69ー薬師ケイア
「殿下、作り方と材料ですが」
「うん、レピオス。書いてまとめてきたよ」
そう言って1枚の茶色っぽい紙を渡す。
俺とレピオスは、邸の薬師に作り方を教える為に調薬室に来ている。
城ほど人数はいないが、初代同士が仲が良かったせいか城の医療体制とそう変わらない。
魔物討伐がある分、怪我も多いのだろう。
ポーションが沢山並んでいる。
何故、茶色っぽい紙なのか……白い紙はまだまだ高価なんだよ。
まあ、紙があるだけマシさ。
手袋と被り物(?)はオクとリュカが手配してくれている。
「拝見致します」
俺とレピオスが教える相手、辺境伯お抱え薬師だ。
ケイア・カーオン。なんと女性。
グレーの瞳に、茶色のロングヘアーを後ろで無造作にゆったりと一つに結んでいる。
前世だとアラフォーと言われる位の歳かな?
この世界でも女性が活躍しているのは、嬉しいね。
「材料はこれだけなのですか?」
「はい、そうです」
「……レピオス様、凄いです。よく思いつかれましたね。私、目から鱗です」
「いえ、考案者は私ではありません。殿下ですよ」
「……またまた。そんなご謙遜を」
まあ、いいけどね。俺、5歳だし。
まさか俺とは思わないよね。
「いえ、本当に。それは殿下が書かれたものです」
「そんな……子供に分かる訳……」
あん? 子供て言ったか? まあ、子供だけどな。
ケイアは、俺が渡したメモと俺と交互に見てる。
ま、信じてくれなくてもいいさ。
それより、早く作ろうぜ。
「ケイアだっけ? 材料はあるかな?」
進まなくて、焦ったくなった俺は聞いた。
「は、はい。殿下……失礼しました」
だからさ、早く作ろうぜ。
まだ見比べてるよ。動こうぜ。
「ケイア殿、作りましょう。数を作りたいので」
そうそう、レピオスの言う通りだ。
さっさとしようぜ。
なんせ俺は領地を案内してもらうんだ。
早く終わりたいんだよ。
「……あ、はい。レピオス様、すみません。薬草庫から持ってきます」
と、言ってケイアは指示を出す。
「ねえ、ハーブを持ってきてちょうだい。
ティーツリーとラヴァンドラ。ユーカリプタス、ペナルゴニウム、ユージノールね。お願い」
うん。そうパキパキやろうね。
「蒸留釜はどこかな?」
「……」
だからさ、返事してね。頼むよ。
「ケイア殿!」
「……あ、はい! レピオス様、すみません。彼方の部屋にあります」
ケイアは隣の部屋を指さした。
「じゃあ、あちらに行きましょう。殿下」
「うん。レピオス」
「あ、あの! 本当にこれをリリアス殿下が?」
なんだよ、おかしいか? しつこいな。
「殿下……」
「うん、レピオスいいよ。気にしない」
「だって、そんな! 信じられません……! 子供がこんな……!」
「ああ、良いよ。信じなくても構わない。誰が考えたかじゃなくて、大切なのは効果だからね。さ、行こう。さっさと作ろう」
俺は部屋を移動する。……が、レピオスが珍しく怒ってる?
「ケイア殿、殿下に対してなんて無礼な! こんな嘘を言う訳がないでしょう? もし私が考案したものだとしても、それを偽って殿下に何の得がありますか? よくお考えなさい。皇子殿下に対して、その様な態度をとるなら、この仕事から今すぐ外れなさい」
「……!も、申し訳ありません!!」
平伏しちゃったよ。
もういいから、さっさと作ろうぜ。
「水蒸気蒸留法は知ってるよね? それで其々抽出しといてくれる? それからだね」
「はい! 分かりました。」
「ああ、お水も精製しておいてね」
「はいッ!」
「じゃあ、おねがい」
「はい!!」
なんだかなぁ……やり難いな。
俺とレピオスは部屋を出る。
成分をまず抽出しないと何もできないしね。
て、言うか会話にならないしね。
淡々と進めよう。その内慣れるだろう。
女性が活躍してるのは、嬉しいんだけどな。
しかしなぁ、あれはどうなんだろう。
「殿下、申し訳ありません」
「え? なんでレピオスが謝るの?」
「ですが、失礼を」
「気にしない。普通は信じられないんだろうね。だって5歳だもん。作れれば良いから気にしないよ。その内慣れてくれるよ。それにボクは女性が活躍してるのは、嬉しいしね」
「殿下、すみません」
いいの、いいの。
そんな事どうでもいいんだよ、俺は。
「だから、気にしないって。それよりレピオス。裏庭に行きたくない?」
「裏庭ですか? 昨日、行かれてませんでしたか?」
「うん、行ったんだけどね。全部見れなかったの」
「そうでしたか。そんなに広いのですか?」
「うん! スッゴイ広いよ! ビックリした!」
「おや、そうですか。行きますか?」
「うん! 行く!」
早く行こーぜ!
「殿下、お供します!」
「リュカ、早く行こう!」
リュカの手を引っ張って裏庭へ急ぐ。
「殿下、そんなに見たいのがあったんですか?」
「違うよ、リュカ。昨日は結局あの5本の樹しか見れなかったでしょ? だから他も見たいんだ」
「どこから見ますか? 俺、案内しますよ」
「え? リュカがなんで? 案内できる程もう知ってるの?」
「殿下、当たり前じゃないですか! 昨日のうちに、オクソール様と全て回ってチェックしましたからね」
「リュカ、見直しちゃった」
リュカ偉いじゃん! そっか、暇友じゃないもんな。護衛だもんな。
「え? 殿下は俺をどう思ってらしたんですか? スゲー嫌な感じなんですけど?」
「クフフ……」
「あ、レピオス様。その笑いは何ですか? 俺、これでも殿下の従者兼護衛ですよ!」
そうだった。従者だった。すっかり忘れてたな。
「エヘヘ。」