76ーフィオン襲来
「リリ!」
あ……しまった。
やべ、忘れてた。ピンチだぜ! フィオンの襲来だぜ。
「リリ! 次は姉様も呼んでくれると約束したでしょう!? 」
「姉さま! すみません! 今食べ出したとこです! 姉さま、あーんしてください!」
これで機嫌なおしてくれー!
「え? えっ!? リリ?」
「はい、姉さま、あーんです! ボクが食べさせてあげます!」
どうだ!? 頼む!
「え、え……あ、あーん……まあ、美味しい」
「でしょ? でしょ、姉さま! 美味しいですよね!? 」
「ええ、リリ。美味しいわ! 今度は姉様がリリに食べさせてあげるわ。」
「姉さま!……あーー……ハフッ、おいしいー!!」
あざとく両手で頬を押さえてみる。
もちろん、少し首を傾げるのも忘れないさ。
「フフフ、リリは本当に可愛いわね」
よし! セーフだ! 乗り切った! 心の中でガッツポーズしたぜ!
「えー、ボクより姉さまの方がずっと可愛いです! ね、アルコース殿!」
ちょうど良いところに、アルコースがいたよ!
あれ? よく見ると、クーファルとオクソールも食べてるじゃん!?
いつの間に! 食べながら、遠巻きに見てるんじゃないよ! リュカなんて口一杯に頬張ってるじゃん!
「えっ!? アルコース殿!? 」
「ハハハ! フィオン様は、リリアス殿下と話されている時は別人の様ですね」
おい! アルコース、余計な事言うんじゃないよ。
俺の頑張りが無駄になるじゃん!
「まあ、アルコース殿。そんな事ありませんわ」
「そうです、アルコース殿! 姉さまは、いつもとっても可愛いです!」
「リリ! やめて!」
「姉さま、どうしてですか? 本当の事ですよ?」
わざとらしく、首をコテっと傾げてみる。
どうだ? これでクリアだろ?
「「「ブフッ!」」」
こら、そこの三人。クーファルにオクソールにリュカ。笑ってんじゃないよ!
俺は今めっちゃ頑張ってるんだよ!
「クーファル兄さま、美味しいですか?」
さっさと逃げよっ!
クーファルが抱き上げて、膝に座らせてくれる。
「リリ、よくやった!」
「エヘヘ、めちゃ頑張りました!……ハフッ」
「ククク……!」
「オク、笑わない!」
「クハハハッ!」
「リュカ!」
「だって殿下!」
「フィオン様とアルコースは、仲が良いのでしたか?」
アスラールが、ポテトがのったお皿を手にやってきた。
「アスラール殿。どうもフィオンは、アルコース殿に憧れているみたいでね」
「兄さま、あれは憧れですか?」
「リリ、お前はまだ子供だから分からないんだよ」
「えぇ〜! だってボク今良い事しましたよ?」
「まあ、それはよくやった」
「でしょ、兄さま!」
「ハハハ! リリアス殿下は大人ですね」
「アスラ殿、笑いながら言ってはだめです!」
「ハハハハハ! しかし、アルコースがフィオン様とは」
「あれ? だめですか?」
「リリアス殿下、そんな事はありませんよ。この辺境の地にはもったいないです」
えっ!? そこまで考えてなかったわ。
仲良くなればなぁ、て程度だったわ。
「リリ、だから子供だからと言っただろう?」
「はい、兄さま。黙って食べてます。」
「ブハハハ、殿下。お子ちゃまですから、こっちで一緒に食べましょう!」
「リュカー! お子ちゃま言わないー!」
「アハハハ!」
「……んん〜……ん、ニル?」
「はい、殿下。お目覚めですか?」
俺は昼食も食べずに、あのまま寝てしまったよ。
ポテトフライ食べて満腹になったら眠気が襲ってきて耐えれなかった。まだ5歳だ。
「うん、お喉かわいた」
「りんごジュース飲まれますか?」
「うん、飲む」
ヨイショとベッドからおりてソファーに座る。
「ねえ、ニル。ボク、どうやってお部屋に戻ってきたの?」
「オクソール様が抱いて来られましたよ」
ニルがりんごジュースを出してくれた。
「そっか……ゴクン」
「また調理場で食べてらしたとか」
「うん、そうなんだけど。姉さまが途中で来たんだ」
「まぁ!」
「ビックリしたよ。もう、めちゃピンチだった」
「どうされたのですか?」
「姉さまにね、あーんしたの」
「プフッ……」
「ニル、だって本当にピンチだったんだ。もう必死だったの」
「そうですか……フフフ……!」
「でね、途中でアルコース殿が来られたの」
「アルコース様はフィオン様の……」
「そうなんだよ。ニル、知ってたの?」
「はい、姉から聞いてました。なんでも、アルコース様の卒業式で、フィオン様が泣かれたとか」
「うん、らしいね。救世主だよ」
「フフフフ!」
「ニル、本当に笑い事じゃないよ? ボク、必死だったからね。」
「はい、すみません。面白すぎて」
「ニル、酷いね。リュカも笑うしさ」
「リュカはいつもですね。殿下、昼食を食べられなかったので、シェフがパンケーキをご用意しているそうですよ。」
「本当!? 食べる!」
「はい、お待ち下さい。」
ニルが部屋のドアを開けた。
……いたよ、シェフが。流石、シェフだよ。
期待を裏切らない男だよ!
「殿下、お目覚めですか?」
「うん。シェフごめんね、昼食食べれなかった。」
「いいえ! とんでもございません! 代わりにパンケーキをご用意しました。栗を潰したものを付けてます。こちらでしか手に入らない蜂蜜をたっぷりかけてお召し上がり下さい」
「わー! 凄い! 美味しそうだ!」
俺は口一杯に頬張った。
あれだよな、来る途中で言ってた魔物が集める蜂蜜だよな。
「んー! 美味しい! 何この蜂蜜。めちゃ濃厚でまろやか!」
「それは良かったです」
んー、そう言えば……
「ねえ、シェフ。アイスクリームは知らない?」
「殿下、ア? アイス?」
「アイスクリーム」
「さあ、存じませんが。殿下、どんな?」
「あのね、ミルクと卵とお砂糖を、まぜまぜまぜまぜして凍らせるの。」
「殿下、詳しく!!」
「え? えっとね…………」
そうか、アイスもまだなかったか。
やっちまったかな? ま、いいか。
ここはミルクも卵も新鮮で美味しいと言ってたから、美味しいアイスが出来るだろう。期待しておこう。