50ー出発
第2騎士団の隊色を訂正しました。
蒼→ 碧です。
この一件以来、辺境伯と長男アスラールは毎日一緒に鍛練する様になり、かなり打ち解けた雰囲気になった。今、俺は長男アスラールと打ち合いをしている。
「せいっ!……ハァハァ……やぁ!」
「クハハハ! 殿下、だからその掛け声は止めましょう!」
思い切り打ち込んでも、笑いながら交わすアスラール。
「アスラ殿まで! 分かってないですね!……と! せいっ!」
「アハハハハ! 殿下! お願いです! やめて下さい!」
めっちゃ笑いながら受け流されたよ。クソッ!
「これは勢いをつけているんですッ!……とぉッ!」
――カーンッ!
俺の渾身の一撃を軽くかわされ、木剣を叩き落とされた。
「あー! また負けたー!……ハァハァ……!」
「アハハハハ! 殿下、本当に腹が痛いです!……アハハハハ!」
「アスラ殿! 笑いすぎ!!」
「アハハハハッ!」
「オクも!」
「プハハハハ!」
「リュカ!」
「いや、殿下。仕方ないですな。面白いですから! ククク!」
「もう! アラ殿まで! 勢いつけてるんです! ロマンなんです!!」
「殿下! りょ、りょ、りょまん! グハハハハ!」
あーーー! リュカ超ムカつく!
「リュカーー!」
叫びながらリュカを追い回す。リュカはなぁ、従者と言うより良い兄ちゃんだよな。俺の方が実はおっさんなんだけどさ。
「いや、しかし。楽しいお方だ」
「アラウィン殿。殿下は、3歳の頃からあの掛け声を、何故かお止めにならないのですよ。我々は楽しませて頂いております。どうと言う事のない掛け声なのですが、お可愛らしいお声で仰るので、妙に面白い」
「本当ですな! お可愛らしい! こうしていると、5歳らしいお子様だ」
「はい。ずっとこうして笑っていて頂きたいものです。今迄お辛い事が多過ぎた」
「オクソール殿。そうですな。我々大人がお守りしないといけないのに。馬鹿貴族共が…… 」
「はい」
「父上……クフフフフ! もう笑い過ぎて腹が痛いです」
「ハッハッハッ! アスラール、お前も笑い過ぎだ!」
「アハハハハハ!」
「アスラ殿! しつこいです! アハハハハ!」
「殿下! いや、止まらなくて……クフフ!」
まあ、笑う事は良い事だと思うよ。ストレス発散になるしな。しかし、そんなに可笑しいかなぁ? 俺はお気に入りなんだけどな。
そうして出発の日になった。俺はレピオスと一緒に馬車へと向かう。もちろん、護衛のオクソールとリュカも一緒だ。
「アラ殿! アスラ殿!」
途中で、サウエル辺境伯とアスラールを見つけて走って行く。俺、スッゲー懐いてないか? 懐いてるよな? やっぱ剣を交えるとね! 男だからね! 5歳だけどね!!
「殿下! そんなに走ったら転けますよ!」
「アラ殿! アスラ殿! おはようございます!」
「おはようございます」
「おはようございます、殿下。お身体の調子は如何ですかな?」
「はい! アラ殿、元気です! バッチリです!」
「殿下、これから道中長いですからご無理なさいませんよう」
「はい、アスラ殿。ありがとうございます!」
「レピオス殿、宜しくお願いします」
「サウエル辺境伯様、此方こそ宜しくお願い致します」
「おや、リリ。いつの間にそんなに仲良くなったんだい?」
声の方を見ると、父がやってきた。セティも後ろに控えている。
「父さま! 毎日鍛練をご一緒してました」
「そうなのかい?」
「はい、陛下。どうも帝都におりますと身体が鈍ってしまいますので、アスラールとお邪魔しておりました」
「陛下、騎士団にも魔物との戦い方を伝授して下さり勉強になりました」
「オクソール、そうなのか。良い交流になったのだね」
「はい、陛下」
「それは良かった」
父と辺境伯やオクソールが話している間も、俺はアスラールとリュカと一緒にじゃれついていた。前世ではあまり体育会系とは縁がなかったから、楽しいんだよ。動けるっていいね! なんせ5歳だからね! レピオスが爺やの様な目をして見ている。爺になるのはまだまだ早い、頼むぜ。
「ああそうだ。リリ」
「はい、父さま」
呼ばれて父のところに走って戻る。ちゃんとリュカも付いてくる。
「帝都を出るまで、オクソールの馬に乗せてもらいなさい」
え? 馬にか? でも俺の馬車あるぜ?
「父さま、馬にですか? 理由を聞いてもいいですか?」
俺は、首を傾げた。
「帝都民がね、リリを心配してくれているんだ。だから元気な姿を見せてあげなさい。ルー様を肩に乗せてね」
「父さま、かまいませんが。ルーはいつもいません」
ポンッとルーが現れた。
「リリ、いるよ!」
「久しぶりだね」
「なんでだよ! いつもいるよ!」
「ふーーん」
ジトッとルーを見る。この精霊は本当にいい加減だ。ま、いいけど。父と兄が世話かけてるみたいだしな。
「じゃあ、出ようか」
「「「はっ」」」
「はい、父さま。て、あれ? 父さま、フィオン姉さまは?」
「ああ、張り切ってもう集合場所にいるよ。エイルが側に付いていてくれている」
「……あぁ……母さまが抑えてくれてるんだ」
「リリ、頼んだよ」
えぇー。俺嫌だなー。仕方ないなー。
「努力します」
皆で移動する。もう既に騎士団が整列している。
今回はクーファルの隊の第2騎士団と一緒だ。クーファルが第2騎士団の1番偉い人らしい。次が側近のソール・ルヴェイクだ。この2人は騎士団長よりも上なんだと。司令官みたいなもんなのかな? 俺はお子ちゃまなのであんまり詳しくは知らない。
騎士団には其々チームカラー? 隊色? みたいなのがある。
第2騎士団はクーファルの瞳の色で深い青緑、碧色だ。
第1騎士団は、フレイの瞳の色と同じスカイブルー。他の隊はまだ知らない。
こうして見ると、第2騎士団の碧色の旗を掲げ、碧色のラインの入った濃いグレーの隊服とマント、碧色のスカーフ、整然と並んでいると圧巻だ。
もう既に見慣れた顔ばかりだ。カッコいいなー、このやろう!