70ー辺境伯領ならでは
「何これ!? 大っきい!」
俺は鶏舎に来ている。そう、鶏舎だ。
なのに中に飼われている鶏擬きは何だ? 超デカイ!
2種類飼われていて、大きい方は1メートル位ある。
「殿下、ホロホロヤケイとレグコッコです。知らないんですか」
知らねーよ! なんだよそれ?
鶏のでっかいのがそう言う名前なのか?
「全然知らない!」
「茶色で大きい方がホロホロヤケイで、肉が美味いです。
白くて一回り小さいのが、レグコッコで、卵が美味いです。
飼ってるんですね。凄く珍しいです。なんせ、両方とも魔物ですから」
「そーなの!? シェフが卵が新鮮て喜んでたけど、もしかしてこの卵なの?」
「はい殿下。きっとそうですね。卵、濃厚で美味しかったでしょう?」
「うん。美味しかった……」
「これはまた、立派ですね!」
「ね! レピオス凄いよね! 城でも飼えばいいのに!」
「殿下、それは無茶ですよ。こいつら魔物ですから」
そうだけどさ、でも実際に飼ってるじゃん。
「だめ?」
「はい、殿下。民間人にはキツイですよ?」
「えっ!? そうなの!? 強いの!? 」
「強いと言うか……こんな魔物を見る事さえありませんから。普通に飛び蹴りして来ますし。辺境伯領ならではだと思いますよ?」
「ひょえぇ〜!! 飛び蹴り!」
スゲーな、辺境伯領!
料理人も強いのか!? 俺は初めて見たよ!
「おや、殿下。こんな所でどうされました?」
「シェフ! シェフこそ何やってんの!? 危ないよ!」
シェフがヒョコッと鶏舎の中から顔をだした。
大きな卵が入ったカゴを手に持っている。まさか……
「シェフ、卵とってたの?」
「はい、そうですよ。殿下はどうされました?」
出たよ。やっぱシェフ無敵だよ!
「見に来たの。シェフ、それ魔物だよ? 大丈夫なの?」
「ああ、この程度の魔物は大した事ないですよ。ちょっと威圧を放てば一発です。もし向かってきても、蹴りを入れたらいいだけですから」
「……ひょえぇ〜!!」
「ブハハッ!!」
「オヤツに美味しいプリンを作りますからね! 楽しみにしていて下さい! ではッ!」
行っちゃったよ。シェフ、走り去って行ったよ。
「なんなの? シェフは無敵なの?」
「本当にシェフは分かりませんね〜。クフフ」
レピオスまで笑ってるよ。
リュカはとっくに腹抱えて笑ってるけどな。
「リュカ、行こう」
「はい、殿下。向こうも見てみますか? クククッ!」
「リュカ、本当に笑いすぎ」
「だって殿下、シェフ最高ですよね!? 」
「なんかもう、気持ちが疲れちゃった」
「ブハハッ!」
「殿下、こんな所にいらしたのですか?」
アスラールが邸の方からやってきた。
「アスラ殿、見てまわってました」
「変わったものはありましたか? 特に何もないでしょう?」
「えっ!」
「はい?」
「アスラ殿、あれ魔物ですよね?」
と、俺は鶏舎を指差す。
「ああ、そうですね。でも大した事ありませんよ? ほら、殿下のシェフも平気ですから」
「クフフフフ……!」
リュカ、笑い過ぎだ。
本当にこの子は、オクに似てきたよ。
「ボクは初めて見ましたよ?」
「ああ、帝都にはいませんからね。殿下、あちらにもいますよ」
アスラールの指差す方を見ると牛舎がある。
あそこにも魔物がいるのか?
「アスラ殿、見てみたいです!」
「そうですか? 別段、珍しくはないのですが。行きますか?」
「はい!」
「デカイ!!」
今度は牛舎に来ている。
そうこっちも超デカイ!
大きい方は2メートルはあるかな? スゲーな!
「赤褐色と黒褐色の大きい方がオータウロスと言って肉が美味いです。
白と黒のブチの少し小さい方がミルタウロスと言ってミルク用ですね。
昨日、シェフが嬉しそうに絞ってましたよ」
「……はあ〜! 凄い!!」
「そうか、どちらも帝都にはいませんね」
「いませんよ! 凄いです! もう何もかも!!」
「ハハハ、殿下。有難うございます。私達にとっては普通なのですよ」
「はぁ〜! 凄い!」
「おや? あれはケイアですね。あんなに急いでどうしたんでしょう?」
アスラールが見ている方、邸の方を見ると、確かにさっきの薬師が慌ててやってくる。
どうしたんだ? 精製できないとか? まさかな?
「ハァ、ハァ、ア、アスラール様!」
「どうした、ケイア。何をそんなに急いでいるんだ?」
「も、も、申し訳ありません!!」
ガバッと頭を下げた。
なんだ? この人読めないなぁ。
「どうした? 言ってみなさい」
「はい、アスラール様。私はリリアス殿下にとんでもない事を! 失礼をしてしまって!!」
はぁ〜!? 何だよ?
「殿下、申し訳ありません」
「アラ殿、どうしました? 何かあったのですか?」
ケイアと言う薬師の後からアラウィンがやってきた。
いきなり謝られても意味が分からない。説明してくれよー。
「殿下、ケイアが大変失礼をした様で、申し訳ありません」
そう言ってアラウィンまで頭を下げる。
「アラ殿、やめてください。何ですか? 説明してください。」
「殿下、先程の事ではないですか? ケイア殿が信用されなかった……」
「はぁ? そんな事より、作業を早く進めてほしいと言ったよ?」
「いえ! リリアス殿下! 私は大変失礼な態度をとってしまいました! 申し訳ありません!!」
「あの……それよりも精製の方は?」
「あ、はい! 進めています!」
「じゃあ、いいよ。アラ殿も気になさらないでください」
「いや、殿下。そう言う訳にはまいりません。いくら信じられないからと言って、この帝国の第5皇子への対応ではありません。ケイアは外しますので」
ああー、もう。そう言うの嫌なんだよ。
俺にはどうでも良い事なんだ。
「アラ殿、ケイアでしたっけ? その人が優秀なのなら外す必要はありません。ボクは本当に気にしてないんです。早く軟膏を作って現地に行きたいのです。原因がまだ分からないのですから。だから、やめてください。時間の無駄です。ね、レピオス」
「まあ、殿下はそう言う方ですね。しかし……」