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55/442

55ー意外

「殿下、夕食をお持ちしました!」


 いつもの如く、シェフが食事を持ってきてくれた。


「シェフ、ありがとう!」

「はい、今日はシチューです!」

「美味しそう! いただきます!」


 シチュー、例の尻尾が煮込まれていそうなブラウンシチューだ。トロットロだ。フーフーして大きな口を開けてパクッと食べる。


「んー、めっちゃ美味しい! 何これ!」

「でしょう、でしょう! 美味しいでしょう!」


 シェフ、嬉しそうだな〜! ん、マジで超ウマウマ。


「シェフ、昨日ワイバーンの尻尾引きずってたよね……」

「……え?」

「シェフ、尻尾を引きずってさっさとどっかに行ったよね?」

「…………!」

「シェフ、すっごく嬉しそうだったね!」

「まさか殿下に見られていたとは!」

「えー、前に角兎を狩ってるのも見たよー!」

「……お恥ずかしい」

「なんで? シェフ凄い強いんだね! カッコいい!」

「殿下! カッコいいですか!?」

「うん! 戦うシェフ! 超カッコいい!」

「あ、あ、有難うございます!」

「でも気をつけてね。怪我しない様にね。ボク、シェフ以外の料理はいやだよ?」

「はいッ! 殿下!」

「ごちそうさま! シェフ美味しかった!」

「はい、殿下! 有難うございます!」


 そしてシェフは満足気に去って行く。マジ、なんでシェフやってんだろ?


「りんごジュース飲まれますか?」

「うん、ニルちょうだい」

「殿下の周りって、濃い人が多いですね」


 リュカがやって来た。俺はまだりんごジュースを飲むからね。


「リュカもう食べたの?」

「はい、食べました。今日のシチュー美味しかったですね。おかわりしてしまいました」

「あれだよ、きっとワイバーンだよ」

「マジッすか!? シェフすげー!」

「自覚ないみたいだけど、リュカも充分に濃いからね」

「何ですか?」

「リュカがボクの周りは濃い人が多い、て言ったじゃない」

「え? 俺はあの中だと、激薄ですよ?」

「……んー、そう?」

「はい!」

「そうかな? 何が濃いのか分からなくなってきた」

「アハハッ!」


「殿下、向こうで兵達が腕相撲のトーナメントやってますよ。見に行きませんか?」


 そんな事やってんのか? 楽しんでんなー!


「行く行く! 見たい! ニル、ごちそうさま」

「じゃ、行きましょう。兵達に揉まれたりしたら危ないですら、抱っこしますよ」


 と言って、リュカにヒョイと抱き上げられた。


「早く大きくなりたいよ……」

「なんでですか?」

「抱き上げられると、3歳の頃から全然成長してない気がする」

「そんな事ないですよ。らりるれろが言える様になったじゃないですか」

「リュカ、本当ひどいね!」


 俺は、リュカの首筋をコチョコチョとくすぐる。仕返しだぜ!


「アハハッ!……ちょっ……マジやめて下さい! ほら、殿下。見えてきましたよ」


 リュカが指差す方に、兵達が集まって騒いでいる。盛り上がってるみたいだな。


「これ、全員参加なの?」

「はい。実は一昨日から予選をやってました。」

「凄い、マジだね!」

「はい! それはもう!」

「リュカはもう負けたんでしたか?」

「はい? レピオス様なんで知ってるんですか? てか、いつの間に?」


 いつの間にかレピオスが横を歩いていた。


「レピオス本当? リュカ負けたの?」

「あー、俺は初日に負けました」

「リュカ、獣人なのに……」

「ですね」


 レピオスが合いの手を入れる。


「はい、そうなんです」

「人より力が強い筈なのに……」

「全くです」


 またレピオスが、いい頃合いで相槌を打つ。


「殿下、レピオス様、それ以上言わないで下さい!」

「……で、リュカは誰に負けたの?」

「辺境伯の側近殿です」

「あー、そう。くじ運悪かったね」

「次こそは!!」

「まあ、頑張って。フフフ……」

「殿下、レピオス殿、見に来られましたか」

「はい、アスラ殿。……えッ! シェフ!?」


 アスラール越しにシェフの姿が目に入った。腕まくりしてるよ。ノリノリだなッ!

 なんだよ、昨日からシェフ祭りだな! 大活躍だ!


「殿下、シェフ勝ち抜いてるんです」

「本当にシェフですね」


 レピオスが驚いているぜ。俺も驚いたよ。


「レピオス様、殿下、シェフ強いですよ」

「リュカ、本当? シェフ凄いね」

「はい、殿下。もう意味分かりませんよ。なんであんなに強いのにシェフやってんですかね?」

「ボクもそう思うよ。ね、レピオス」

「ええ、本当に」

「ああ、彼は殿下のシェフなんですか?」

「アスラ殿、そうです」

「彼、強いですねー! 昨日のワイバーンも一発で尻尾を切り落としてましたからねー」

「「……!!!!」」


 なんだとっ!?  一発だと!? リュカと二人でいや、レピオスと三人で固まってしまったよ。


「アスラ殿、本当ですか?」

「ええ、殿下は見ておられなかったのですか?」

「ボクが見た時にはもう、切り落としていて尻尾を引きずって走ってました」

「アハハッ! そうでしたね。とっても嬉しそうに、尻尾を引きずって走ってましたね」


 リュカもそう思うよな? やっぱ、嬉しそうに見えるよな? 『ヒャッホゥ〜〜!!』て、声が聞こえてきそうだったよな。


「その前ですよ。一撃で尻尾を切り落としてました。驚きましたよ。あれは斬撃を飛ばしてますね。見事でした。なのにその後、尻尾を引き摺って速攻で離脱して行くから思わず、尻尾だけかよ! て言いたくなりましたよ」

「アハハハハ!! シェフ、何やってるんでしょうね! 面白すぎます!」


 本当、訳分かんない。リュカ、お前シェフに負けてるよ?


「え!? シェフが? そんなにですか!? 強いのは知っておりましたが、一撃ですか!」


 レピオスもびっくりしてるよ。


「レピオス様、本当ですよ。俺も一撃とは知りませんでしたが、切り落とすのは見ました」

「リュカ、本当に? 驚きです」

「アスラ殿、トーナメントは? 出ないのですか?」

「ああ、殿下。私はさっき負けました」


 えッ!? アスラールが負けたのか!?


「オクソール殿と当たってしまいました」

「あー、アスラ殿もくじ運の悪い」

「リリ、兄様も負けたよ」


 おや、クーファル。お前もか。てか、参加してたのかよ!?


「兄さまは誰と当たったんですか?」

「サウエル辺境伯だ」

「クーファル殿下もくじ運のお悪い……」


 うん、レピオス。俺もそう思う。めちゃくちゃくじ運悪いよな。


「兄さま、ガンバです」

「リリー!」


 抱きつくな、抱きつくな! すると対戦を見ていたリュカが言った。


「あ、オクソール様と騎士団長とシェフが残ってますね? あと、辺境伯と、俺が負けた側近殿と、領主隊の……あれはたしか魔術師団長ではないですか!? 」

「ええ。彼、魔術師なのに怪力なんですよ」

「世の中、意外な所に意外な人がいるもんなんスね」


 リュカ……お前なに言ってんの?


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[良い点] シェフ祭り……!!!
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