51ー拗ねちゃった。
騎士団が整列している前に、場違いな集団がいた。あれは母と……フィオンだ。ドレス着てるぜぃ。長旅なのに大丈夫か? あぁッ! 目が合ってしまった!
「リリ!」
あぁー、来たよ。いや、別にね。嫌いじゃないんだ、好きだよ。姉だからね。本当だぜ、何度も言うけど。ただね、面倒臭いんだよ。この人……
「フィオン姉さま、おはようございます」
「リリ! 私が守るからね! 大丈夫よ!」
おいおい、そのヒラヒラなドレスでどうやって守るんだよ。でもさ、気持ちはすっごく嬉しい。本当に有難いよ。
「フィオン姉さま、有難うございます。でも、ボクも姉さまを守ります!」
「リリ!!」
「フグッ……!」
抱き締められちゃったよ。苦しいぜ! 力強いからぁ!
「フィオン様、それ位で」
オクソールが止めてくれて良かった! 息が出来なかったよ。
「ああ、リリ! ごめんなさい!」
「大丈夫です。姉さま。ケホッ」
母が俺の背中を撫でてくれる。
「リリ、無茶したら駄目よ」
「はい、母さま。分かってます。母さまもお身体に気をつけて下さい」
「リリ。貴方もね。元気で帰ってきてちょうだい」
「はい! 母さま!」
母にポプンッと抱きついた。母にはスリスリしてしまうな。やっぱ一番好き。
「おやおや。リリは母様には抱きついて、父様には何もなしかい?」
「父さま、いってまいります」
と、父にも抱きついておこう。
「ああ、リリ。行っておいで。いいかい、何かあったら直ぐにルー様に頼むんだよ?」
「はい、父さま。分かってます!」
「オクソール、頼んだよ」
「はい、陛下畏まりました」
「リリ!」
「「リリー!」」
「兄さま!!」
おー! 全員来ちゃったよ。
こうして見ると、顔面偏差値スゲー高いな!
「リリ、気をつけるんだぞ」
「はい、フレイ兄さま」
……と、抱きつく。
「リリ、帰って来たら手合わせしよう!」
「はい! お願いします。テュール兄さま」
……と、抱きつく。
「リリ、待ってるね。無茶しないでよ」
「はい、フォル兄さま」
……と、抱きつく。
「さあ、リリ。行こうか」
「はい、クーファル兄さま」
……以上だ。
――リリアス殿下ー!
――なんてお可愛らしい!
――いってらっしゃいー!
――お気をつけてー!
――殿下ー!
――クーファル殿下カッコいい!
――クーファル殿下ー! こっち向いて下さいー!
――キャー!
俺は父に言われた通り、オクソールの馬に乗せてもらって帝都の街を進んでいる。後ろからオクソールがしっかりと支えてくれている。
なんだこの帝都民の反応は? 俺の知らない内に、何が起こっていたんだ?
クーファルは分かる。イケメンだからな。1番人気だしな。だがなんで俺までこんなに声援を送られているんだ? 分からん……が、しかし、笑顔で声に応える。
「殿下が3歳の時に起こった事件を皆知っているんですよ」
「オク、そうなの?」
「はい」
――殿下を乗せているのは、上級騎士のオクソールだろ!
――スゲー、カッコいい!
――リリアス殿下ー!
――オクソール様ー!
「オクも凄い人気だね」
「…… 」
「ね、オク」
「……陛下には困ったものです」
「やっぱり父さまの仕業か」
「……と、セティ殿です」
「そうだろうね…… 」
もう早く帝都を出たいぜ。小っ恥ずかしい。と、思いながら俺は、笑顔を貼り付けたまま手を振った。
「殿下、そろそろ宜しいかと」
帝都を過ぎ、平原が広がり始めた。
「うん、オク。でも最初の休憩まで乗せて行ってよ」
「構いませんが、お疲れになりませんか?」
「うん、大丈夫。午後から馬車に乗ったらお昼寝するよ」
「では。このまま進みます」
「うん。こうして外に出る事がないから気持ちが良い」
「それは良かったです」
「ルー? どうしたの?」
俺の肩にいるルーが、さっきから全く喋らない。
「なんでもないよ」
いやいや、なんでもない事ないっしょ。明らかに元気がないでしょ?
「ルー?」
「……僕には何も声が掛からなかった…… 」
「……ん? 声?」
「僕には何も声援がなかったんだよ!」
「「………… 」」
これは……拗ねているのか……? 鳥さんなのに? いや、精霊だったわ。
「僕は精霊なのに……リリに加護を与えた光の精霊だよ? 光の精霊!」
完璧に拗ねてるな……
「あー、ルー。多分だけど……」
「リリ、なんだよ」
「皆、ルーの事が分からなかったんじゃないかな?」
「なんだって?」
「だってね、ルーが人前に出た時って、人間の姿だったでしょ?」
「……ああ」
「だから、まさか白い鳥さんがルーだとは思わなかったんじゃないかな?」
「あの皇帝め……!」
「……え?」
「ちゃんと僕の事も宣伝しておいてよー! 酷いよー!」
「ルーって……結構目立ちたがりだよね…… 」
ポンッとルーが消えた。こいつ、姿を見せないつもりらしい。
本当、精霊らしくないよな……ルーって……
そして、お昼の休憩になった。一面見渡す限りの平原で、チラホラと木が立っている。イングランドの田舎にありそうな風景だ。ま、イングランドなんて行った事はないけども。
この先は丘陵が続き辺境伯領までは街と丘陵の繰り返しだ。こんな風景の中で食事なんてした事ないな。
そうだ。此処は……
アスファルトがない。
コンクリートがない。
ビルがない。車がない。信号機もない。
此処は本当に異世界なんだ。
俺は此処で生きて行かないといけないんだ。
みんな元気かな?
ちょっと、ホームシックかも。今更だ……