80ー荒療治
「……ゴクンゴク……」
昼寝の後のりんごジュースは美味いぜ。
いつも美味いけどな。
味覚は今の身体に引っ張られてるよな。
りんごジュース大好きだし。前世はどうだったか覚えてないけど。
「殿下、レピオス様とオクソール様、リュカは直ぐに来られるそうです」
「うん、分かった」
「……ふわぁ~……アフ……」
「あら、まだ眠いですか?」
「ううん。ちょっと気疲れ?」
「薬師の件ですか?」
「まぁ、ね……うん」
――コンコン
ニルがドアを開けた。レピオス達が来た。
「殿下、クーファル殿下も直ぐに来る様にと仰ってます」
「そう、ニルありがとう。ちょうどいいや。レピオス、オク、リュカ行こう」
「はい、殿下」
「殿下、私達もですか?」
「オク、当たり前じゃない」
「リリ、どうしたんだ?」
「兄さま、ご相談なのです。アラ殿にお話する前に、兄さまに聞いて頂こうと思って」
クーファルの部屋には、クーファルと側近のソールがいた。
俺は薬師達の話をした。
「私も同じ事を聞きました」
「レピオス、そうなの?」
「ええ、殿下。それと、彼女の性格でしょうが言葉が少しきつい様ですね」
「ああ、それは領主隊でも言われています」
「え? オク、そうなの?」
「はい、忘れておいて偉そうだと」
「えぇ~……」
「殿下の件で弾みがついたと言うか……」
「リュカ、なんか表現が変。ズレてる」
「え? 殿下、そうですか?」
「うん。リュカ時々あるよね。ニルの天然と似てる」
「「……!! 」」
なんでニルと2人でガーン!! て顔してんの?
「ククク……」
「オク、笑ってるけどオクもだよ?」
「……!! 」
また、オクまでやめて。その顔は。
「何より忘れるのは良くないね」
「兄さま、そうなんです。あってはならない事だと思います」
「そうだね、城だと減俸処分だね」
減俸か……それもいいなぁ。
「リリは何か考えがあるんだろ?」
「はい、兄さま。荒療治なんですが。領地の現状と、命の価値を分かってほしいので」
「どうするんだい?」
俺はクーファルに考えを話した。
「……うん、確かに荒療治だね。悪くはないけど、邪魔にならないかな? オクソールどうかな?」
「薬師の1人位どうにでもなります」
まあ、オクソールったら! このイケメン!
「レピオスはどう思う?」
「はい、クーファル殿下。今迄の意識を変えるのは、そう簡単にできる事ではありません。リリアス殿下が仰る位の事は、必要なのではないかと思います。
最初は調査ですし、他の薬師も同行します。そう危険もないでしょう」
「そうか」
「兄さま。兄さまはどう思われますか?」
「私かい? 私なら……そうだね、有無を言わせないかな。忘れるなんて、職務怠慢だよ。いくら知識があっても、私ならいらない」
うん、俺には優しいから忘れてたけど、クーファルはそんな奴だった。
そうだ、王国に乗り込んで黙らせた奴だもんな。
「じゃあ、ソール。辺境伯の都合を聞いてきてくれるかな?」
「はい、畏まりました」
ん? あれ? 今ニルと目配せした?
なんだよ、意味深だな。
「ニル、もしかして……また?」
「え? 殿下、また? ですか?」
もう、やだこの子! 本当やだ!
「え? 何? 兄さまは知ってたのですか?」
「ん? リリ、何かな?」
「兄さま、ソールとニルです!」
「ああ、まぁね。ソールはちゃんと話すからね」
「ほら。ニル、聞いた? ちゃんと話すって!」
「殿下、それはまた後で」
「もう! ニルて本当そういうとこあるよね!」
「殿下、すぐに来られる様にと」
「ソール、有難う。じゃあ、リリ、皆も行こうか」
俺、思わずソールをじっと見ちゃったよ。
俺の大事なニルに手を出すなんて!
チャラく見えるけど、手も早いのかよ!
「リリアス殿下、どうされました?」
「ソール、なんでもない! ニルはボクには何も言ってくれないから!」
「え? 殿下?」
「ソールいいの。また後でニルに聞くから」
「ハハハ、リリはヤキモチかい?」
「兄さま!」
「さ、行くよ」
「はい……もう!」
ニルはまた大きいのをやらかしたよ。
「クーファル殿下、リリアス殿下どうされました?」
アラウィンの執務室だ。
部屋にはアラウィンと側近だけだ。
「辺境伯、例の薬師の事で提案があるのだが」
「クーファル殿下、ケイアの事でしょうか?」
「ああ。調査に彼女を同行させよう」
「殿下、それは……理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」
アラウィンが驚いている。だよな、普通は驚くよな。
「辺境伯、彼女がどう思われているか、知らない筈はないと思ったのだが?」
「クーファル殿下、どうとは……?」
「本当に知らないと? それは、私には信じられないね」
「クーファル殿下」
駄目だよ。クーファルの目は誤魔化せないさ。
「良いかな? あなたはこの地で領民の、いや、帝国民の生活を、命を守っておられると、私は信じている。今回の件を放っておいて良いはずがない。分かるか?」
「殿下……申し訳ございません。私の甘えでございました」
「やはり、気付いていたか」
クーファル怖い。絶対に敵にまわしたくないタイプだ。
俺なら、当たり障りなく提案て形で話するね。
クーファルは直球だもんな。
「あれは、ケイアは、私の父の弟の忘れ形見なのです。子供の頃に、父親を魔物に殺されました。私の父は、その事を死ぬまで悔やんでおりました。もっと早くに、魔物の動きに気付けていたら、ケイアの両親は殺されることはなかったと。それを私はいつの間にか負い目に感じておりました。それが間違っていたのです。不甲斐ないことでございます」
「魔物に殺されたとは?」
「殿下はご存知ありませんか? 30年前のスタンピードを」
スタンピード……俺が生まれる前の出来事だ。