2025クリスマスSS 感謝を☆
※本編とは全く関係ありません。
久しぶりに3歳のリリです。
アーサヘイム帝国の帝都は大陸の少し北側に位置する。その帝都の中心に帝城はある。
その帝城の中庭をトコトコと歩いているのがまだ3歳の俺、第5皇子リリアス・ド・アーサヘイムだ。そのすぐ後ろを従者兼護衛のリュカが付いてくる。俺とリュカが歩くと、城のメイドさんや従者の人たちがにこやかに挨拶をしてくれる。ただ、お散歩しているだけなんだけどね。
「ねえ、りゅか」
「はい、殿下」
「きょうは、クリスマスだよね」
「そうッスね」
「クリスマスしってりゅの?」
「何言ってんッスか。初代皇帝が始めたイベントでしょう? チキンを食べてケーキを食べる日ッスね」
「え、たべりゅだけじゃないんだけど」
「ああ、教会に行く日ッスね」
「しょうなの?」
「はい、ここだと大聖堂ですね」
城のお隣に大聖堂がある。皇族の婚姻もそこで行われる。10歳の時に魔力量と適応属性を見てもらうのも大聖堂だ。皇族には何かと縁のある大聖堂。
「リリアス殿下も今日は行かれるでしょう?」
「え、しりゃないよ?」
「あれ? そうッスか? でもきっと行くと思いますよ」
「しょうなの?」
そうなのかな? 俺は全然知らないけど。行くならその内、ニルが呼びにくるだろう。そう思っていると、案の定ニルが走って俺を呼びに来た。
「リリアス殿下! こちらでしたか」
「にりゅ、どうしたの?」
「お着換えをしましょう。大聖堂に行きますので」
「あ、やっぱいくんだ」
「はい、クリスマスですから」
なんで異世界にクリスマスがあるんだよ。初代皇帝って一体何なんだ? もしかして元日本人とか? 少なくとも、地球人だよな。俺はそう思うよ。だってクリスマスを知っているのだから。
ニルに付いて部屋に戻り、お着換えをさせられる。お出かけ用の皇子仕様だ。いつもより高級な生地で、いつもよりフリフリが多めの服に着替える。リュカも着替えに行ったから、きっと正装してくるのだろう。
大聖堂で何をするんだろう? ミサ的なものかな?
クリスマスって本当はキリストの降誕を記念するお祭りだ。この世界にキリストはいない。なのに、クリスマスはある。腑に落ちないよね。
「ねえ、にりゅ。クリスマスってなんのひなの?」
「まあ、リリアス殿下はご存じないですか? 皆がこの世界に、無事に生まれてきたことに感謝する日ですよ」
「へえ~、そうなんだ」
ほう、うまい感じで意義付けているじゃないか。降誕を意識しているのだろう。
この世界は出産時とその後の生存率がまだ低い。薬湯やポーションが発達しているけど、万能ではない。
貴族だと出産時に医師が立ち会ったりするけど、庶民だとそうはいかない。回復魔法が使える人が立ち会うのはまだ良い。そんなことをできない人たちの方がずっと多い。
だからこそ、無事に生まれてきたことに感謝するのだろう。今でさえそうなんだ。初代皇帝の時代はもっと大変だっただろう。
皇子の正装に着替えて廊下を行くと、前を兄たちが歩いていた。
「ふれいにいしゃま! くーにいしゃま!」
「リリ、メリークリスマス!」
「リリ、今日はおめかしだね」
「にいしゃまもでしゅね」
「アハハハ! 可愛いぞ!」
ヒョイとフレイに抱き上げられた。これだけ歳が離れていると、自分の子供みたいに可愛がってくれる、優しい長男と次男だ。
また少し行くと、オクソールとリュカが待っていた。二人も騎士の正装をしている。
オクソールって正装をすると、カッコいいんだ。元々オーラがあるらね、それが増幅される感じだ。いや、リュカだってカッコいいよ。
「リリアス殿下、今なんか俺ディスられてませんでしたか?」
「え、しょんなことないよ。りゅかも、カッコいいよ」
「ほら、オクソール様と比べないでくださいよ」
「えへへへ~」
リュカったら俺が考えていることを察したな。いかんいかん。
「殿下、今日は私も護衛につきますので」
「うん、オク。おねがいね」
「はい、お任せください」
皇子の正装をしたキラキラした兄二人と、騎士の正装でこれまたキラキラしているオクソール。いやいや、俺も一応皇子だ。まだ3歳だけど。
「兄上! リリ!」
「リリ!」
テュールとフォルセもやって来た。これで兄弟が揃った。
普段でも妖精さんのように可愛いフォルセが、今日は天使みたいになっているじゃないか。
テュールも少し精悍さが出てきて、カッコいい。いや、マジで俺ってどうなの?
「リリ、可愛い!」
「ふぉるにいしゃまのほうが、かわいいでしゅ!」
フレイに抱っこされている俺に、無理矢理抱きついてきたフォルセ。背中に天使の羽がないか?
みんな揃って大聖堂へ行くと、既に父や皇后様、母たちが女神象のある祭壇の一番前揃って座っていた。帝都の貴族も皆正装をして揃っている。
「父上、すみません。遅くなってしまいましたか?」
「いや、クーファル。そんなことはない。大丈夫だ」
「皆もう揃ってますね」
「ああ、クリスマスだからな」
俺たちが席に着くと、ほどなく枢機卿を先頭に聖職者の人たちが入ってきた。
パイプオルガンなんてないはずなのに、よく似た音色で荘厳な音楽も奏でられる。大聖堂の厳かな雰囲気と相まって、神聖な空気が漂っている。
枢機卿が女神象に向かって両手を掲げてからお祈りを始めると、大聖堂の中にキラキラとした粒子が舞い降りる。
俺たちも枢機卿に倣う。これは枢機卿の魔法か? そんなことを考えていた。
『魔法じゃないよ。これは女神の祝福だ』
ルーか? 頭の中に直接声が響いてきた。
『この国は光の女神の加護を受けているからね』
それって、本当だったんだ。
『当たり前じゃないか。でないと僕が姿を現せないよ』
へえ~、そうなんだ。
『リリは初めてのクリスマスだね。初代皇帝が命に感謝する日だと定めた日だ。リリの生きていた世界からもらったと言っていたよ』
うん、そうだね。ある神が降誕された日だと言われている。向こうも寒いだろうな。雪が降っていたりするのかな? なんて思ってふと窓の外を見てみた。
真っ暗な中をハラリハラリと白いものが降ってきた。
「あ、ゆきだ」
思わず声に出してしまった。すると並んで座っていた兄たちが皆外を見た。
大聖堂の荘厳な雰囲気の中から見る雪は、まるで天使の真っ白な羽がフワリと舞い降りているようにも見える。見ているうちに、どんどん降ってくる。
「これは積もるな」
フレイがそう呟いた。音もなく降ってくる雪。ただの雪なのに、暗闇の中でそれはほんの少し発光しているようにも見える。
この世界に俺がやってきて、初めての雪だ。初めてのクリスマス。
『リリ、メリークリスマス』
うん、ルー。メリークリスマス。
気付けば、兄や皇帝たちが皆俺を見ていた。
「リリ、メリークリスマス」
「とうしゃま、メリークリスマス」
「さあ、帰ってチキンとケーキを食べよう」
「はい!」
朝にはきっとこの雪は積もっているだろう。
皆が無事に生まれてきたことに感謝をする日。初代皇帝は良いことを思いついたね。
俺も、生を享けたことに感謝を。この不思議な縁に。
メリークリスマス。せめて今日一日は皆感謝を忘れずに。
――Happy Merry Christmas☆




