65ー予想
「レピオス殿、もう解明できたのですか?」
「アスラール殿、全てではないのですが、ご報告を」
俺達は、また最初に通された応接室にいる。
クーファル、レピオス、オクソール、リュカそれに、クーファルの側近のソール、第2騎士団団長と副団長が一緒だ。
辺境伯側はアラウィン、アスラール、アルコース、側近らしき人達、そして領主隊隊長、副隊長。
皆同じ情報を共有していて欲しいので、集まってもらった。
レピオスが報告を始める。
「まず、領主隊の方々を見させて頂きました。症状から推測しますと、恐らくトゲドクゲだろうと思われます」
「トゲドクゲ……所謂あの黒褐色に橙色の模様の毛虫ですか……」
「はい。ご存知でしょうが、トゲドクゲの毛には毒があり抜けた毛に触れただけでも症状が起こってしまいます。刺されたとき又は、触れた時に痛みはほとんどなく、症状が出てから気づくというケースも御座います。
また、一度刺されると体内に抗体ができ、二度目はさらに激しい症状を引き起こします。恐らくトゲドクゲで間違いないかと」
「では、森に入っていない者にも症状が出ているのは?」
「はい、サウエル辺境伯様。以前に陛下の執務室で、お話した事を覚えておられますでしょうか?」
「どの話でしょう?」
「リリアス殿下が、対処法を説明された時に、着ていた物をよく叩いてから家に入るようにと」
「ああ、はい。覚えております。と、言う事は。隊員達の服が原因ですか?」
「その様です。私が見させて頂いた方々の中にも毛が付着している方がおられました。こちらを……隊員の方々の隊服に付着しておりました」
そう言って、レピオスはさっきのシャーレの様なガラス容器を出す。
辺境伯側で回し見てもらう。
「確かに……この毛の色はそうだな」
アスラールやアルコースも興味深気に見ている。
「しかし、父上、兄上。何故今急になのでしょう? トゲドクゲは今迄も生息しておりました。特別珍しい毛虫ではありません」
「アルコース様、そこです」
「……はあ」
「レピオス殿、分かる様に説明して下さい」
「はい。アスラール様、勿論です。アルコース様が仰った様に、今迄も普通に目にしていた毛虫が、何故今急にと言う事です。」
そして、レピオスは丁寧に一から説明していった。本当、レピオスは優秀だ。
まず、このトゲドクゲの天敵は、鳥、カマキリ、スズメバチなどが挙げられる。
トゲドクゲに限らず、毛虫はこうした天敵から身を守るために葉の裏などに卵を産みつける。トゲドクゲは特に水場近くに産卵するんだ。
今、急にこのトゲドクゲの被害者が出た原因は、恐らく例年よりも多い数の卵が孵化し、トゲドクゲの数が増えたのではないかと思われる。
そこで、何故例年より多い数の卵が孵化したのかと言う事だ。
うまく天敵から卵を守ることができたのか。
あるいは、なんらかの理由で天敵の数が減少した時などに、大量に孵化できるというわけだ。
「……父上、天敵……もしかしてグリーンマンティスでしょうか?」
グリーンマンティス、森に生息するカマキリの魔物だ。
前世のカマキリの姿に似ているが大きさが違う。1メートル程の大きさがあり手の鎌が鋭い。
「アスラールそう言えば今年は見ないな」
アスラールの予測を踏まえて、レピオスが話を進める。
「では、そのグリーンマンティスだと仮定致しましょう。何故、今年は見ないのかです」
「グリーンマンティスが、天敵にやられたからですか?」
「アスラールさま、そうですね。若しくは、グリーンマンティスが孵化しなかった。数が少なかった。でしょうか。
では、グリーンマンティスの天敵は?と、言う事になります」
「……トード! 父上、トードに決まりです! 今年は多いと隊員達が話してました! グリーンマンティスはトードの好物です。
トードは皮に耐水性があるので、防具や雨具に良いと。ただでさえ大きいのに、今年はより大型が多いので肉も美味いと言ってました!」
トード、巨大なヒキガエルだ。1メートル位の大きさがある。俺は苦手。と、言うかまだ実物を見た事がない。
「アルコース、そうなのか? 隊長?」
「はい、確かに今年は大型で数も多いです」
「ではまたトードだと仮定しましょう。何故トードが例年より多いのか? です」
「……レピオス殿、思いつきません」
「アルコース、そうだな。トードの天敵となると数が多すぎるな」
「はい、兄上。それに他の魔物で特に多いと言う印象はありませんね」
「アルコース、確かに」
「ですので、グリーンマンティスが生息していそうな所、トードが生息していそうな所を、実際にまわって確かめてみる必要があります」
「成る程……レピオス殿流石ですな」
「サウエル辺境伯様、とんでもございません」
「父上、こんな連鎖の様な考え方は、予想もできませんでした」
「ああ。アスラールそうだな。どうしても、これだと思える様な1つの原因を探してしまっていたな」
「父上、しかも討伐に出ていない者も症状が出ていたのです。普通に病を想像してしまいます」
「アルコースの言う通りだ。いや、本当に盲点でした。それであの道具なのですな?」
「左様でございます。リリアス殿下がお話をお伺いして考案されました」
「レピオス殿、リリアス殿下ですか? レピオス殿ではなくて?」
おや、次男のアルコースだっけ?
レピオスでなくてごめんね。俺なんだよ。
「アルコース、リリアス殿下はご聡明だ」
エヘへ。照れるなー。