72ー収穫
そして俺はアスラールの馬に乗せてもらって果樹園へ。
アスラールの側近セインと、オクソールとリュカも一緒だ。
邸の裏側が少し丘になっていて、一帯が果樹園になっている。
正面から邸を出て、回り込んで行かなければならないので馬で移動する。前世だとチャリで行く距離だな。
「気候が良いので、気持ち良いですね!」
パッカパッカと馬はゆっくりと進む。
「そうですね、帝都より南にありますから暖かいですね。冬でも雪は降った事がありませんよ」
「そうなのですか? 帝都の冬は寒いです」
帝都は冷えるんだよ。冬の間、こっちにいたい位だな。
果樹園の中の道を馬で進む。
「アスラ殿、これは桃ですか?」
「はい、殿下。まだ実がなっていないのに、よくお分かりですね」
「葉を見ると桃かなと思いました」
「葉ですか?」
「はい。葉は汗疹に良いので使った事があります」
「汗疹にですか? それは知りませんでした」
「桃の葉のエキスを少し薄めて使うと良いですよ」
城でも使っているが、前世では意外とポピュラーだった気がするんだ。
小児科限定なのかな?
赤ちゃんのオムツかぶれや、汗疹に使ってた人がいた記憶があるんだが。
「これは……柑橘類ですよね? 何だろう?」
「よく柑橘類だと分かりましたね?」
「だってアスラ殿、実がなってるし匂いがすっぱいです」
「ハハハ、そうですね。これはリモネンですよ」
おお、前世のレモンだ。
「リモネンの奥がオロンジュです。その隣が紅茶に香り付けするベルガモです。あとは、ユノス、マージョラムですね」
「おおー! すごい豊富なんですね!」
「ええ。初代辺境伯の頃から栽培してます。ユノスは食べ物に絞って使います。マージョラムは精油として使います」
「ユノス……」
もしかして、柚子の事か? 実ってるのはまだ青いけど。
「アスラ殿、ユノスはもしかして黄色い小さい実で香りのいいものですか?」
「ええ、その通りですよ。ご存知でしたか?」
「はい。でも帝都にはないと思いますが。シェフは知ってるのかな? お魚料理が少ないから知らないかも」
「殿下、魚料理に良く合う事もご存知で!? 」
「はい。ボクは香りとか好きです。リモネン程すっぱくないし」
「そうですか! では、今年は収穫したら殿下にお送りしましょう」
「本当ですか!? 嬉しいです! あ、でも……」
「どうしました?」
「収穫の頃にまた来たいです!」
「ええ! 是非!! いつでもお越し下さい!」
「ありがとうございます! エヘヘ」
「このまま下って畑も見てみられますか?」
「はい! ぜひ!」
桃にレモン、オレンジ、ベルガモット、柚子、マジョラムだよな。
スゲーな。色々あるんだ。
前世と同じ物を見つけると嬉しくなるね。
んッ!? ちょっと待て!!
「アスラ殿! 待って下さい! 止まって!」
「殿下、どうしました!? 」
「あれ! あれです! アスラ殿、あっちです!! 」
俺は果樹園の丘の外れを指さした。
「うわっ! 凄い! たくさん落ちてる! 大っきい!!」
アスラールが、近くに移動してくれて、馬から下ろしてくれた。そこからダッシュだ!!
「殿下! 危ないです! 転んだら刺さりますよ!! 」
「アスラ殿、これ、これ! 栗ですよ! 栗!! 」
「そうですよ。ご存知でしたか。しかし、棘と皮で食べ様がないのです」
なんでだよー!! そこは伝わってないのか!?
食べ方が1番肝心なとこじゃないか!
「オク!」
「はい、殿下。どうしますか?」
「あのね、両方の足の先で、開ける様に踏んでみて」
俺はトゲトゲの栗を、小さな両足で挟んで説明する。
「開ける様に……こんな感じですか?」
オクソールが俺の真似をして、両足でトゲトゲを踏む様にして割れ目を広げる。
「そうそう! じょうず! リュカ!」
「はいはい。中身を取るんですね?」
「うん! でも棘に気をつけて! 挟むものがあればいいんだけど」
「はい、殿下。取りましたよ」
リュカがイガからとった栗を渡してくれる。
大きくてツヤツヤしていて立派だ!
「ほぉ〜! リュカありがとう! 大っきい〜! もっと取って持って帰ろう!」
「殿下、どうなさるのですか?」
「アスラ殿、美味しいの!!」
「美味しいのですか?」
「うん! スィーツにしても、甘く煮ても、そのまま焼いても美味しいです!」
俺がアスラールと話している間にオクソールとリュカがどんどん収穫してくれている。
アスラールの側近がどこからか袋を持ってきてくれた。
「すごーい! オクもリュカもじょうず!! ボクもやりたい!」
「殿下、棘が危ないです」
「オク、じゃあボクがふむ!」
フンスッ! 絶対やるからな! て、顔をしてみる。
「仕方ないですね。気をつけて下さい。リュカ、殿下が踏むから実を取ってくれ」
「はい! 殿下、できますか?」
俺は小さな足でトゲトゲを挟みこむ。
「リュカ、できるよ!! ぐ、ぐ、ぐにゅ……できた!」
変に力が入ってしまったぜ。
「クハハ! 殿下、その手は何ですか!? 」
足に集中して、栗の棘の割れ目を広げようとすると、一緒に手に力が入ってしまって、ペンギンみたいになってしまった。
我ながら5歳児、融通きかねーな。リュカに笑われちゃったよ。
「リュカ! 笑わない! 真剣なの!!」
「はい! 殿下……クフフフ!」
「ククク……!」
「あー、オクも笑わない!」
「え、笑ってませんよ? クフッ!」
「ほら、笑ったー!! リュカ、こっちも取って! 手、気をつけて!」
「はい、殿下! めっちゃ落ちてますねー!」
「うん! 豊作だ! しかも大っきいー!! めちゃ立派!」
「ハッハッハッハッ! 殿下、嬉しそうですね?」
「アスラ殿! 嬉しいです! 絶対美味しいですよ……え、えっ!? 」
マジか……!? ちょっと待てよぉ!!