8ー証拠
そして、翌日父がやって来た。
「リリアス! 元気になったかい?」
俺は馬車から降りてきた父に向かって走り出した。
「とーさま!」
おぉっとー、つい3歳児のノリで抱きついてしまったぜ。
そして俺は軽々と父に抱き上げられた。
「リリアス、走ったりして大丈夫なのかい? 顔色は良くなったね。リリアスの母様も心配しているよ。上の兄様達もだ」
「はい。早く元気になって帰ります!」
「ああ、みんな待ってるよ」
「はい! とーさま!」
「陛下」
「オクソールか。調べはついたのかな?」
「はい、ご報告が御座います」
「今回は皆が一緒の方が良いのかい?」
「イズーナ皇女殿下とフォラン皇女殿下もお呼び頂けます様」
「そうか……」
「はい、陛下」
なんだ? 空気が変わったな。
俺は父に抱っこされたまま、滞在している皇家所有の別邸に入っていった。
別邸の1階にある応接室、まあ客間みたいなもんだ。スッゲー広いけどな。
俺は父の横に座らされている。所謂お誕生日席だな。
父の右側に、テュール第3皇子、フォルセ第4皇子。
皇子達の向かいの席にイズーナ第2皇女、フォラン第3皇女が座っている。
この皇女二人、本当に1度も見舞いに来なかったな。
今も二人共、俺と目を合わそうとしない。俺って、嫌われてる?
イズーナ第2皇女
第1側妃の娘で16歳。赤茶髪の癖毛に茶色の瞳。
両方の横の髪を丁寧に編み込んでいる。
猫目で可愛いと言うより美人系か。
フォラン第3皇女
同じ第1側妃の娘で13歳。赤茶髪の癖毛を高い位置でツインテールにしていてリボンをつけている。茶色の瞳。
こいつなんでさっきから俺を睨んでくるんだ?
俺はこの皇女二人の色味にホッとするよ。
今迄、金髪とかブロンドとか、前世では有り得ないブルー掛かった髪とか目がチカチカするわ。ま、俺もなんだがな。
俺なんてグリーンブロンドだぜ。K・POPかよ! て、突っ込みたくなるね。
「皆、元気そうで良かったよ。もう直ぐ学園の新学期が始まるからね。テュール、フォルセ、イズーナ、フォランは明日私と一緒に帰るんだよ。リリはもう少しここで静養していなさい。さて、オクソール。リリが湖に落ちた件の調査報告を頼むよ」
ああ、そう言えば調査しろと言ってたなぁ。父に言われ、オクソールが一歩前に出て話し始めた。
「はい、陛下。リリアス殿下が湖に落ちられてから、周辺及び湖の中も調査致しました」
湖の中!? 潜ったのかよ!? 湖の水は冷たいぞ。それにまだ肌寒いぞ。
「結果、湖から此方を発見致しました」
オクソールが、ハンカチに包んでいた物を父に見せた。それは確かに俺が言ってた、黄色のリボンの飾りだった。
薄く透ける様な生地で出来ている。この生地はチュールとか言うんだっけ? 俺が引っ張ったからだろう。リボンの裏側が少し破れている。
そっか、これだけ薄い生地だから俺の力でも取れたのか。
「父上、私達も見せて下さい」
「テュール、そうだね。コレだそうだ」
オクソールは、持っていたリボンをテーブルの上に置いてた。
正に、『シーーーン』とはこの事だな。
部屋の中の音が全て消えた様な静けさになり場が凍りついた。
どうした? なんでだ? もしかして皆見覚えがあるのか?
そんな空気を無視してオクソールは続ける。
「リリアス殿下、仰ってらした黄色のリボンの飾りとは、此方で間違いないですか?」
「うん、オク。よく見つけたね。大変だったでしょう?」
「湖の中程に浮かんでおりました」
「じゃあ、ボク落ちた時に、はなしてしまったの?」
「その様です。殿下、私に話して下さった事を、今此処でもう一度お話して頂けますか?」
なんの事だ? 話した事?
「オク、なに?」
「殿下、あれです。ドン…… 」
ああ、俺が湖に落ちた時の事だね。
「ああ、ありぇ。えっとね。ドンッ! ガシッ! ブチッ! て、なったの。」
「リリ? 意味が分からないよ?」
父よ、そうだろ? だがオクソールは読み解いたんだよ。
「殿下、ドンは何処にでしたか?」
オクソールが、俺に聞きながら話を進める。
「ドンッ! はね、背中。ドンッて」
両手で押すジェスチャーをする。
「では殿下、ガシッは?」
「ガシッ! てつかんで、ブチッ! てとりぇた」
片手で掴むジェスチャーをする。
「それから殿下、どうでしたか?」
「んとね、あーっ! てなってドボーン! ブクブクブク」
ブクブクブクと、沈んでいくジェスチャーをする。
「……リリ、それは本当かい?」
「はい、とーさま。覚えてました」
「オクソール……」
「陛下、レピオス殿をお呼びしたいのですが」
「レピオスか? 構わない。呼んでくれ」
なんだ? あの医師か? 関係あるのか?
「失礼致します。陛下。私からも、ご報告せねばならない事が御座います」
なんだなんだ? なんか変な雰囲気になってきたな。
「レピオス、手間を取らせるね」
「とんでもございません、陛下。私は、湖に落ちてまだずぶ濡れのリリアス殿下を診察致しました。まず細菌感染の予防と、お身体を洗浄する為に殿下に湯船に浸かって頂きました。湖の冷たい水で体温も下がっておられましたので、体温を上げる為でもございます。その際、殿下のお身体の隅々までチェック致しました」
そんな事してたのか! しかし思ったよりしっかり医学が確立しているじゃないか。細菌感染の知識があるんだな。
下がった体温を上げる為に湯に浸けるのも理に適っている。なのに何であの原始的な薬湯なんだ?
「殿下の、右手の指先と爪から生地の繊維と思われる物が絡まって付着しておりました。それが此方です」
ハンカチに包んだ物を見せた。見るからに上質な生地の繊維。しかも黄色だ。
「そして、よっぽど力一杯付き飛ばしたのでしょう。リリアス殿下の背中に、拳大のあざが出来ておりました」
そーなのか!? 知らんかった! まあ背中だから見えねーけどさ。
「恐らく、両手で思い切り力任せに付き飛ばしたのでしょう」
怖いねー。こんな無害な可愛い3歳児を殺そうとするなんて。なんてヤツだ!
「力任せに突き飛ばして、手を傷めませんでしたか?……フォラン皇女殿下」
なんだと……!?