86ー嫉妬かよ!
俺たちは部屋に戻ってきた。
やっと戻ってきた。もう疲れたよ。
「ニル、りんごジュースちょうだい」
「はい、殿下。お疲れですね」
「オクもリュカも座って。ニル2人にお茶お願い」
「はい、殿下」
りんごジュースをもらう。
ニルがお茶を出してくれる。
俺はりんごジュースを一気飲みだよ。
「もう、ね。お手上げだよ……コクコクコク…… 」
「本当にムカつきますよねー! なんスか、あの薬師!」
「いや、リュカ。お前もだよ」
「へ? 殿下。俺なんもしてませんよ? ニル様、いただきます」
「いや、言ったじゃん。許せないとか、謝れとか」
「ああ、言ってましたね」
「オクもじゃん!」
「そうでしたか?」
ハァ……もう知らないよ。
「殿下、そんなにですか?」
「うん、ニル。そんなにだったよ。レピオスも珍しく切れてたし、側近のハイクがケイアをぶっちゃった」
「まあ! でも彼女の良い話は聞きませんからね」
「え? ニル、何か知ってるの?」
「いいえ。ただ、メイド達が色々話してくれましたから」
「そうなんだ」
「辺境伯様と婚姻するつもりだった様ですよ」
はぁ!? なんだと!?
「ニル、何それ!? ボクは全然知らないよ!? 」
「え? 殿下、知らないんですか?」
「何!? リュカも知ってたの!? 」
「殿下、邸では誰もが知ってます」
「オクも!? 」
「なんだよそれ!? ボク、知らないよ!? 」
もうこの三人はみんな揃って天然かよー!!
「ニル、その話、教えて」
もう、早く言っておいてくれよー。
「子供の頃にご両親が亡くなって、引き取られた事はご存知ですね?」
「うん。アラ殿から聞いた」
「アラウィン様は、泣いてばかりいるケイア様を、慰めておられたそうです。ご長男でらっしゃる事もあって、他のご兄弟より責任を感じておられたそうです。」
ニルのメイドネットワークでの調査結果だ。
ケイアはアラウィンのそういう対応を、いつの頃からかまるで自分が婚約者の様に振る舞うようになったそうだ。実際に、自分が当然婚姻するのだと、言葉にもしていた。
しかし、アラウィンには、ケイアが引き取られる前からの婚約者がいた。今の奥方だ。子供の頃に決められた婚約者だが、二人仲睦まじい。
二人共、ケイアの事は兄妹の様に大事にしていたそうだ。
それでも、ケイアはアラウィンが最後には婚約破棄して、自分を選んでくれる。ヒロインは自分だと訳の分からない事を言いふらしていたらしい。
婚姻前の奥方に、酷い事もしていたんだと。
奥方にいじめられたとか、ドレスを汚されたとか。そんな類いの嘘をアラウィンに涙ながらに吹き込んで、奥方を嫌いになるように仕向けたりした。まあ、メイドが言うには、嘘だと丸わかりだったそうだが。
しかし現実には、アラウィンは揺らぐ事はなく二人は婚姻し今も仲睦まじい。それで、ケイアはどんどん捻くれていったそうだ。
なんだそりゃ!? 訳わからん、て感じだ。
普通に性格悪いじゃん。
「それって、完全にケイアの勘違い? 独りよがり?」
「そうなりますね」
「辺境伯様も、色々お話しされたり、諭したりされた様ですが」
「なんだよ、それー」
「まあ、何と言いますか。殿下は間が悪いと言いますか」
「リュカ、それちょっと違う」
本当に、なんだよそれー! だわ。
「あぁ、そうだ。ニル。フィオン姉さまの耳には入らない様に気をつけてね」
「はぁ……殿下。無理かと」
「え? なんで?」
「私達が気をつけても、邸の者達が話をしたらどうしようもありませんから」
「え、そんなに?」
「はい。ケイア様のことは皆……」
「えぇー、マジ!? 」
「領主隊でもそうですよ」
「リュカ、そんなに?」
「はい。皆、関わりになりたくないようです」
「ねえ、ニル。どうしてそこまでになるの? アラ殿が何かした訳じゃないんでしょ?」
「そうですね……嫉妬、でしょうか?」
「でも、ニルの話だと、勝手に勘違いしたんでしょ?」
「そうなりますね」
「じゃあ、アラ殿悪くないし。夫人も気の毒と言うか」
「ええ。ですので、アスラール様もアルコース様も、出来るだけ避けておられるようです」
「そうなっちゃうよね……」
「まあ、平和で円満なところに、一人鬱陶しい馬鹿なのがいる。て、感じですか」
「リュカ、酷いね」
「クククッ……」
オクソール、笑うなよ。
お前も偉そうに、謝れ、て言ってたよ?
どうすっかなぁ~。
いっその事、帝都に連れて行くか?
いや、でもなぁ。
薬師としては優秀なんだよな?
「ニル、薬師としてはどうなの?」
「イマイチだそうです」
「はぁっ!? なんだって! じゃあなんで、まとめ役をやってんの!? いいとこないじゃん!」
「彼女より古い者がいないから、らしいです」
ここにきて、まさかの年功序列かよ!
「ボク、帝国はどこも実力主義だと思ってたよ」
「帝都はそうですね。陛下がそうですから」
「オク、ここだって同じ国だよ?」
「殿下、それは遠い皇帝より、近くの領主です」
「なんだよ! オク、じゃあアラ殿が悪いんじゃん」
「殿下、誰が悪いとかではなく」
「そうだけどさぁ」
「強いて言えば、勝手に勘違いして、勝手に嫉妬して、勝手に捻くれているケイア殿が悪いかと」
まあ、そうだわな。オクの言う通りだ。
モテる男は辛いねーて、ヤツかよ!?
「もうボク知らないよ」
「殿下」
「だってオク、ボクはまだ5歳だからね。そんなの分かる訳ないじゃん」
「え? いやいや殿下、今迄普通に話をしてましたよね?」
そうなんだけどね。
ここにきて、まさかの5歳児発動だよ。
「リュカ、ボクはわかんないの」
「殿下、それは無理ですよ」
リュカ、こんな時ははっきり言うんだね。分かってるよ。
「殿下、夕食に参りましょう」
「はーい」
あぁー、面倒だわー。