7巻発売記念SSーお祭り⑤
最終話になります。
「かあしゃま! ばあば!」
「あら、リリ」
「リリも一緒に配りましょうね」
「うん」
じいじに降ろしてもらって、一人一人にクッキーやマドレーヌを手渡す。
「なあ、リリ殿下か?」
「うん、ボクはリリ」
「元気そうでよかったな」
「うちのかーちゃんも心配してたぞ」
「うちもー」
「しょうなの? ありがと、げんきらよ」
こうして直接街の人の声を聞くことなんて滅多にない。どうやら俺たち皇族は好感を持ってもらえてるみたいだ。
何しろ、クーファルは人気者だし。今だっていつの間にか女の子に囲まれてしまっている。
そうしてお昼頃まで子供たちに手渡して、一緒に喋ったりして。こんなことは滅多にないから、俺は凄く浮かれていたんだ。
「殿下、そろそろお腹がすきませんか?」
「にいに、しゅいた」
「じゃあ、にいにと一緒に屋台を見て回りましょうッ!」
「こら、フォール。勝手に動いたら駄目だ」
「クーファル殿下、屋台を見に行くだけですよ?」
「駄目だ。必ずオクソールと一緒に行くように」
「はいはい、分かりましたよ。この街にリリアス殿下を、どうこうしようなんて奴はいませんって」
「何があるか分からないだろう?」
「分かりました! では、オクソール殿、行きましょうッ!」
声を掛けたかと思うとヒョイと俺を抱き上げた。それで気付いた。どうやらにいにも、鍛えているみたいだ。腕や肩に筋肉がついている。見た目はスマートな細身なのに。あれか? 細マッチョってやつなのか?
俺を軽々と抱っこして、街の中を歩く。すれ違う人たちが皆声を掛けてくれる。
ご無事で良かったです。とか、心配しましたよ。とか温かい声ばかりだ。その度に俺はニッコリとして、ありがとうって伝える。全然知らない人たちなのだけど、それなのに心配してくれるなんて嬉しいから。
「リリは人気者ですね」
「にいに、しょうかな?」
「ほら、皆が声を掛けてくれるでしょう?」
「けりょ、くーにいしゃまのほうが、にんきれしゅよ」
「アハハハ! クーファル殿下は学園でもそうだったな」
「あー、やっぱり」
そりゃそうだよな。どうにかしてクーファルの婚約者になろうと思っている令嬢だって多いだろう。
俺の事件があってからフレイもクーファルも、幼い頃に決まった婚約を解消している。相手のご令嬢の家もなくなっていると聞いた。それって、きっとセティが調べたんだ。セティって容赦なくて怖いから。
だから余計にフレイとクーファルの周りに、令嬢が付きまとっているらしい。まあ、そんな令嬢はきっと無理だ。
俺はまだ3歳だから、そんなの全然関係ないのだけどね。
「オクソール殿、屋台のものを食べても大丈夫ですか?」
「殿下が食べられる前に一口私が食べますよ」
それってあれか? 毒見的な感じなのか? そう思っているとシェフがどこからか走ってきた。
「殿下ぁッ! これッ! 美味いですよッ!」
はいッ! と串刺しにしたお肉を渡されてしまった。うん、良い匂いがする。食欲をそそられるね。
「シェフ、だから殿下が直接は」
「私が食べてますから大丈夫ですよッ!」
「リリアス殿下、食べられますか?」
「うん、おなかしゅいたもん。おくもたべよう」
「はいはい! オクソール殿もどうぞッ!」
美味いですよッ! なんて言いながらオクソールにも手渡し、そばにいたリュカにも渡している。一体何本買ってきたのだろう?
「おく、がぶって?」
「そうですよ。こうです」
オクソールが豪快にかぶり付いた。
「美味いですよ」
「じゃあボクも」
はむっと大きくお口を開けてかぶり付く。柔らかいのにしっかりとしたお肉の弾力がある。お口に入れると肉汁が溢れてくる。これってタレも美味しいぞ。
「おいしい! しぇふ、とってもおいしいよ!」
「そうでしょう!? このタレが良い味出してますよねッ!」
うんうん、美味しいぞ。それからも、シェフのお勧めをお腹いっぱい堪能してまた元に戻ってきた。
やっぱ食べた後はあれだよ。ニルはどこいった? あ、いたいた。母と一緒にまだ子供たちにクッキーを手渡している。
「にるー!」
「はい、殿下」
「りんごじゅーしゅちょうらい」
「はいはい」
食後はやっぱりんごジュースだよ。これはどこに行っても外せない。
ニルにもらってコクコクと飲む。ふぅ~、一息ついた。
「アハハハ! 本当にりんごジュースがお好きなんですね」
「だってりんごじゅーしゅは、らいじなの」
「私が心を込めて毎朝絞ってますからッ!」
「ふふふ。シェフ、ありがとう。いちゅもおいしいよ」
「殿下ぁッ!」
何故にそこで涙目になるんだよ。やめてね。
そんな俺たちを、じいじやばあば、にいにが生温かい目で見ていた。
「元気なリリの笑顔が見られるなんてな」
「ええ、とっても嬉しいわ」
「じいじ、ばあば」
母とクーファルまでそばにやってきた。皆に囲まれて俺はりんごジュースを飲む。
「ふふふ、リリったら」
母は笑うけど、りんごジュースはどんな時でも美味しい。
「リリの目にこの国はどう映っているのだろうな。辛い思いばかりして」
「でも、そんな人たちばかりじゃないわ」
「リリが大切で、大好きな人だってたくさんいるんだ」
「じいじ、ばあば、にいに、しってりゅよ」
「そうか、そうか!」
安心したような笑顔のじいじが、俺の頭を撫でる。
「嫌いにならないでね、諦めないでね。私たちはリリが大好きよ」
「そうだぞ!」
心がほんわかと温かくなった。
「リリ、また来年も一緒に来ましょうね」
「うん、かあしゃま」
母の思いつきだったかも知れないし、もしかしたらずっと思っていたのかも知れない。でもまた来よう。年に一度しか、じいじとばあばに会えないかも知れないけど。
ちゃんと元気にしているよって見てもらおう。そう思った。
そして楽しくて温かいお祭りは終わった。




