66ー裏庭
「辺境伯様、現地に行ってみたいのですが?」
「レピオス殿。それは構わないのですが、先に道具を揃えたいと思います」
「はい。勿論です。では、リリアス殿下」
レピオスに言われちゃったよ。レピオス説明してくれないのか?
「殿下」
「リリ?」
はい、分かりましたよ。
「……はい。リュカ、道具をお見せして」
「はい、殿下」
リュカが例の道具一式を並べて出した。
「これは……?」
「アスラール、リリアス殿下が考案して下さった道具だ。帝都で見せて頂いたが、とても有用な物だ」
「父上、そうなのですか?」
「ああ。領地でも作るつもりだ。レピオス殿、説明を頼む」
「はい、辺境伯様」
またレピオスは一つずつ説明した。レピオス、説明は3回目だな。有難う。助かるよ。
「どれも特別な材料を使っている訳ではありません。簡単に手に入る物ばかりです。リリアス殿下が、内容をまとめて記して下さっております。まず、必要な数を作りましょう」
「ああ、薬師を手配しよう」
「辺境伯様、お願い致します」
と、言う事で早速明日から取り掛かる事になった。
「レピオス、何日位かかりそう?」
「殿下、そうですね。2〜3日ではないでしょうか? 手袋と顔を覆う物に、時間が掛かると思われます」
あー、そうだよねー。
まだこの世界は手縫いだからねー。
「クーファル殿下、リリアス殿下。その間に領内をご案内致しましょう」
おっ! マジか! 嬉しい!
「アラ殿、本当ですか!」
「リリ、行きたくて仕方ないんだろう?」
「はい、兄さま。実はそうです!」
「リリアス殿下、ご希望は御座いますかな?」
「全部! 全部見てみたいです!」
「ハハハ、全部ですか!」
「では、明日から少しずつご案内致しましょう」
「はい! ありがとうございます!」
「では殿下。今日はこれからゆっくりなさいますか? 宜しければ、裏庭でもお散歩しませんか?」
「アラ殿、裏庭ですか! お散歩します!」
「はい、では参りましょう。クーファル殿下、宜しいですか?」
「勿論だ。私もご一緒させてもらっても構わないかな?」
「はい、是非。家の裏庭は少し変わっているのですよ」
「そうなのか? それは楽しみだ。リリ、行くかい?」
「はい、兄さま!」
「うわーー! 広ーーい!!」
アラウィンに案内されて裏庭に出た俺の第一声だ。
邸の裏に出たら、本当に広かった。
養鶏場みたいな小屋がある。
牛舎みたいな小屋もある。
厩もあるな。
柵があるから、放牧できる様になっているのかな?
「気持ちいいー!」
俺は両手をいっぱいに広げた。
大自然て感じだ。
「リリ、嬉しそうだね」
「はい、兄さま! 帝都とは全然違います! 気持ちいいです! それに今の季節なのにまだ暖かいですね!」
そう、帝都なら今はもう紅葉の季節で肌寒い日もある。
「帝都よりは大分暖かいでしょう。殿下、向こうに5本の樹が並んでいるのが分かりますか?」
5本の木……? 広い裏庭の奥の方、アラウィンが指差す方を見る。
「あぁ、はい。見えます」
裏庭の一番奥かな? 等間隔に並んでいる5本の樹が見える。
「2年前にあの樹に、突然満開の花が咲きました」
2年前……て、あれか? と、クーファルを見る。
「リリ、そうだよ」
そうなのか……でも、かなり距離があるぞ?
「あの木も、光の樹と言われております」
あー、マジか……俺が花を咲かせたからか?
「兄さま、ボクが咲かせた……?」
「そうだよ。あの時、ここの光の樹も満開の花を咲かせたそうだ」
「アラ殿、近くに行ってみてもいいですか?」
「勿論です。殿下、参りましょう」
アラウィンと、アラウィンの側近とクーファル。
後ろにソール、オクと、リュカもいる。
クーファルと手を繋いで、5本並ぶ樹まで歩く。
ん? あれは……辺境伯夫人とフィオンか? それと侍女が2人。
「兄さま、あれは姉さまではないですか?」
「本当だね。静かだと思ったら、夫人が相手をして下さっていたんだね」
「はい、申し訳ないですね」
「家族以外には、ちゃんと弁えているから大丈夫だろう。多分……」
おいおい、最後の多分が怖いぜ。
向こうも気付いたのか、こっちを見ている。
「姉さま、此処にいらしたのですか?」
「リリ、あなたも樹を見に?」
「はい。姉さまもですか?」
「ええ。夫人が案内して下さったの」
「姉さま、お天気も良くて、広くて気持ちいいですね」
「まあ、リリ。そうね。リリ、この樹も花が咲いたのですって」
「はい、姉さま。聞きました」
「繋がっているのね。聖なる樹なんだわ」
フィオンや夫人達が樹を見上げる。
「アラ殿、触ってみてもいいですか?」
「はい、構いませんよ」
俺は、1人樹に近寄り幹に触ってみる。
……お? この感じは……
「ルー! いるんでしょ?」
「やあリリ。バレたか?」
「うん、わかっちゃった」
ポンッと鳥の姿のルーが現れた。
「ルー、どこにいたの? 心配したよ」
「だからさ、僕はリリの側にいると言ってるだろ?」
そう言いながら、俺の肩に止まる。
「だってずっといなかったじゃない?」
「姿を見せてないだけさ」
「うっそだー」
「おいおい、それは無いだろう」
「……リリ、ルー様を紹介してくれるかな?」
「あ、兄さま……!」
と、言われて振り返ってみると、アラウィンと辺境伯夫人が頭を下げていた。
「あ、ルー! おねがい」
「ああ、そうだな。辺境伯、それに辺境伯夫人かな? 止めてくれ。堅苦しいのは嫌なんだ」
「ルー様、城での会議では大変失礼致しました」
「頭をあげてよね。普通にして?」
「はい、有難うございます。私は妻のアリンナです。お目に掛かれて光栄です」