5ールー
まだベッドから出られないから、何も出来ない。
かなり暇だ。本でも読めたらまだマシなんだがな。
「あら殿下。起きていらしたんですか?」
ニルが部屋に戻ってきた。
「うん。ニリュ、ご本よみたい」
「殿下がご本ですか!?」
おや? 何故驚く?
そうか、あんま本読んだりしなかったか? それとも、まだ3歳だからか?
「うん、ヒマなの」
「そうですね、まだベッドから出られませんしね」
「何冊かお持ちしましょうか?」
「うん」
「どんな本が宜しいですか?」
「んー……」
そうだな……此処はやはりアレだろ!
「魔法のご本がいい」
「魔法ですか? 殿下はまだ使えないですよね?」
「うん、だからべんきょうすりゅの」
「まあ、殿下。分かりました。お持ちしますね」
魔法かー。本当に俺にも使えるのか?
『使えるよ。教えてあげようか?』
――パタパタパタ……
「クルックー」
…………え? 何だ? 鳥か?
いつの間にか部屋の中に鳩の様な鳥がいた。
嘴が薄いピンク色、羽根も身体の大きさの割に豊かで美しい。
頭には冠の様な淡いブルーの羽根がある。
何より素晴らしいのが、広げたら孔雀の様になるんじゃないかと思わせる豊かな尾羽が扇状に広がっている。
胸の部分も冠羽と同じ淡いブルーだが、それ以外は全身雪の様に真っ白だ。
これはまた……
「きりぇい……!」
思わず手を伸ばすと、手の甲に乗ってきた。
「クックークルッ」
「お話しできりゅの?」
「クック……『これは念話だ。君の頭に直接話しかけているんだ』」
「しゅごいッ! ボクはリリ」
「クルック。『僕は光の精霊だ。君、助かって良かったね』」
「うん。オクが助けてくりぇた」
『ハハハ、君、中身と違い過ぎて面白い!』
羽根をパタパタさせている。笑っているつもりかな?
「わかりゅの? もしかして、あの時話してきていたのは鳥さん?」
『そうだよ。僕は精霊だからね。君は……』
「君じゃなくて、ボクはリリ」
『はいはい、リリは光の属性を持っているね』
「そうなの。だから、ねりゃわりぇりゅの」
「クッククルッ?『ねりゃわりぇ……りぇ?』」
「違う、ねーりゃーわーりぇーりゅ」
『ああ、狙われるね?』
「そう、イヤなの」
『光属性が嫌なのか?』
「ちがう。ねりゃわりぇりゅのがイヤ。つりゃい」
『僕が一緒にいてあげるよ。僕が加護をあげたから大丈夫だよ』
「加護? いつのまに?」
『君が寝ている間にね。一瞬身体が光ったろ?』
そんな事あったか? あった様な……? ああ、鳥の形をした光が嘴をつけてきた時か?
「光った気がすりゅ。加護があっても、ねりゃわりぇりゅ?」
『加護があると、邪なものは君に近寄れないよ』
「ちがうの、ボクはリリ!」
『中身オッサンなのに』
「うりゅさいなぁー!」
『僕も側にいてあげるよ。そしたら狙われても大丈夫だ。リリは面白そうだ』
「ふーん。ねえ、お名前おしえて」
『リリがつけてよ』
んー、名前かぁー。息子の名前付ける時も妻に速攻で却下されたからなー。
「るー」
たしか、なんとか神話で太陽神? 光の神? の事をそう言った筈だ。光の精霊ならピッタリだろ。
『ん? 何?』
「名前、るーに決めた!」
よし、小さい手でサムズアップだ!
本を両手で抱えて戻ってきたニルが驚いている。
「リリアス殿下、その鳥は……いつの間に?」
俺の手にとまっている白い鳥を見て驚いている。まあ、当然驚くよな。
「ニリュ、光の精霊さんだって言ってた」
「光……? 精霊……!? 」
――ドサッ……! バタバタバタバタ……
ニルが持ってきた本を落として駆け出して行ったぞ? お前、精霊とか言って本当は違うんじゃないのか?
「クックー」
「リリアス殿下! 光の精霊とは……!」
護衛のオクソールが、ニルと一緒に血相を変えて入ってきた。
「殿下、その白い鳥ですか?」
「うん。るーて言うの。きりぇいでしょ?」
俺は手にとまっているルーを二人に見せる。
「ニル殿、分かるか?」
「いいえ、私は魔力がそう強くありませんので」
「そうか」
「オクソール様は、お分かりになられますか?」
「ああ、確かに光の波動がある」
ほー、オクソールは何でも優秀なんだな。てか、波動て何の事だ?
「殿下、その光の精霊……」
「オク、違うの。るーて言って!」
「ああ、その……ルーですか? それはいつから?」
「るーが、ボクが湖へ落ちた時にみつけたって言ってた。出てきたのはさっきだよ」
「殿下は話せるのですか?」
「うん。あのねー、念話て言うんだって。カッコいいでしょー」
「念話ですか……」
「るー、こっちがニリュ。ボクのお世話してくりぇてりゅの。こっちがオク。ボクを守ってくりぇてりゅの。カッコいいでしょ!」
と、ルーに二人を紹介する。
『オクは獣人なんだね』
「喋った……!」
「オクソール様、私も聞こえました!」
フンスッ! なんでか自慢気な顔してしまったぜ。へっへっへっ。
「ルー様、ニルです。宜しくお願いします。」
『ルーでいいよ。ニル宜しく。オクも宜しくね』
「ルー様……光の精霊様だと?」
『オク、そうだよ。リリの側にいる事にしたから。ああ、加護も授けたよ』
「「……!!」」
二人ともビックリしてるね。ふふん。
「加護ですかッ!?」
『うん、リリが光属性を持っているのに狙われているんでしょ? だから、僕も守るよ。光の属性を持つ人間を狙うやつは許せないからね』
「先日、リリアス殿下が湖に落ちたのは事故ではない可能性があります。その証拠を探しているのですが、精霊様はお分かりになりますか?」
「オク」
「はい、殿下何でしょう?」
「精霊様じゃなくて、るー」
短い人差し指を立ててフリフリしながら、唇を尖らせて言ってやった。
「リリアス殿下、可愛い!」
そうだろ、そうだろ。ニルが思わず呟いてしまう位可愛いだろ? 3歳児はまだ天使だからな!
『普通に喋ってくれない? 畏まられるのは嫌なんだ。それに、リリが言う様に僕はルーね』
「しかし、精霊様をこの目で見るのも初めてで。しかも光の精霊様となると……」
「オク、るーなの」
「はい、分かりました。気をつけます」
『僕も一緒に探すよ。湖に落ちているかも知れないしね』
「有難うございます」
『じゃ、リリ。早速行ってくるよ』
そう言ってルーはオクソールの肩に飛んで行った。
「うん、じゃーねー。おねがいッ!」
小さな手でバイバイする。
そうして、オクソールと光の精霊ルーは、黄色のリボンを探しに行った。