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81ー負い目

 スタンピード

 建国後、何度かスタンピードが記録されている。

 ノール河を渡り、魔物の大群が押し寄せてくる。何が原因かはわかっていない。

 俺も、クーファルも生まれる前の事なので、現実味がない。

 しかし、過去には実際に起こったことだ。


「帝国史で学んだ程度しか知識はないが。たしか、数百もの魔物が一斉に河を渡ってきたと記憶している」


「そうです。当時父はこの邸におりました。父の弟は、すぐ隣の街を管理しておりました。冷静に考察していれば、前兆はあったのかも知れません。しかし、当時は気付けなかった。気付いた時には、もう魔物は河を渡りこちら側の岸から目視できる距離まで来ていたのです。

 すぐさま帝都に応援を要請し、騎士団を派遣して頂きました。当時は、初代皇帝が設置された、帝都の城とこの邸を結ぶ転移門が使えました。騎士団の数百人を送る為に、前皇帝は転移門に何時間も魔力を流し続けて下さった。それが原因で、前皇帝は倒れられ1週間も意識がなかったと聞いております。

 そうしてまで、騎士団を送って下さったお陰で領地は無事でした。もちろん、領主隊も出動しました。

 その際に、父の弟が指揮を取っていたのです。父は、領地を治めて行かなければならない。だから自分が前線に出ると言って。

 領地や領民は無事でしたが、領主隊は何十人も被害が出ました。その中に、父の弟がいたのです。後を追う様にケイアの母親も病で逝きました。兄弟のいないケイアは、一人になったのです。

 父は自分を責めておりました。ケイアを引き取り、自分の子供と同じ様に育て、それでも負い目があったのでしょう。私はそれを見て育ちました。自分で気付かぬうちに、私も父と同じように負い目を持っていたのでしょう。

 リリアス殿下にはご迷惑をお掛けして、大変申し訳ございません」


 アラウィンは頭を下げた。

 アラウィンの気持ちは分かる。分かるが……


「辺境伯、それならば尚の事、このままではいけない」


 クーファルの言う通りだ。


「リリ、話せるかい?」


 俺? 俺が話すのか?


「兄さま……」

「構わない。思っている事を話しなさい」

「ボクが聞いたのは、騎士団や使用人が依頼した薬湯やポーションを忘れると言う事です。今までは、たまたま運良く大事にならなかっただけです。

 魔物討伐に出るのに、十分なポーションがないと言う事は、領主隊の命に直結します。

 もしも、病で苦しんでいる人がいるのに、薬湯を忘れているとどうなりますか? 命に関わります。

 研究を否定しているのではありません。研究も未来の為に必要な事です。しかし、ポーションや薬湯を忘れても良いものではありません。それで、もし命がなくなる事があれば、後悔するのは彼女です。

 命を救うことより優先される研究などありません。

 研究で籠っているのでしょう。現実を見てもらわなければ。実際に領主隊の隊員たちがどんな事をしているのか。何故ポーションが必要なのか。自分の目で見てもらうのが一番だと思います。

 今回は領主隊だけでなく騎士団も一緒です。良い機会だと思います。

 他の薬師も同行しますし、ボクのような子供も行くのです。大丈夫です」


 そして、クーファルが続けて言う。 


「このまま放置すると、近いうちに非難の声が出てくるだろう。非難だけならまだ良い。もしも取り返しのつかない事でも起きれば、手遅れだ」


 クーファルの言う通りだ。


「クーファル殿下、リリアス殿下、有難うございます」

「では、同行させると言う事で良いな?」

「はい、殿下。宜しくお願いします」


 良かった。きっと良い経験になるさ。

 それより、ちょっと気になるワードがあったよな。


「アラ殿、転移門てなんですか?」

「それは僕から説明しよう!」


 ポンッと光ってルーが現れた。


「あ、いいでーす。アラ殿に聞きまーす」


 と、俺は、いらないと片手を出した。


「リリ、酷い!」

「だってルーどこに行ってたんだよ。なんにも言わないでさ」

「リリー、ごめんよ〜!」

「いいけど!」

「じゃ、説明しよう!」


 はいはい。またドヤッて、良いとこ持ってくつもりだろ。


「リリ、僕は分かるからね」

「はーい」


 ルーは、俺の心の声を読めるんだったわ。ミスったわ。


「転移門だね。初代皇帝がこの邸と、自分がいる帝都の城とを、行き来しやすい様に設置したんだ。魔力を流すと、予め設置したところに瞬間転移できるんだ。今話していた、スタンピードの時に壊れちゃったんだけど。この邸の地下と、城の地下にあるよね」


 そんなのがあったのか。俺は全然知らなかったぞ。


「ルー、なんで壊れたの?」

「先代の皇帝が騎士団を何百人も一度に送ったからだ。そんな人数を送る為の物じゃなかったんだ。

 前に言っただろう? 初代同士が仲良かったって。単純に、二人が行き来する為に作った物だったからね」


 ふ〜ん。なんか聞けば聞く程、初代皇帝て凄いな。


「ルー様、何故壊れたままなのでしょう?」

「クーファル、知らないのか?」

「はい、私はなにも。転移門の事も過去の資料として読んだだけで」

「そうか。何百もの騎士団を送ったから、前皇帝の魔力が尽きたんだ。だから先代は早逝だった」


 マジか!?


「ルー様! では先代が亡くなられた原因は、この領地を助けた為ですか!? 」


 あー、そう思うよな。ちょい、キツイかな。


「おい、辺境伯。勘違いするなよ」


 お……ルーがマジモードだ。


「ルー様……」

「領地ではない。帝国を救う為だ。先代が自分で選択した事だ」


 そっか。帝国を守る為か。

 ルーて時々凄みを利かせるよな。白い小さな鳥さんなのに、目がキランて光る気がするよ。


「兄さま、初代はおいくつで亡くなられたのですか?」

「リリはまだ勉強してなかったかい? 55歳だ」

「そっか……」


 俺、54歳で亡くなったと思ってたよ。ちゃんと勉強しなきゃダメだね。


「皇帝位はね、60歳か遅くても65歳で譲位する事になっているんだ。それも初代が決めた事だよ。いつまでも年寄りが治めるのは良くないとね」

「そうなんですか」


 まるで日本の定年制度みたいだな。


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