67ー誇り
「辺境伯だったか。あの会議で言っていた樹はこれだよな?」
「はい、ルー様。あの時にお話しておりました、光の樹です」
やっぱ、皆ルーには様をつけるんだよな。俺は、また短い人差し指立てて言っちゃおうか? ん? 言っちゃうよ?
「アラ殿、アリンナ様、ルー様じゃないです。ルーです。ボクのお友達なので」
「まあ! 殿下は光の精霊様とお友達ですのね!? 」
「殿下のお友達は凄い方なのです。私共は畏れ多くて」
「ハッハッハ! リリ、畏れ多いってさ」
「むむむ……もう、いいよ。それよりルーは此処にいたの?」
「リリが今この樹に触れただろ? だから来たんだよ」
「やっぱり……いなかったんじゃない」
ジトッとルーを見る。
「まあまあ。それよりさ、この樹は初代が植えたものだからね。大事にしなよ」
なんだよ。いきなり凄い情報をブッ込んでくるな。
「初代皇帝がですか!? 」
そりゃ、アラウィン驚くよ。て、みんな驚いてるよ。
「あれ? 皆知らなかった? クーファルも?」
「はい。ルー様。知りませんでした。初代が残した文献は、全て読んだつもりだったのですが。どこにもそんな事は……」
「そうか? でも本当だよ。初代皇帝と、初代辺境伯がお互いの絆の証に植えたんだ」
「お互いの絆……!」
アラウィン、感無量か……? 無理もない。
ルーは続ける。
こんな時は少しだけ精霊らしいなと思う。
「建国当時は今より魔物が多かった。この地は特にな。初代は、ここを辺境伯一人に背負わせる事に、戸惑いがあったんだ。しかし、初代辺境伯は『任せろ! 守ってみせる!』てな。
『だから初代皇帝は、帝都で帝国民の為に頑張れ!』て。その二人の絆の証だ。以前も話したが……
『初代が植えたら、たちまち大樹になって花を咲かせた』
て、伝説があったろ? あれはこっちの樹にも起こった事だ」
ええー! マジかよ! なんだよそれ!
「でも、たちまち大樹になって花を咲かせた、ていうのはこっちも違うよ。もう成木だった樹を、森から持ってきてこっちに植え替えただけだ。花を咲かせたのは本当だけどね。この樹が二人の思い出の樹なんだ」
「そうだったのですか……初代辺境伯は私共の祖先ですが、その様な事はなにも残っておりません」
「辺境伯、二人にとっては公に残す事でもなかったんだろう。私的な思い出だからな」
「ルー様。もしご存知なら、その思い出を教えて頂けませんか?」
「ああ、構わないよ」
軽いな。ルー、自慢気だな。調子にのるなよ?
「さっきも言ったけど、あの当時は今より森が広かったんだ。そして魔物も多かった。帝国として纏まってはきたものの、魔物の被害が絶えなかった。
だから、初代皇帝が辺境伯と一緒に、魔物討伐に乗り出したんだ。魔物は、澱みがあると活性化されて多くなるのは知ってるか?」
「はい。昔は辺境伯領内のノール河沿岸に、大きな澱みが幾つもあったと、文献に残っております」
「クーファル、よく勉強しているな。その通りだ。魔物同士がやり合って、勝った方が負かした魔物を食うだろ? その死体を放っておくと、それが澱みになる。
初代は帝国内の澱みを浄化し、魔物を討伐する事から始めたんだ。広範囲の光属性魔法でな。帝国が光の帝国だと言われる由縁の一つだ。
辺境伯領の森の中で、澱みを囲む様に立っていた樹がこの5本の樹だ。魔物が嫌がる樹液や樹皮の木があるだろう? あれと一緒だ。
この5本の樹があるから魔物が澱みから出て来れなかった。もしこの5本がなかったら、辺境伯領は魔物に食い潰されていたかも知れない。そんな場所だった。
初代皇帝が、澱みを浄化して消した。初代辺境伯が、出て来ようとする魔物を討伐した。そうやって辺境伯領を守ったんだ。その二人の思い出。記念だな。
魔物避けあるだろ? あれが出来たのもこの樹がヒントだ。なんで魔物は嫌がるんだ? 出て来なかったんだ? て、とこからだな。
そうして、帝国内全ての澱みを消して、二人も歳をとって落ち着いた時に思いついたらしいよ。お互い、いい歳になって、何方かが先に逝っても二人の絆は変わらないと。そんな思いが込められている。
だが、そんな事を言い伝えなくても、代々皇帝と辺境伯は同志だろ? 友達だろ? それも縁だな。それで良い」
おおー、良い話じゃないか。
ルー、タマには良い話もするんだな。
「その初代皇帝の魔力を継いでるのが、リリ。君だ」
は? なんでいきなりそんな話になる?
「リリ……!」
ほら、来た。フィオンだよ。
ガバッと抱き締められたよ。絶対に来ると思ったんだ。
「グフッ……! 姉さま、苦じいです……」
「あら。リリ、ごめんなさい。つい……」
つい、じゃねーよ。俺、死ぬよ? そのうち窒息死しちゃうからね。
「リリ、君は全然分かってないけどな、花を咲かせたのは初代皇帝とリリだけだからね。光の精霊の加護を受けたのもね」
「ルー、そうなの? じゃあ、初代皇帝も加護を受けてたの?」
「ああ。そうだよ。凄いだろ? 良い話だろ?」
「うん。ちょっとルーを見直した」
「ちょっとかよ!」
「エヘヘッ」
ルーが俺の周りをパタパタと飛んだ。
「良い領地だ。良い領地にする為に初代達が頑張ったんだ。誇りだと思わないかい?」
と、アラウィンの肩に止まった。
「はい。本当に。我々の誇りです。守り続けていきますよ。ルー様」
「ああ、頼むよ」
「私からも、宜しく頼むよ」
「ルー様、クーファル殿下。勿論ですよ。お任せ下さい」