!!」
ジャーーン!! と、音が聞こえてきそうな、ポーズで俺は魚を見せる。
て、言っても自分では大きくて持てない。実際に持ってるのはニルズだ。
二人して、腰に手をやりドヤってる。もうなかなかの、名コンビだ。
「殿下、もう釣れたんですか!? 」
「うん!」
ちょっと胸を張っちゃうぜ。
「早いですね」
「うんッ!」
もうちょっと胸を張っちゃうぜ。
「でも殿下、あっちを見て下さい」
「リュカ、何?」
俺はリュカが指差す方を見て驚いた!
「シェフ! 何それ!?」
「殿下! 大漁です!?」
マジかよー! シェフ、スゲーな!
シェフの後ろの水を張った容器には、大きな魚が何匹も入っていた。
「シェフ! 凄い! 凄いね!!」
「なんだ、そりゃ!? 信じらんねー!!」
ニルズまで驚いている。
そりゃそうだ。ほんの少しの時間で、どんだけ釣ったんだ!?
「シェフ凄い!」
「殿下、夕食は魚ですね!」
「夕食かぁ、フライがいいなぁ。ねえ、おっちゃん。これ、何てお魚?」
「これか? これはな、ツナスだ」
「ツナス?」
「ああ、クロツナスだな。脂がのってて美味いぞ」
ツナス……ツナ?
もしかして、マグロか!?
「おっちゃん、もしかして生でも食べれる?」
「えっ!? 殿下。魚を生で食べるなんて、聞いた事ないぞ?」
「そうなの? こっちのお魚は?」
これはどう見ても、ヒラメに鯛だろ。
「この平べったいのが、左ロンブス。こっちの淡いピンクのがパーゲルだ」
わかんねー! 何語だ? それ!?
いや、待てよ。もしかして……
「おっちゃん、もしかして右ロンブスもいる?」
「ああ、いるぞ! 左の方が数が少ないから高級だがな」
やっぱりだ! 左がヒラメで、右がカレイだな。
「ねえ、ねえ。シェフ。ツナス捌いて!」
「殿下、捌くとは?」
「切って! 三枚に!」
「殿下? 三枚に???」
「あのねー、鱗とって、頭落として、こっちからナイフ入れて……」
三枚おろし、説明したぜ!
途中からシェフが、俺の言う通りに魚を捌き出した。
流石、シェフだ。
初めてするのに、超見事に三枚にできた。
デカイから三枚おろし、て感じじゃないんだけどな!
「ねえ、黒い塩辛い液体の調味料てない?」
「殿下、良く知ってるなー! この地域でしか、使われてないのがあるぜ」
やっぱり!あると思ったんだ!
「なんて言うの?」
「ソイだ」
「豆から作る?」
「いや、大陸の南の方にだけある、ソイの木の実を絞るんだ」
ソイの木なんてあるのか!? 都合良すぎないか!?
「おっちゃん、もしかしてミソは?」
「あるぜ!」
「凄いッ! なんで此処にあって、帝都にないのー!?」
「殿下、それは美味しいのですか?」
「うん! シェフ、めちゃ美味しいよ! おっちゃん、ソイは今ある?」
「ああ、あるぜ。ミソもあるぜ」
「えー! 何で!?」
「単純に船でメシ作るからな。調味料はあるぜ」
何日もかけて辺境伯領まで来て、ホント良かったよ!
マジで! これが一番の収穫だよ! ご褒美だよ!
「おっちゃん! この、骨とアラでミソスープ作って!」
シェフには今捌いたマグロ、いや、ツナスを刺身にしてもらう。
ニルズには、ツナスの骨を出汁にアラで味噌汁を作ってもらった。
「殿下、マジで生で食べるのか?」
「うん! こうしてね、ソイを少しつけて……いたらきまーす!」
シェフとニルズが見ている中、俺は大きな口を開けてシェフが捌いたツナスの刺身をハグッと食べた。
「殿下、どうですか?」
「……んーー! シェフ、美味しいー!! めちゃ脂がのってる!」
思わず両手でほっぺを支える。
なんか涙が出るぜ!
まさか異世界で、マグロの刺身を食べられるとは、夢にも思わなかったぜ!
箸が欲しい! 刺身をフォークで食べるのは、日本人いや、元日本人としてなんか違う! ついでにわさびも欲しい!
「シェフ、おっちゃん、食べて! 食べて!!」
「殿下、では失礼して……」
まず、シェフがいった。
ワサビがあったら、完璧なんだがなー!
「これは……!」
「シェフ! どお? どお?」
俺は期待のこもったキラキラした目でシェフをジッと見る。
「殿下、なんですか、これは! 口の中で溶けてしまいます!」
「でしょー!?」
「え!? マジか!? じゃ、俺も……うめー!!」
「でしょー!!」
「殿下、三人で何してんスか?」
シェフとニルズと3人で騒いでいたらリュカがやって来た。
「リュカ、食べて!」
「え? えっ!? 魚!?」
「殿下、このスープも絶品です!」
シェフとおっちゃんが、味噌汁を飲んでる。
「あー! ボクも欲しい!」
「殿下! 殿下! なんスかこれ! 超美味いです!」
「でしょー! 美味しいねー!」
「殿下、何を……!?」
「オクソール殿、どうした!?」
なんとニルズが、おにぎりを持っていた!
なんでも、この地区だけの漁師飯みたいなものらしい。
「お貴族様が、こんな庶民の飯を知ってる訳ねーよ! ガハハ!」
と、言って笑ってた。
アラウィンとアスラールとハイク、オクソールが見に来た時には、俺とシェフとリュカとニルズで、おにぎりを頬張りながら、マグロの刺身と味噌汁をがっついていた。