46ー説明
レピオスが、少し大きめで緑の蓋の丸い容器を手に取り団員達に見せた。
「まず、軟膏です。2種類御座います。緑の蓋の丸い容器で大きい方が虫除けです。彼方に着いて、森に入る前に隊服から出る部分にたっぷりと塗って下さい。手や首、顔ですね。虫が嫌がる薬草の成分を練り込んでありますので、しっかり塗って下さい」
次に、赤い蓋の四角い容器を手にする。
「四角い容器で赤の蓋の方ですが、これはかぶれた時に塗ります。炎症を抑える効果と解毒の効果があります。患部を流水でしっかり流してから塗って下さい。ですので、かぶれ等が無ければ必要ありません。二つの軟膏は宜しいでしょうか? 次ですが…… 」
薄い黄色に濁った液体の入っている、霧吹きを手にして見せる。
「液体の瓶です。これは酢を薄めた物と虫を駆除する薬草の成分を混ぜた物です。彼方で使用指示が出た場合に散布して頂きます。使用前はよく振って下さい。次です。筒状の物があります。お分かりでしょうか?」
レピオスが15cm程の丸い筒で、真ん中辺りの両側につまみのある物を手に取って見せた。
「此方はポイズンリムーバーと言います。もしも何かに噛まれた様な、チクッとした感じがあれば直ぐに噛み跡があるか確認して下さい。噛み跡を探してこの筒の先を患部に押し当て、中程にあるつまみを引き上げて毒を吸い出します」
実際に、つまみを引き上げ動かして見せる。
「必要であれば、この操作を繰り返して下さい。例えば、蛇に噛まれたり蜂に刺されたりした場合、今迄は口で患部から毒を吸い出していたと思います。それと同じ役目をします。患部に直接口を付けないので、毒の二次被害を防げます。後は、手袋はお分かりですね。隊服の袖を手袋の中に入れて着けて下さい」
普通の手袋より長い肘まである手袋だ。そして最後に、頭からすっぽり被れる様、筒状に縫い上げてあり片方の端に紐を通してある布を見せる。
「あともう一つです。この布で出来た物ですが、目から下を、鼻と口を隠す様に被って下さい。此方の紐でずれない様に調整します。紐のある方が上です。反対側はそのまま隊服の上に出しておいて下さい。これで害のある物を吸い込んでしまうのを防ぐ事と、害虫等から首を守ります。以上ですが、ご不明な事があればどうぞ」
騎士団長が手をあげた。
「どうぞ」
レピオスが発言を即す。
「これらの道具は今回だけの物でしょうか? ご説明を聞いておりますと、普段も使用出来ればと思ったのですが」
そうなのか? レピオスどうする?
「今回に限りと言う訳ではございません。ご要望があればご用意致しますよ」
「それは有難い。他の騎士団にも伝えておきます」
「騎士団長、それはどの道具のことなの?」
「殿下、そうですね、全てなのですが。手袋等は騎士団の団服に合わせて、通常の装備に出来ればと思います」
なるほど。今迄はなかったのか?
「思うことは今教えてね。またボクから父さまに話してみるから」
「殿下、有難うございます!」
「実際に現場に出ている人たちの意見は大切だから。遠慮しないで教えてね。たとえば、これは剣を使うときにじゃまになるとか、動きにくいとか。教えてくれたら改良するから」
「はい! 有難うございます」
レピオス以上かな? と、レピオスを見る。大丈夫そうだ。
「じゃあ、今回はすこし遠いけど、よろしくおねがいします」
俺がそう言うと、ザッと一斉に騎士団員が立ち上がった。
――はッ!!
「殿下、レピオス殿、有難うございました」
オクソールが帰りを先導してくれる。後ろからはリュカが付いてくる。
「うん」
「あれは、すべてお考えになられたのですか?」
「うん」
「オクソール殿、殿下が全て考案されたのですよ」
「レピオス殿でなく、殿下が?」
「うん。被害を増やしたくないから。出来る限り防ぎたいんだ」
「騎士団長も言ってましたが、あれは普段でも役立ちます」
「そうなの?」
「はい。魔物の討伐は森ですから」
そう言われればそうだ。
「手袋もなかったんだね。今迄どうしてたの?」
「はい。個人で其々用意しておりました。騎士団の装備に加えて頂ければ助かります」
「じゃあ、父さまにいっておくよ」
「有難うございます」
「リュカ、父さまのご都合を聞いてきて」
「はい、畏まりました」
リュカが走って行った。
リュカの返事を待つ間、レピオスとオクソールと一緒に医局でお茶を飲んでた。
「殿下、りんごジュースじゃなくて良いのですか?」
なんだよ、オクソール。子供扱いするなよ。子供だけど。
「本当はりんごジュースがいい」
「ククッ」
オクソール、また笑った。クールに成り切れてないところが良いんだよ。人間味があってな。
「だって、りんごジュースおいしいよ」
「殿下はお好きですね。菓子は如何ですか?」
レピオスがクッキーを出してくれた。
「わっ、食べる!」
嬉しいね。クッキーもりんごジュースの次に好きだぜ。
「レピオス、クッキーどうしたの?」
「先程、シェフに呼ばれまして。殿下にと渡されました」
「それでいなかったの?」
「はい。殿下に食べて頂きたいと言ってましたよ」
「うん。ありがとう。うれしい。オクもレピオスも食べて」
「いえ、私は」
「オク、甘いの嫌い?」
「あまり食べません」
「レピオスは?」
「私も普段はあまり食べませんが、一つ頂きます。シェフが作ったものは何でも美味しいですから。とても良い匂いですね」
「うん。おいしいよ」
シェフの作るものは皆美味しい。