431 番外編ーボール遊び 1
11月1日2巻発売☆皆様に感謝を込めて☆
ここは辺境伯領。5歳の俺は森の調査の為にこの辺境伯領まで来ている。
帝都からは遠いんだ。でも、無事に到着して色んな場所を見学している。
辺境伯の屋敷は大きくて敷地も広い。
広い裏庭には鶏舎や牛舎が並んでいる。中にいるのは鶏でも牛でもなくて魔物なんだけど。その並びには畑もある。普段使う野菜を育てているんだ。
その1番奥には例の5本の『光の樹』がある。その間に領主隊の隊舎やだだっ広い鍛練場がある。その鍛練場の一角に来ている。
「殿下、今度は何するんスか?」
「何って遊ぶんだよ」
「部屋で大人しくしておきましょうよ」
「だって今日は、いつも案内してくれるアスラ殿もいないしさ。暇じゃん」
「またクーファル殿下に叱られますよ」
「大丈夫だって」
リュカが嫌々付いてくる。手にボールを持って。
「これ、何するんッスか?」
「遊ぶに決まってるじゃん」
俺は丁度良さげな木の枝で地面に線を描く。どんなもんかなぁ。まあ、お遊びだから適当でいいか。と、考えながら大きなコートを描いていった。
でも、リュカと2人だしな。コートも必要ないか……
「よしッ!」
「なんスか?」
「リュカ、ボールを両手でポーンて受けるの」
「ポーンですか?」
「そう、いくよ!」
「え? ちょ、殿下!」
リュカが困惑しているのもお構いなしに俺はボールを上に投げる。そして思い切りボールを打とうと腕を振り下ろした。
「とぉッ!」
スカッ……
「あ、あれ?」
「アハハハ! 殿下、何やってんスか!?」
俺は思いっきり打ったつもりだった。なのに、手にボールは当たらなくて地面にバウンドした。
「おかしいなぁ~、もう1回! とぉッ」
スカッ……
「あれぇ~?」
「アハハハ! 殿下、手で打ちたいんッスか?」
「そう、なんで当たらないの?」
「だって殿下、高く上げすぎッスよ」
「そう?」
「俺がやってみましょうか?」
「うん、リュカ出来るの?」
「多分できるッス」
なんだよ、なんだよ。見ただけで出来ちゃうのか?
俺って動けない奴だったっけ? もっと簡単にさぁ、バシッと打てる筈だったんだけどなぁ。こう、弾丸サーブみたいにさ。
「いくッスよ!」
リュカがボールを高く上げる。そして、落ちて来たボールを軽く手で打った。
バシッ!
リュカが打ったボールは音を立てて地面にバウンドした。
「リュカ、凄いじゃん!」
「殿下、それをどうするんッスか?」
「だから両手で受けるんだよ、こんな感じ」
俺は両手を合わせて、ボールをポンと弾ませる。
「なるほど、こうッスか?」
俺が上げたボールをリュカはいとも簡単に真似をしてポンと返した。
「そうそう!」
そして俺もまたポンと返す。
「なかなか上手いッスね」
またリュカがポンと返す。いやいや、上手だけどさ。俺がやりたいのはそうじゃないんだ。
「リュカ、だから違うの」
「何が違うんスか?」
「もっとこう……バシンッてさ」
「バシンッスか?」
「そう、ちょっとリュカ離れて」
リュカが俺から距離をとる。普通のサーブならいけるか?
「リュカ、いくよー!」
「いいッスよ!」
またボールを上げて、バシッとサーブを打った……つもりなんだけど。
「あれ?」
手には当たったんだ。当たったんだけど、ポフンとすぐそこに落ちてリュカまで届かない。
「殿下、力が足らないッス」
「え、そう?」
「そうッス」
そんな事をしていると、オクソールがやってきた。
「何をされているのですか?」
「オクも一緒にやろう!」
「何をどうするのでしょう?」
「ボールをね。ポーンって」
「ポーン?」
「オクソール様、殿下が打ったボールを両手で受けるんッス」
と、リュカがジェスチャーして説明している。まあ、取り敢えずやってみよう。
「いっくよー! そぉ~れッ!」
今度はボールを上げずに、下から打った。無事にボールはポーンと飛んでいった。
「殿下上手ッス」
リュカがちゃんとレシーブして返してくれた。
「なるほど」
それを見ただけなのに、オクソールは平然と上手にレシーブをする。なんだよ、なんでもできるんだな。
「オク、上手!」
俺も小さな手で受けて返す。
「で、殿下。これの何処が楽しいんッスか?」
「だからね、もっと人数がいると試合ができるの」
「試合ッスか」
「なるほど、試合ですか」
試合という言葉に反応したオクソール。
「殿下、その試合というのは何人位でするのですか?」
「1チーム6人なんだ。それにルールもあるんだ」
「ルールですか」
「そう」
俺はオクソールにバレーボールのルールを教えた。何故か真剣に聞いているオクソール。
「ああ、だから地面に線を引いているのですね」
「そう! そうなの。でもリュカと2人だと必要ないかなぁって思って」
「殿下、騎士団を連れてきましょう」
そう言ってオクソールは去って行った。
「あれ? 本気?」
「殿下、オクソール様に試合とか言ったら食いつきますよ」
「え? そうなの?」
「そうッス。みんなそういうの大好きですし、負けず嫌いッスから」
「ああ……」
「きっと本気でやりますよ」
「ええ~……」
そんなの俺は楽しくないじゃん。見物人になっちゃうじゃん。
俺はね、自分もやりたいの。分かんないかなぁ。