64ー心が疲れた
昼食の為に食堂にいる。
全員一緒だ。辺境伯夫人も次男もいる。まさかここではシェフは来ないよな? まさかな?
「リリ、甘いな」
「クーファル兄さま?」
「殿下! お待たせしました! お食事です!」
来たよ……いつも通り元気に来たよ……ワゴンを押してシェフが!
「シェフ、え? ここでも? いいの?」
「殿下、何を仰っているのでしょう?」
「クフフ……」
クーファル笑ってないで助けろよ。
「シェフ、だって此処の料理人がいらっしゃるでしょう?」
「はい! しかし!! 私は殿下のシェフですので!」
「そう。そうだけど……」
あー、もういいや……
「リリアス殿下、お気になさらず。大丈夫です」
「アラ殿、すみません」
「いえ、本当に。大丈夫です。予想してましたから」
マジ申し訳ない。
「シェフ、こちらの皆さんに迷惑かけないでね。仲良くしてね。」
「はい! 勿論です! さ、殿下。お召し上がり下さい! 皆様メニューは一緒ですよ。」
俺以外はメイドが並べて行く。
まあ、大人だしね。大丈夫だよね。
「リリ、頂こう。フィオンも」
「はい、兄さま」
「はい。美味しそうですわ」
「フィオン様もお疲れでしょう。昼食を食べられたら、ゆっくりなさって下さい」
「サウエル辺境伯殿、お気遣い有難う御座います」
「リリはちゃんとお昼寝するんだよ」
「はい、兄さま。おいしいです。シェフ、今日もおいしいよ!」
「殿下、有難うございます! こちらは食料が豊富で作りがいがあります!」
「おや、そうですか?」
「はい! サウエル辺境伯様、勉強させて頂きます!」
シェフが、辺境伯と夫人に向かって頭を下げた。大人じゃん。大丈夫そうだ。
「まあ! 嬉しい事を仰るのね。リリアス殿下に付かれているのかしら?」
「はい! 奥方様。お生まれになられた頃から、お食事のご用意をさせて頂いております!」
「それは、素晴らしいですわ! リリアス殿下は、皆に大切にされてらっしゃるのね」
「はい、ありがたいです」
「本当にリリアス殿下はお可愛らしい」
「ありがとうございます」
「リリアスは、私達の宝だな」
「お兄様のおっしゃる通りですわ」
「クーファル兄さまも、フィオン姉さまも、やめてください。はずかしいです!」
「まあ! ホホホ」
「アリンナ、リリアス殿下はお可愛らしいだけではないぞ。大変ご聡明でらっしゃるぞ」
頼む、皆やめてくれー。俺は普通だよ!
「ボクは普通の5歳児です」
「「「……ハッハッハ」」」
なんで笑うんだよ!
フィオンよ、生暖かい目で見つめるのはやめてくれ。
「はぁ……心が疲れたよ」
「お心が? そうなのですか? 殿下、お着替えを」
「うん、ニル」
やっと俺にと用意された部屋に通してもらって、ニルと2人だ。
ほっとするわ。ニルの通常運転に救われるわ。
と、俺はボーッとただ突っ立っている。
ニルがテキパキと全部着替えさせてくれる。眠い。限界だ……
「……ふわぁ……」
「殿下、いいですよ。ベッドへ参りましょう」
「うん……ニル」
「抱っこしますよ」
「うん……おねがい……」
ニルに抱き上げられてベッドへ入った。
秒で寝たよ。爆睡だ。5歳児はまだお昼寝が大事。超大事。
「……ニル……」
「お目覚めですか?」
「……うん。お喉かわいた……」
「りんごジュースご用意しますか?」
「うん……おねがい」
もそもそとベッドから下りソファに座る。りんごジュースが出てきた。
熟睡したよ。スッキリだ。
「……ありがと。コクコクコク……」
やっぱ帝都より暖かいなぁ。
「ふぅ……おいしかった」
「殿下、レピオス様がお戻りになってますよ。お呼びしますか?」
「うん」
「はい、お待ち下さい」
ニルがドアの外に声をかけた。誰だ? リュカか?
「ニル、リュカがいるの?」
「いえ、こちらのメイドが付いてくれています」
「そうなの。なんか悪いね」
「気になさらなくても大丈夫ですよ」
「うん、わかった」
しばらく待つとレピオスがやってきた。
「失礼致します。殿下、ご報告を」
「うん、レピオス。ありがとう。どうだった?」
「リリ、私もいいかな?」
「兄さま、勿論です」
クーファルもソールと一緒にやって来た。
「よく寝たかい?」
「はい、兄さま。爆睡です」
「そうか、爆睡か。ハハハ。ベッドは久しぶりだからね。疲れもたまっていただろう」
「しっかり寝たから元気です」
「では、早速ですが。症状の出た、数名の領主隊の方を見させて頂きました。それで、殿下。こちらを……」
レピオスが、前世のシャーレの小型版の様な物を出した。
俺はそれを手に取ってじっと見た。
中には、黒褐色に橙色の模様の細かい毛。
「……レピオス、やっぱりだね」
「はい、殿下」
「原因が何なのか確定できたのか?」
「クーファル兄さま、見てください」
俺はシャーレの様な物をクーファルに手渡した。
クーファルもそれをジッと見ている。
「あぁ、なるほど。これが原因か」
「確定ではありませんが、決まりと思って宜しいかと。リリアス殿下の予想通りでしたので、対処方法は仰っていた方法で進めて良いでしょう」
「そう。でも問題は元だね」
「はい、殿下。現場に行かないとこればっかりは……」
「……うん」
「じゃあ、リリ。行くかい?」
「はい、兄さま」
だが、先ずは報告だな。