54ーリアル討伐
隊列の前方にいる、アラウィンとアスラールを見つけた。
「アラ殿! アスラ殿!」
俺は大声で呼びながら駆け寄る。
「殿下!」
「アスラ殿! 凄い! 凄いです!! ギュイーンて! 超カッコいい!!」
俺は剣を振る真似をする。
「アハハハ! 殿下、有難う御座います!」
「殿下、私はどうでしたか?」
「もちろん! アラ殿も凄いカッコいいです!! あんなに高く飛ぶなんて!」
「ハッハッハ!! そうですか! カッコいいですか!!」
「凄いです! みんな! 皆さん凄いです! めっちゃカッコいいー!!」
俺は、領主隊の隊員達に向かって、大声で叫んでしまった。
――ハハハハ!
――殿下、有難う御座いますー!
――楽勝ですよー!
あちこちから声が掛かる。俺は領主隊の隊員達に囲まれている。
隊員達が色んな話をしてくれる。
最初の風の斬撃はアスラールの得意技だとか。アラウィンの一撃は弱点を狙っているとか。空中でもう一段ジャンプするのも魔術師団との連携だとか。魔術師達が魔法で援助してくれるから攻撃力がアップするんだとか。
1人の隊員が肩車して、仕留めたワイバーンの間近まで行ってくれる。
ワイバーンを手でバンバン叩いてみる。
スゲー! めっちゃ楽しい! だってリアルだぜ! 血の匂いも、ワイバーンのこのゴツゴツした質感も。
全部、全部リアルだ! ゲームじゃないんだ!! ま、俺はゲームしなかったけどな。
俺は肩車から、そのままアスラールに抱き上げられた。
「殿下! 怖くありませんでしたか?」
「怖くないよ! ボクも一緒に戦いたかった!」
「殿下、大きくなったら一緒に狩りましょう!」
「うん! 絶対だよ! 絶対! 約束だよ!!」
「はい、殿下!」
スゲー! 俺、皇子より辺境伯の息子が良かったよ。そしたら狙われないだろ? それに、アラウィンもアスラールも大好きだよ! いや、勿論皇家の家族も大好きだよ。
「殿下、領地に弟がいます。3人で狩に出ましょう! 殿下が大きくなられるのが楽しみです!」
「うん! アスラ殿、ボクもっと鍛練するよ!」
「ハハハハ! 殿下! 楽しみだ!!」
「殿下は、魔物を見るのは初めてですか?」
「うん! こんな大きなの初めて!」
「初めてで全く怖がられないとは!」
気付けばアラウィンが後ろにいた。
「アラ殿! 全然怖くないよ! 大きくなったら、ボクも絶対一緒に討伐しますッ!」
「ハッハッハ! 楽しみにしておきますよ!」
アスラールに、抱き上げられたままの俺を、アラウィンはガシガシと頭を撫でる。
大きなガッシリした手。カチンカチンの肉刺が沢山ある手。
この手で領民を守ってきたんだなー。
俺はアラウィンの手を両手で掴んでジッと見た。
「殿下、どうされました?」
「アラ殿、こんなに豆がカチカチになる程、剣を握ってこられたんだ! アラ殿のこの大きな手で、沢山の領民を守ってこられたんだ!」
「殿下! 本当に殿下は……!」
見ていたアスラールも、俺の頭をガシガシと撫でた。
「殿下、それが辺境伯です。我々の役目です。殿下には殿下の役目があるのです」
俺には俺のか…… 今は守られているだけだけどな。
「今はまだ子供なのですから。そうして笑って元気でおられれば良いのです。ヤンチャな位が丁度良い。さ、殿下。戻りましょう。オクソール殿が心配そうに見てますよ」
アラウィンに言われて振り向けば、オクソールとリュカがいた。
「オク、リュカ、凄いね!」
ニカッと俺は笑った。アスラールの腕からオクソールの腕へ渡された。俺、マジで早く大きくなりてーよ。
「アラ殿、アスラ殿、ありがとうー!」
オクソールに連れられながら、アスラールに大きく手を振った。
「殿下、シェフもいたのは分かりましたか?」
「うん、オク! ビックリしたよ! 尻尾引きずりながら抱えててさ、さっさとどっか行っちゃった!」
「クククッ!」
「リュカも見てた?」
「はい、しっかり見ました。ウハウハしてましたね。めっちゃ嬉しそうでした」
「そうだよ! シェフは何やってんの!?」
「きっとあの尻尾で、シチューでも作るんでしょう」
「オク、本当に? それで嬉しそうだったの?」
「シェフは、リリが生まれる前は騎士団の副団長だったんだよ」
「クーファル兄さま! 本当ですか!?」
いつの間にかクーファルが側まで来ていた。副団長て、シェフ強い筈じゃん!
「趣味で料理をしていた様です」
「オクも知ってたの? なんでシェフになっちゃったの?」
「殿下がお生まれになって、殿下付きの者達の募集が掛かった時に立候補されたのです」
「護衛じゃなくて、シェフに?」
「はい。シェフに。自称、戦うシェフなんだそうですよ」
「……訳わかんない」
「ブフフフッ!」
リュカ、もうお前はずっと笑ってな。無邪気だね。
「はい、私もあの時は驚きました。クフフッ……」
そうだ、オク。お前も笑い上戸だったな。普段ブスッとしてるから忘れてたよ。
「シェフはね、リリの事が大好きなんだよ」
えー、クーファルやめて。男じゃん。
「殿下、走って行かれるから心配しました!」
ニルとレピオスが走ってきた。
「ニル、ごめん。見たかったんだ」
「怖くありませんでしたか?」
レピオスは、オクソールに抱かれた俺の横を歩く。
「うん! ワイバーン触っちゃった! 凄かった!」
と、言いながらレピオスに手のひらを見せる。
「触ったのですか!? 男の子ですなー」
「当たり前だよ! ボクは男の子!」
「クハハハッ……!」
「プハハハッ……!」
コラ、そこの師弟よ! 二人で笑うなよ!
「リリは可愛い男の子だね」
クーファルに頭撫でられちゃったよ。
「ねえ、オク。あのワイバーンどうするの?」
「領地まで持って行かれますよ」
「どうやって? だって、すっごく大きいよ?」
「プフ……!」
リュカまた笑ってる!
「リリ、リリは自分でも作ったじゃないか。マジックバッグだよ」
クーファル……そうだった。すっかり忘れてたよ。