79ー薬師達
「殿下、薬草は分かるのですが、何故お酢や唐辛子が虫除けになるのですか?」
虫除けの液体を作りながら、薬師の一人が聞いてきた。
「あのね、お酢には抗菌や殺菌作用があるんだ。だから虫除けだけじゃなくて、草木の病気にもいいよ。あんまりかけすぎると良くないけど、腐っちゃうから。
唐辛子はね、害虫や害獣が嫌う食べ物で匂いも嫌がるんだ。この嫌う成分は水にとけないの。でもお酢やアルコール、油にはとけるんだ。だから先にお酢とこうして混ぜる」
そう説明しながら、容器をシャカシャカ振る。
「ほぉ〜! 知りませんでした。」
「そう? 何だったかな? どっかのご本に書いてあったよ」
「殿下は何でも物知りですね!」
また、別の薬師が話しかけてくる。
もちろん皆手は動かしている。
「そうかな、ご本が好きだからかな?」
嘘、前世の知識です。ごめんね。
和やかに作業は進む。
今朝話していた面倒な事も忘れていた頃だ。
「殿下、あの……最初に来られた時に、ケイアさんが失礼をしてしまって。申し訳ありませんでした。もう、殿下は来て下さらないかと思ってました」
出たよ。やっぱ話が出たよ。
「どうして? ボクは気にしてないよ? 気にしないでとも言ったのに」
「殿下、そう言う訳にまいりません」
「なんで? ボクが良いて言ってるのに」
「その……殿下の事がきっかけになってしまったみたいで」
「ん? きっかけ?」
「はい。以前からケイアさんに反感を持っていた人達にとってのです」
「え、そんな感じなの?」
「はい。そうなんです。申し訳ありません」
「あら……そうなんだ。ねえ、なんで? どんな反感をかってるの?」
「殿下にこんな事をお話しても……」
「ああ、もうしてるじゃん」
「申し訳ありません。あの……実は、ケイアさん研究の方がお好きで……」
「うん、それで?」
「それで、領主隊やお邸の使用人が、薬湯やポーションを頼んでも、忘れてしまう事が時々あって……」
「え! それだめじゃない」
「そうなんです。せめて、私達に伝えてくれていれば代わりに作るのですが、それさえも忘れてしまうんです」
「だめだよ、命にかかわるよ?」
「そんな大事ではないのですが……」
いや、たまたま今迄は運良く大事にならなかっただけだろ?
いくら研究が好きでも、それは薬師としてどうなんだ? 命は最優先だぞ?
「んー、辺境伯は知ってるのかな?」
「なんとなくだと思います」
「そうなんだ。でもそれは薬師としては、してはいけない事だよ。命に関わる事は最優先だよ。それは絶対だ」
「はい、殿下」
「みんなもだよ? 薬師は命に直接関わるお仕事なんだ。命は最優先だよ。絶対に忘れちゃいけない。特にここの領主隊の人達は、自分達の危険も顧みず魔物討伐に出ている。そんな状況なのに、もしポーションがなかったらどうなるの? そうなった時に、1番後悔するのはケイアだ」
なんなんだ。この世界の人達は人の命を軽く見過ぎだ。ムカつくなー。
「それはだめだね。見過ごせないや。ん? でも薬師の皆をまとめる立場だよね?」
「はい。ケイアさんが1番古いので」
「それだけ?」
「後は知識が1番あります。研究が好きなので。でも魔力量は多くはないので、ポーション類はいつも私達が作ります」
「え? そうなの? じゃあ、本当に研究してるだけ?」
「いえ、薬湯は作れます。知識もあるので、ケイアさんの作った薬湯は良く効きます」
「そっか……」
んー、どうしたもんか……。
「殿下、こんなお話をして申し訳ありません」
「え? ああ、気にしないで。言ってくれてよかったよ」
「殿下……!」
ん? なんだ? みんなそのウルウル目はやめよう?
「そうだ、みんなは領地から出た事あるの?」
「いえ、ありません。普通は滅多に出ません」
「そうなの?」
「はい。貴族は別です。帝都に行かれたりしてますから。平民は冒険者にでもならない限りは。あ、あと領主隊ですね」
「そっか。ケイアも?」
「はい。彼女は余計に出ません」
「どうして?」
「此処だと好きなだけ研究ができますから。ほとんど籠っています」
なんだよ、それはー!
んー、荒療治するか? でもなぁ……
まあ、レピオスとオクソールに相談しようかな?
「殿下、そろそろお昼ですよ」
「レピオス、もうそんな時間? じゃあ、後は午後だね。みんなもお昼ゆっくり食べてね」
「はい、殿下。有難うございます!」
「殿下、どうされました?」
「うん……ちょっと相談がある。オクソールも一緒に」
「ケイアの件ですか?」
「うん。出来ればアラ殿にも聞いてもらいたい。」
「では殿下。先ずはクーファル殿下に」
「うん、そうだね」
だが俺は昼を食べたらお昼寝さ。
だって眠くなるんだから仕方ないさ。
5歳児だからね。
だんだん寝てる時間が短くはなってるんだよ。
まあ、小学校入る位の歳には寝なくなるだろう? 多分。
「……ふぅ……」
「殿下、お目覚めですか?」
「うん……ニル。りんごジュースちょうだい」
俺はヨタヨタとベッドからおりてソファーに座る。
りんごジュースが置かれた。
「殿下、レピオス様がお待ちです」
「……レピオスが? なんだっけ?……ゴクン」
「殿下、例の薬師の」
「……ああ、そうだった。レピオスに部屋に来てもらって。あ、それと兄さまのご都合も聞いてきてほしい。オクとリュカも呼んでほしい」
「はい、お待ち下さい」
ニルが部屋の外に声をかけた。