6巻発売記念SSーやんちゃな三つ子
リュカの兄、フォカの子供達のお話です。
リリアス殿下に助けられ、護衛兼従者としてお供するようになって4年が過ぎた頃だ。いつも、元気にしているのか? ご迷惑を掛けていないのか? としか言ってこなかった実家から、珍しく兄貴から文が届いた。
「え……」
「リュカ、ご実家からか?」
「オクソール様、びっくりです」
「どうした? いつもの文じゃないのか?」
「兄貴からなんです。それが……赤ちゃんが産まれると」
「それはおめでたいじゃないか」
「いやいや……」
びっくりだよ。だって俺は兄貴が婚姻したことも知らされてなかったんだ。まあ、相手は分かっているんだけど。
小さな村だから、みんな知り合いみたいなもんなんだ。幼馴染みの純血種の女性だ。親父ったら、どうでも良いことばかり文に書いて寄越して、どうしてそんな大切なことを知らせてくれないんだよ。
まあ、いいや。とにかく赤ちゃんが産まれるらしい。
「兄貴ったら柄にもなく心配だそうです。大きなお腹をしているから、双子は確実だろうと」
「獣人だからな。多胎児は珍しくないだろう」
「けど、兄貴や俺もそうじゃないッスよ」
多胎児の場合は、単胎児より危険度が上がる。母体や胎児にも負担が掛かる。だから、今から兄貴は心配なのだろう。
「だが、リュカ。獣化の状態で生まれるだろう?」
「そうッスね、獣人ですから」
「だからまだ人間よりは安産だというぞ」
そうなのか? どっちにしろ、離れている俺にはなにもできない。なのにわざわざ文を送ってくるなんて、兄貴の奴テンパってるのか?
「離れている俺に言われてもですよ」
「確かにな」
呑気にそんな話をオクソール様としていた。その後俺たちは、リリアス殿下のお供で隣国へ行くことになった。だから無事に産まれたという文は、ずいぶん後になってから読んだんだ。
◇◇◇
(リュカの兄視点です)
無事に生まれて良かった。きっと多胎児だろうと言われた時はどうなるかと心配したんだ。あわててリュカに文を送ってしまったほどだ。
産まれたのは三つ子の男の子だった。俺たち獣人は獣化した状態で産まれてくる。普通の人間の赤ちゃんよりはずっと小さい。だからといって油断は禁物だ。なにしろ多胎児だ。どんな状態でも出産には危険が伴う。
そう覚悟していたのだけど、とっても安産だった。ホッとしたよ。マジで。
今も三人並んで、すぴーっと寝息をたてて眠っている。
「可愛いな」
「ふふふ、まだ獣化のままね」
「ああ、まだしばらくはかかるだろう。小さいなぁ」
「ええ、大きく育てなきゃね」
「ああ。お疲れ。頑張ってくれてありがとう」
俺たち男にはそれしか言えない。出産の時はなんの役にも立たなかった。ただ手を握ってオロオロしていただけだ。
「なあ、苦しんでるだろう! 大丈夫なのか!? なんとかしてくれよ!」
と、騒いでいただけだ。本当、母親って凄いなぁって思ったさ。こんなの見たら一生頭が上がらない。
こんなに可愛い子を三人も産んでくれた。ああ、いかん。また泣きそうだ。
「フォカったら」
「グスッ……だってな、本当にありがとうな」
「もう、いつまで泣いているのよ」
いや、だって感動してるんだよ。
この子達をこれから守って育てていくんだ。
三つ子の名前を考えた。三つ子なんだから三人分考えないといけない。当たり前なんだけど。寝ずに考えたさ。
「フォカ、考えたのか?」
「おう、親父」
両親もずっと三つ子を見ている。デレッデレだ。今からこれじゃあ、先が思いやられるぞ。
「あら、フォカも同じよ」
「え? 俺はいいんだよ。父親なんだから」
そうさ、俺はいいんだ。自分の子供なんだから可愛くて可愛くて。一日中ずっと見ていられるぞ。
「フォカ、だから名前だ」
「ああ、えっと」
ゴソゴソとポッケから紙切れを出した。
「ティオ、ルティ、ハイトだ」
「ほう、フォカが考えたにしては、なかなか良い名じゃないか」
「本当ね、フォカにしてはまともだわ」
なんだよ、両親そろってそれはないだろう。俺ってどう思われてるんだよ。
なんだかなぁ、リュカがリリアス殿下に付いて行ってから俺の扱いが雑な気がするんだけど。今やリュカはこの村のヒーローだからな。まさか皇子殿下に仕えるなんてさ。
「リュカに知らせたのか?」
「あ、忘れてた」
「ちゃんと文を出しておきなさいよ」
「おう」
返事はしたものの、三つ子から眼を離せない。三人くっついて、丸くなってスヤスヤと眠っている。赤ちゃん狼の状態なんだけど、三人とも純血種の色味をしている。
まだ目が開いてなくて、耳も立っていない。尻尾だってこんなに小さいのか? 体毛が俺たちと違ってふわふわだ。そっと触ってみると、キュゥ~と小さく鳴いた。
「ハハハ、鳴いたぞ」
「これ、フォカ。眠っているのだから」
「だって母さん、ふわふわだぞ」
「まだパピーコートなのね。半年を過ぎたくらいで生え変わるかしら」
「へえ~」
「ほらほら、フォカもお父さんも、行きましょう。ずっとそばにいたら、お母さんが休めないわ」
母さんに言われて部屋を出た。ゆっくり休んでほしい。大仕事を終えたんだ。これから自分の身体も養生してもらわないと。
生後20日もすると、ヨチヨチと動きだした。これがまた可愛いんだ。
「キュゥ」
「アウゥ」
「キャン」
短い足でトコトコと歩いてくる。まだヨチヨチ歩きだから、途中でコテンと転がったりして。尻尾をフリフリしながら、俺に向かって歩いてくるのを見ると自然に目が垂れてしまう。
抱っこしてトントンとしてやるとトローンとした目になって、プゥ……と小さく鳴きながら眠る。ああ、手も小さいなぁ。早く人化しないかなぁ。
この三つ子たちがどんなふうに大きくなるのか、とても楽しみだ。少しくらいやんちゃでもいい。元気に育ってくれたらそれが一番だ。なんて、この頃はそう思っていた。
だけど数年後、やんちゃなんて言葉では足りないくらいの子に育つなんて想像もしなかった。
一人だったらきっとできなかったと思う。でも三人だと勇気も100倍なのか? 大胆で思い切ったことをする。でも良い経験になっただろう。
今日もまた懲りずに、三人揃って小さな拳を上げている。
「りりれんかに、あいにいくじょー!」
「おー!」
「は~い!」
「いやいや、何言ってんだよ。もっと大きくなってからって約束したんだろう?」
「しょうらったーッ!」
「ええ~!」
「まてねーじょ!」
毎日この三つ子に振り回されている。余程、リリアス殿下が好きなのだろう。
リリアス殿下、すまない。マジでこいつら会いに行くと思うけど、その時はよろしく頼みます。いや、俺も付いて行こう。うん、そうしよう。