表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/442

83ーマロンパイ

「シェフ、美味しい〜!」

「そうでしょう!! 殿下、沢山食べて下さい! あ、皆様も食べて下さい。私と料理人達の力作ですから! さ、どーぞ、どーぞ!」


 場の空気をぶった切って現れた、シェフの持ってきたおやつを食べている。めちゃ美味い! 俺も場の空気を無視しておやつを頬張っている。

 シェフ特製のマロンパイだ。

 調理場の皆と色々やっているらしくて、仲良くしてるみたいで良かったよ。

 大学芋も教えたから、いつ出てくるか楽しみだ。


「殿下、りんごジュースですよ」

「リュカ、ありがとう。……リュカも食べよ?」

「あー……はい。まぁ、その……」


 まあ、この空気じゃあ無理だわな。


「皆さん、ひとまず休憩です! せっかく焼きたてを持ってきてくれたのですから、食べましょう!」

「そうですわね! リリアス殿下の仰る通りですわ。さぁ、貴方達も座ってちょうだいな。いただきましょう」

「奥様、紅茶をお持ちしました」

「まあ、有難う」


 アラウィンの勇気のある側近が、紅茶を出してくれた。

 名前、なんだっけ? と、じっと見てしまった。


「リリアス殿下、ハイク・ガーンディと申します。ご挨拶が遅くなりまして、申し訳ございません。お見知り置き下さい」

 

 ニコッと人当たりの良い笑顔を見せる、アラウィンの側近。

 ハイク・ガーンディ。

 マロン色の短髪に茶色の瞳。

 濃い奴が多い俺の周りで、珍しく穏やかそうな奴だ。

 だが、俺は油断しないぞ。

 クーファルだって、見た目は穏やかそうだからな。本性は腹黒なのに。


「リリ? 何か悪い事考えてたかな?」

「兄さま、まさか! 兄さま食べて下さい。兄さまが食べないと、皆食べられません!」

「リリ、そうだね。甘いもの食べて、一度空気を変えよう」

「はい! 兄さま! ハイク、ありがとう!」

「いえ、殿下。こちらこそ、有難うございます。」


『ケイアは悪気はないのです。ただ、言葉を選ばないと言いますか。間違って選ぶと言いますか。天然と言いますか。申し訳ございません』


 ハイクが俺にだけ聞こえる様に、耳打ちしてきた。


「うん、分かった。ありがとう」

「とんでも御座いません。宜しくお願いします」


 ニコッ……て。

 やっぱこいつも侮れないぞ。

 宜しくお願いされちゃったじゃねーか!


「シェフ! もう1個ちょうだい!」

「はい! 殿下!」

「ハハハ。リリ、美味しいかい?」

「はい! 兄さま! リュカ、食べてる?」

「はい、殿下。いただいてますよ。美味しいです!」

「オク、甘いの食べないなら、ボクがもらうよ?」

「いえ、殿下。美味いです。シェフ、これは先日とってきた栗か?」

「はい、オクソール様。そんなに甘くしてないので、栗の風味が際立って美味しいでしょう? 皆の試行錯誤の結果です!」


 おー!! 先日とってきた栗で思い出したぜ!


「あッ! 兄さま! 大変な事を忘れてました!」

「ん? リリどうした?」

「フィオン姉さまです! これ、パイ持って行かないと!」

「リリ! 忘れてたよ! 大変だ!」

「殿下、大丈夫ですよ。ちゃんとニル殿が持って行かれましたよ。」

「シェフ、本当? 良かった〜!」

「リリ、ニルに助けられたね」

「ええ、兄さま。本当に!」

「先程、ルー様もアイスとパイを持って行かれましたよ」

「やっぱ、ルー行ったんだ」


 て、言うかさ。アイスやパイをどこに持って行くんだ?



 さて、仕切り直しだ。

 シェフは満足気に去って行ったしな。


「ケイア、あなた一緒にいってらっしゃい。5歳のリリアス殿下でさえ行かれるのよ。あなたも一緒に行って、少しは役に立ってきなさい」


 おいおい、辺境伯夫人よ。

 空気を変えた意味なくなるじゃねーか。


「夫人、待って下さい。無理強いしたら意味ないのです」

「リリアス殿下。でもケイアはいつも籠ってばかりで、このままだと皆との溝が広がるばかりで」

「夫人、だからこそです。リリに任せてみませんか?」

「クーファル殿下。分かりました。申し訳ありません」


 いや、俺に任されても困るんだ。

 クーファル、俺5歳だよ? 分かってる?


「リリ、続けて。」

「兄さま……」

「殿下、大丈夫です。お願いします」

「レピオスまで……んー、えっと。ハッキリ言っちゃうけど」


 言いながら、周りを見渡す。

 知らないよ? 5歳児に任せたクーファルが悪いんだからな。


「ケイア、色々聞いたんだ。全部真に受けてる訳じゃないけど、ポーションや薬湯を依頼されてるのに、忘れる事があるって本当かな?」

「そんな! 忘れるなんて!」

「間違ってる? そう思われる事はなかった?」

「私は研究の手が離せなくて、つい遅くなってしまっただけで! 遅くなってもちゃんと納品してます!」


 ケイアは言い訳をする。


「あの、宜しいでしょうか?」


 遠慮気味に手をあげたのは、領主隊隊長だ。名前なんだっけ?


「殿下、領主隊のウル・オレルスと申します。領主隊の意見をお話しさせて頂いても宜しいでしょうか?」


 領主隊隊長、ウル・オレルス。

 アッシュの短髪に栗色の瞳。

 ガッシリした体躯の、見るからに戦士だ。


「ウル。此処まで来る間沢山お世話になったのに、お名前知らなくてごめんなさい」

「殿下! 何を仰います! とんでもございません!」

「領主隊のみんなには、とっても良くして頂いて。楽しかったです!」

「ハハハ、皆も殿下の事は可愛いくて仕方なかった様です。次は自分も馬にお乗せしたいと、もう煩くて」

「本当に? じゃあ、こっちにいる間にまたお願いと、言っておいて下さい!」

「畏まりました。喜びますよ。殿下、領主隊の皆の意見ですが。」


 現場の意見だ。領主隊の意見を聞こう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ