59ー護衛になった理由
「ふんふふん、ふ〜ふふん♪」
「リリ殿下、ご機嫌ですね?」
「うん! もう馬車は退屈だったんだ〜!」
そう、俺はオクソールの馬に乗せてもらっている。しかも片手に、昼休憩の時に拾ったちょっとカッコいい小枝を持っている! 俺は超ご機嫌だ。
オクソールが、後ろからしっかり支えてくれている。
さっきはフィオンのフラグが立ちそうだったが、なんとか回避できたし。
外の空気はいいね〜!
「ねえ、オク」
「はい、何でしょう?」
「ここらへんも魔物が出るの?」
「出たとしても、スライムや角兎位です。低ランクの冒険者でも楽勝でしょう。民間人でも倒せる程度ですよ。
あー、ほら。またシェフが走って行きます」
オクが指差す方を見ると、もうシェフが角兎を狩った後だった。
スライムかぁ、見てみたい! 冒険者もいるのかー。
「ひょ〜! シェフ強いなー!」
「ハハハ、どれだけ狩るつもりなんでしょうね」
「シェフもマジックバッグ持ってるからね」
「らしいですね。あれも殿下が?」
「うん。欲しいと言ってきたから1個あげたの」
「あー、それは狩りをする前提ですね。まあ、でも調理道具は嵩張りますからね」
「うん。そうだね〜。シェフー! 獲物見せてー!」
と、大声で叫びながら手に持った枝を振ると、シェフは角兎を掲げた。
「「おーー!」」
手を上げてパチパチと拍手する。
「オク、楽しいねー!」
「それは良かったです」
そうだ、良い機会だから聞いてみよう。
「オクはさ、なんで護衛に付いてくれる事になったの?」
「そうですね……お話しても大丈夫でしょうか?」
なんだ? 話したら駄目なのか?
「なに? 聞きたい」
「殿下が3歳の時の事件の際に、少しだけ触れたのですが」
「ああ、ボクが小さい頃から狙われてた、て話?」
「はい。リリアス殿下が、まだ2歳になられて直ぐの頃です。陛下とお母上のエイル様と一緒に、教会へお出掛けされた時に襲撃されたのです」
「ボクを狙って?」
「はい。その時に護衛していた者の一人が手引きした襲撃でした」
「そんなのばっかだね〜」
「ええ。馬鹿な奴はどこにでもいますからね。敵味方入り乱れて交戦している時に、そいつは自分が手引きした相手にやられました。口封じですね。
私もその時に護衛についておりました。リリアス殿下はまだ2歳です。普通は泣き叫んでもおかしくない。なのに、殿下は……」
「なに? ボク寝てたとか?」
「いえ、そこまでは」
なんだよ、そこまでって。
「いえ、そうではなく。エイル様の前に出て、両手を広げて守ろうとされたのです」
「えー、ボク全然覚えてないよ」
「まあ、2歳ですから。勿論、直ぐにエイル様に抱き寄せられたのですが。私はそれを見て、直ぐにお二人の前に立ち塞がりました。
襲撃してきた者達を、全て捕らえて騒ぎがおさまった時に、殿下は言われたのです。私に向かって、ニコッと笑って、ありがとう。と。
その後すぐに、殿下の専属護衛のお話を頂きました。私は迷わずお受けしました。断る事など全く考えませんでした。私はこの小さな皇子殿下を、お守りしようと思ったのです」
なんだよ、俺そんな事する幼児だったのかよ。全然覚えてないぞ。
前世を思い出す前だしな。もしかしたら中身は俺じゃないのかも。
そんな事もないか、思い出してないだけで、やっぱ俺か。
「そっか。オクありがとう」
「殿下?」
「ボクは覚えてないけど、何度もオクに命を助けてもらったんだね」
「殿下……殿下のせいではありません」
「ああ、分かってるよ。大丈夫。そんな馬鹿な事をする奴が悪いんだ、て今はちゃんと分かっているよ。ボクも少しだけ大人になったんだ」
「大人にですか?」
「そう。5歳だからね!」
「ハッハッハ、そうですね。ら行も言える様になりましたしね」
「あー、オク本当ひどいよ?」
「ハッハッハ! しかし、あれはとてもお可愛らしかったのですが」
「やめて」
「殿下は、まだまだ大きくなられませんと。元気で大きく」
「うん! クーファル兄さまに言われたしね。ボク達にはみんなの笑顔を守る責任がある、て。
ボクはちゃんと元気に大きくなって、みんなの笑顔を守りたいと思うよ」
「殿下……あの大樹の元でのお話、覚えておられるのですね」
「うん。覚えてる。ちゃんと、覚えている。ボクも強くならなきゃ」
「殿下。お一人で全て抱えられる事はありません。ご兄弟がおられます。私達もおります。頼って下さって良いのです。その為に私達はいるのです。遠慮なく頼って下さい」
「オク、ありがとう! ボク、城から出るのは少し怖かったけど、来てよかった。みんなと一緒に食べて、笑って、楽しいよ! アラ殿とアスラ殿も大好きだ!」
「それは良かったです。アスラール殿の弟君も気持ちの良い方です。きっと直ぐに仲良くなれますよ」
「うん! 3人で討伐に出るって約束したんだ! ボクが大きくなってからだけどね」
「お3人でですか? それは私も仲間に入れて下さい」
「うん! オクも一緒に行こう! リュカも連れて行こう! あ、シェフもだ!」
「シェフもですか! ハッハッハ! では、ニル殿もお連れしないと拗ねますね」
「えー、でもニルは女の子だよ?」
「大丈夫ですよ。ニル殿もお強いですから」
やっぱり強いんだ。ん? 拗ねると言えば……
ルー全然出てこないな。まだ拗ねてるのか?
そして俺は、次の休憩から馬車に戻りお昼寝タイムだ。まだ5歳児だからな。