82ー鈍い?
「リリは、父上が何代目かは知っているかい?」
「はい。24代です」
「そうだね。今まで何人か60歳の譲位前に亡くなっているけど、初代と先代が同じ55歳で早くに亡くなっておられる。まさか先代が亡くなられたのは、魔力が尽きたのが原因だったとは」
日本の天皇て何代だっけ? 126代だっけか? 桁が違うよな。
「ま、魔力が尽きても直ぐにはどうこうはないさ。この世界にある魔素との親和性がなくなるんだ。言ってみれば、極度の虚弱体質になる感じだ。それで、体力がなくなり、抵抗力もなくなり、簡単な病も命取りになる」
「ルー、父さまは転移門を直したりはしなかったの?」
「魔力が足らないんだよ。前に言っただろ? 大樹に花を咲かせたのは、初代とリリだけだと。転移門を使える魔力はあっても、修復するだけの魔力はないんだよ」
ん? て、事はだな?
「ルー、ボクは直せる?」
「ああ、リリだと余裕だな。まあ、直すと言うより、アップデートすると考える方が良いな」
俺、できんのかよ! マジか!
「リリ、マジだ!」
「クーにーさま!」
「リリ、考えている事は分かるけどね、軽はずみにする事じゃないね。父上に相談しないと」
やっぱそうだよな〜。
「はーい、兄さま」
思わず『クーにーさま』なんて呼んでしまったぜ。
まあ、クーファルに任せよう。
「そのスタンピードの後にな、森の中にも魔物避けを設置したんだ。だけど、急拵えで簡易的なものだったから、もう風化しちゃったり壊されたりして無くなってるだろ? そっちも考える方がいいと思うよ」
「ルー様、森の中にですか?」
「ああ。今の領地みたいにな。等間隔で何本か建ってたよ」
「そう言われてみれば、あった様な……設置するのは、しかし、なかなか大変な作業です」
「まあな。だけど、後の事を考えると違うよ?」
「そうですね。良い機会なので、長期計画で考えます」
「うん。それが良い。で、リリ。森に入るのか?」
「うん。今回の、かぶれや発熱の原因を解明しなきゃ」
「そうか。何かあればすぐに呼ぶんだよ。思うだけでも僕には伝わるからさ」
「うん、分かった。て、やっぱどっか行ってるんじゃん」
「リリ、加護があるんだから分かるさ」
「ま、いいけど」
「オクソール、リュカ。何かあれば、迷わず獣化しなよ。手遅れにならないうちにな」
「ルー様、分かりました」
「はい! 分かりました!」
なんだよ、手遅れって何だよ。そんな事今迄言った事ないのに。
フラグたてるの止めろよなー。
「リリ、今回は魔物が相手だからね。用心するに越した事はないんだ」
「ふ〜ん」
「じゃ、僕は皇帝に報告に行ってくるわ」
「報告て、ルーなんにも知らないのに」
「リリ、僕は精霊だよ?」
「分かってるよ?」
何だよ、今更。
「全部知ってるさ。リリが美味しいと言って食べてた栗の事もね」
なんだそりゃ!? 食べたかったのか?
シェフに言ったらきっとまだあるぜ?
「リリ、本当に?」
「うん。シェフに聞いてみたら? アイスもあるんじゃない?」
「おう! やったね! じゃ、何かあったら直ぐに呼ぶんだよ!」
ポンッとルーが消えた。
きっとシェフのとこに行ったんだ。
ルーは精霊だから、食べなくても良いんじゃなかったっけ?
あとは、手袋とマスク代わりの被り物(?)がまだなので、その完成を待って出発する事に決まった。
さて、同行すると知ったら彼女はどうするだろう?
やっぱ、怖いかな?
「アラウィン様、私がですか……?」
アラウィンの執務室で、ケイアに同行の話をした。
まあ、びっくりするよな。
もちろん、クーファルと側近のソールも一緒だ。
調査の予定も話しておきたかったので、領主隊隊長と副隊長もいる。
後は、オクソールにリュカ、レピオス、で辺境伯の側近だ。
「ああ、ケイア。そうだ。ケイアだけじゃない。他にも薬師は同行する」
「そんな……なぜ私が?」
「ケイアは、領都から一度も出た事がないだろう? もしも、魔物が領都に入ってきた時の予行演習だと思って同行しなさい」
「え? そんな、魔物が入って来る筈ないじゃないですかぁ。何を……」
「失礼、ケイアと言ったか」
あ、クーファル怒ってるぞ。
顔は微笑んでるが、雰囲気が怖くなったぞ。
「はいッ、クーファル殿下」
「魔物が入ってくる筈ないと、何故言える?」
「そんな、当たり前ですぅ。フフ」
ん……? なんだ?
「何が当たり前だ?」
「え? クーファル殿下。だってぇ、魔物が領都まで来る筈ないですよ。今迄見た事もありませんからぁ」
んん……!?
「君は……」
「クーファル殿下、申し訳ありません。私が。私に話させて下さい。私の責任でもあります」
「辺境伯、そうか」
あー、まさかケイアがこんな風に思っていたなんて。
しかも、この人なんだ? 肝が据わってるのか? それとも、鈍いのか? 単純に馬鹿なのか?
俺は今の雰囲気のクーファルに、そんな言い方できないわ。
「ケイア、魔物が入ってくる筈がないと、言ったな。何故そう思う?」
「えっ? だって、アラウィン様。今迄入って来た事ないじゃないですか」
「しかし、魔物はすぐそこの森にいるぞ」
「え? だから領主隊がいるんでしょう? なんの為にいるんですかぁ?」
あれ? なんだ? この話し方。
さっきクーファルと話している時も、引っ掛かったんだ。
それに、いくら子供の頃から一緒に育ったと言っても、アラウィンは領主だぞ?
これは、勘違い野郎か?
あれ? ちょっとイラッとする。
「リリ……」
あ、クーファルに読まれた。
苦笑いされたよ。顔に出てたか?
「「クフッ……」」
おい、オクソールとリュカ。
この状況で笑うなよ。
「ケイア、まさか君がそんな風に思っていたとは。親を魔物に殺された君が」
「アラウィン様、それは。父は前領主様の代わりに……」
――バンッ!!
「失礼致します!」
おふッ! ビックリしたよ〜!
フィオンかと思ったわ。
心臓に悪いわー。
辺境伯夫人のアリンナ登場だ。
やっぱこの人フィオンに似てる!?
「殿下! おやつお持ちしました!」
おおふッ! 出たよ。
もう一人空気を読まない奴が。
シェフ、流石だな!