87ーリュカ転ける。
「……んん〜……」
「殿下、おはようございます」
「ニル、おはよう……ふぅ」
モゾモゾとベッドをおりる。顔を洗って着替えをする。
まだニルに手伝ってもらうんだけどな。
「殿下、食堂に行きましょう」
「うん」
「どうされました?」
「うん。まだ昨日のことを引きずってて……」
「考えても仕方ないですよ?」
「うん。そうなんだけどね」
ニルと話しながら、ポテポテ歩く。
「殿下、おはようございます」
「アラ殿、おはようございます」
「殿下、午前中に釣りに行きませんか?」
「アラ殿! 釣りですか!? 行きたいです!」
「昨日の気分を変えて頂く為にも、是非」
「あぁ、はい」
思い出したじゃんか。
「アラ殿、釣りは海ですか?」
「ええ。船を出して、海釣りですよ」
「おぉー! 楽しみです!」
食堂に入ると、シェフが待ってくれていた。
「殿下! おはようございます!」
「シェフ、おはよう!」
「今日は、お弁当をご用意しますね!」
「えッ! 本当!? 」
「はい! 釣りに行かれると」
「うん! 行くよ!」
「私もお供します!」
「えぇ! シェフも!? 」
「はい! 大物釣りますよ!」
「えぇー! シェフには負けない!」
「では、朝はしっかり食べて下さい!」
「うん!」
海釣りかぁ……シェフには負けねー!
「うーみーだー!! スゴイッ! スゴイッ!! 海だー!!」
アラウィンに連れて来てもらって海に来た!
しかも船の上だ!
晴れ渡った青い空。どこまでも青い海。海面がキラキラしてるぜぃ!
絶好の釣り日和だ!
きっとこの景色は前世も一緒だ。多分な。
ぶっちゃけ前世では、船で海に出た事なんてないから分からん!
スゲーぜ! 前世でも海釣りなんてした事ない!
オクソールとリュカ、それに何故かシェフが一緒だ。
アラウィンとアスラール、側近のハイク。
それと船を出してくれたおっちゃん。えっとニルズだ。
ニルズは、この港を拠点にしている漁師達のまとめ役らしい。
グレーヘアーを超短髪にしていて、グレー掛かった茶色の瞳。
そう背は高くないが、陽に焼けた小麦色の肌。
漁に出ているからついたのであろう筋肉。
海の男! て感じだ。
50歳過ぎだろうか。
この年代の人がいると嬉しい。落ち着くねー。前世の俺と同年代だからな。
「ねーねー、おっちゃん! どこまで行くの!?」
「ぼっちゃん、おっちゃんはないぜ!」
「エヘヘ、だっておっちゃんじゃん!」
「アハハハ! ちげーねー!少し沖に出たら、良い漁場があるんだ。そこまで行くからしっかり捕まってなよ!」
「うん! わかった!」
船が動き出した。
波を押し分けるようにして、進んで行く。
「殿下、はしゃがないで捕まって下さい!」
「リュカ! リュカ! 見て! 鳥がいる!」
「本当ですねー。あの鳥の下に魚がいると言いますよね」
「そうなの!? 」
「殿下、手を! 転けますよ!」
「大丈夫だよ! あ! あーー! 転けるー!」
「だから言ってるじゃないですか! ほら、手を!」
「うん! アハハハ! キャハハハ!」
俺は船の揺れで、じっと立っていられなくてフラフラしている。笑いながら。
何がおかしいのか、自分でも分からんが。ハイテンションなんだよ。
とにかく笑いながらあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。
「殿下、何笑ってんスか!? ほら早く手を! アハハハ!」
「リュカだって笑ってるじゃん! キャハハハ!」
「殿下、捕まって下さい」
そう言ってオクソールに捕まえられた。
リュカが揺れでオタオタしてる。あいつ絶対に転けるぜ。人の事言えねーよ。
「オク! 凄いね! 海、きれいだね! 波がキラキラしてる!」
「はい、殿下。来て良かったですね」
「うん! オク! 捕まえてて! アハハハ! リュカ転けてるー!!」
とうとうリュカが転けた。面白すぎる!
「オク? にーちゃん、もしかしてオクソールさんか?」
「はい。そうですが」
「そうかい! あの上級騎士のオクソールか! スゲーな! おい!」
オクソールが、おっちゃんに背中をバシバシ叩かれてる。
おっちゃん無敵だな!
「いやー、噂通り男前じゃねーか! ん? て、事は殿下て、リリアス殿下か!? 」
「うん! おっちゃん。ボクはリリだよ!」
「ブフフ……! 殿下また言ってる!」
「リュカ! また笑ってる!」
「アハハハハ! 良い子だなー! 殿下か! そうか!」
「おっちゃん! だから、ボクはリリだって!」
「じゃあ、リリ殿下でいいか?」
「うん! いいよー! リュカー!!」
俺は転けてるリュカのところまで移動する。
「良い子じゃねーか! あんな事があったのに。ちゃんと笑ってるじゃないか」
「ええ、お強い方です。それに、誰よりもお優しい」
「そうか。しっかりお守りしてくれ。頼んだぜ」
「もちろんです」
「あの子はこの国の光だ。小さいのに背負わせるのは酷だが。元気に無事に育ってほしい。国民の願いだ」
「はい。大丈夫です。ちゃんと分かってらっしゃる」
「そうなのか!? 泣かせるねー! あんな小さい子供なのに」
「おっちゃん! まだ? まだー?」
「おう、もうすぐだ! まだ揺れるから、にーちゃんと捕まっときなよ!」
「はーい!! リュカ! 捕まってー! アハハハ! リュカ! ダサいー!」
リュカがまた転けた。何やってんだ、あいつは?
「殿下! 手を! 危ないですよ!」
「アスラ殿! 見て見てー! リュカがー! キャハハハ!」
「リュカ! お前何やってんだ!」
「アスラール様! 1度転けたら立てなくなってしまって!」
「アハハハ! リュカ、ダサいぞ!」
「アスラール様まで、酷いです! 殿下をお願いします!」
「ああ! 大丈夫だ! お支えしてるから! 安心して転けてなさい! アハハハ!」
「えぇーー!! 」
「キャハハハ! リュカ! 安心して転けてなさーーい!!」
俺は、超ご機嫌and超ハイテンションだ!
「ニルズ、急にすまないな」
「領主様、どうって事ないさ!」
「ありがとう」
「いや、こっちこそだ! あのオクソールさんと、リリアス殿下に会えるなんて、嬉しい事だ!」
「そうか。そう言ってくれると助かるよ」
「リリアス殿下、良い子だねー。泣けてくるわ」
「ああ。本当に。あんなに小さいのに。聡い良い子だ」