63ー領主邸
――アスラさまー!
――お帰りなさいー!
――領主様の馬にいらっしゃるのが皇子殿下かしら?
――まあ、なんてお可愛いらしい!
――あれは、クーファル殿下!
――キャー! 殿下ー!
――カッコいいー!
どこに行ってもクーファルは凄い人気だな。イケメンだしな。
俺は『可愛い』だ。
クーファルは『カッコいい』だ。
まあ、5歳だからな。チビだし。仕方ないさ。
「ハハハ、クーファル殿下はどの街でも大人気ですな」
「そうですねー……本当に」
「おや、殿下?」
「フレイ兄さまも、クーファル兄さまも、カッコ良すぎて」
「殿下も大変お可愛らしいですよ?」
「アラ殿、それです。そこがちがいます」
俺は、小さい短い人差し指を立てて横に振った。
「ボクはまだ『可愛い』です。大きくなったら、兄さまみたいに『カッコいい』と言われたいです」
「ハハハ、さようですか! 可愛いよりカッコいいですか」
「だってアラ殿、ボクは男の子です!」
「そうですな! ハハハ!」
清潔感のある街並み。領民の服装も、皆身綺麗だ。あっちは商業地区か? 店の前には沢山の商品が並べられているのが、遠目でも分かる。活気もある。
「良い街ですね。活気もある」
「ありがとうございます」
そうして俺達は、やっと領主邸に到着した。
街より高台に邸は建っていた。領主邸の門邸を過ぎると前庭が広がる。
馬車止めが作られてあり、何台も余裕で止められる位広い。
帝都によくある貴族の邸とは違って、だだっ広い。しかも態々水場が設置されている。
「これは……もしかして……」
「殿下、なんです?」
「もしもの時に、領民をここに避難させるためですか?」
「ハッハッハ! 殿下は何でもお分かりになる! その通りです!」
そうか……! 防御壁も魔物避けも塩害対策も建材も、領主邸まで全て領民ファーストなんだ。
「海が近いので津波が、魔物が出る地域が近いのでスタンピードが。もしもの時は領主邸に避難すればなんとかなると、思ってほしいのです。実際にこの邸に避難さえしてくれれば、なんとかなります。その為です。さあ、殿下。着きましたよ」
そう言ってアラウィンは、俺を馬から下ろしてくれた。
そのまま手を繋がれて邸まで歩く。
邸の前には、夫人らしき女性と次男らしき青年が待っていた。
アラウィンに手を引かれ、クーファルとフィオンとアスラールと一緒に歩く。
後ろから側近達やレピオスとリュカ、ニル達が続く。
邸の前に迎えに出ていた人達が頭を下げている。
「旦那様、お帰りなさいませ」
「父上、お帰りなさい。ご無事で何よりです」
「ああ。ただ今戻った。殿下方、ご紹介致しましょう。
妻のアリンナ、次男のアルコースです。
態々来て下さった、クーファル第2皇子殿下、フィオン第1皇女殿下とリリアス第5皇子殿下だ。」
「クーファルです。世話になるね」
「フィオンです。お初にお目に掛かります」
「リリアスです! よろしくおねがいします!」
「まあ! 妻のアリンナです。ようこそお越しくださいました」
「アルコースです。お目に掛かれて光栄です。宜しくお願いします」
「さあ、どうぞお入り下さい。お疲れでございましょう! あなた、私が殿下をお連れしますわ!」
「いや、私がこのまま……」
「さあ、リリアス殿下! お手をどうぞ!」
「……あ、ありがとうございます」
アラウィンから問答無用で俺の手をとって夫人は邸の中に入って行く。
なんか、このグイグイくる感じ……フィオンに似てないか? やめてくれよ?
辺境伯夫人、アリンナ・サウエル。
アッシュシルバーの少し癖っ毛の髪を上品に結い上げ瑠璃色の瞳がキラキラして快活さが見える。
アスラールの瑠璃色の眼は夫人似だ。
辺境伯次男、アルコース・サウエル。
夫人似のアッシュシルバーの緩い癖っ毛を短めにカットしている。
蒼眼はアラウィン似だ。
そして俺は、アリンナ夫人に手を引かれ、邸の応接室に入り座らせられる。
「リリアス殿下、お飲み物は何がお好きですか?」
「母上、殿下はりんごジュースがお好きですよ」
「アスラール、私は殿下にお聞きしてるのに。殿下、りんごジュースがよろしいですか? オレンジや葡萄もございますよ?」
「ありがとうございます。りんごジュースでおねがいします」
「はい、畏まりました」
夫人はメイドに目配せする。
「クーファル殿下、フィオン皇女殿下、お好きなものを仰って下さい」
「私達は紅茶で。フィオンいいね?」
「はい、お兄様」
「遠慮なさらないで下さいませ。何かお菓子もお出ししましょう」
俺の後ろにオクソールとリュカ、レピオスとニルが控えている。
ニルを見る……大丈夫か? ニルが少し頷いた。
フィオンの侍女を見る。少し頷きながら周りが分からない程度に微笑んだ。
良かった。フィオンは大丈夫そうだ。
それを見ていたクーファルが苦笑いだ。
領地に残っていた次男アルコースが、現在の状況を説明してくれた。
やはりかぶれる者は後をたたないらしい。
「レピオス、やっぱり見たいね」
俺は後ろのレピオスに声をかけた。
「はい、殿下」
「レピオス殿、実際の症状をですか?」
「はい、サウエル辺境伯様。一言でかぶれと申しましても、患部を見てみないとなんとも」
「ああ、こちらは今回色々な軟膏や道具を作って下さった、皇宮医師のレピオス殿だ」
「レピオス・コローニと申します。リリアス殿下が、考案された物をお作りしただけです」
「いえ、レピオスはボクの師匠です」
「殿下、師匠はお止め下さいと」
「なんで? 本当だよ?」
「まあ! 師匠ですのね。素晴らしいですわ」
「いえ、リリアス殿下の師匠など、とんでもございません」
「レピオス殿。宜しいではないですか。お疲れでなければ昼食の後に見られますか?」
「はい。サウエル辺境伯様、お願いします。殿下、私が見て参ります。後ほどご報告致します」
「レピオス、任せてもいい?」
「はい、勿論ですよ」
「じゃあおねがい」
「レピオス様、私もご一緒します」
「ああ、リュカ。有難う」
うん、俺はきっと食べたら寝てしまうからな。レピオス、頼んだぜ。