430 番外編ーリリの好奇心
『6/1発売、感謝をこめて!』
番外編の3話目の投稿です。
これで最後になります。
SSですが、読んでいただけると幸いです!
「しょぉ〜っとね」
「だから殿下。今度は何スか?」
小さな身体をより小さくして城の中をトコトコと移動するリリアス。また本人は隠れているつもりらしい。
だが、何度も言うがちゃんと最初から見ている者達がいる。皇帝の側近であるセティ・ナンナドルが率いる隠密集団だ。
リリアスは何度か同じ事をやらかしている。その為、リリアスの警護はより強固なものになっている。
そんな中をコソコソと背中を丸くして走って行くリリアス。
一緒にいるリュカは堂々としたもんだ。
「リュカ、ちゃんと隠りぇて!」
「だから殿下。どこに行くんスか?」
「あのね、お城の1番奥に高い塔がありゅでしょ。あしょこに行きたいんら」
「そんなとこに行ってどうするんスか?」
「なんと、出りゅりゃしいよ」
「何がッスか?」
「だぁかぁりゃぁ、出りゅと言ったらオバケしかないじゃん」
「えぇ〜、そうッスか?」
「しょうらよ」
「そんな所に態々行ってどうするんスか?」
「だって出りゅんらよ。オバケが」
「はいはい」
「見たいじゃん」
「俺は見たくないッス」
「リュカは怖がりらからね」
「で、何で隠れてるんスか?」
「え? だって行ったらダメって言わりぇてりゅかりゃ」
「じゃあ、駄目ッスね。戻りましょう」
「えぇー! リュカ、ダメって言わりぇたりゃ余計に見たくなりゅじゃん!」
「そうッスか?」
「しょうらよ! ほりゃリュカもっと小さくなって! しょぉ〜っとらよ」
そう言いながらもコソコソと柱に隠れながら走って行く。
それも全部隠密集団がしっかりと見ている。あ、その中の1人が走って行ったぞ。これは、誰かに知らせるつもりだろう。
それにしっかりと気付いていたリュカ。
「殿下、やめましょうって」
「らって見たいの! 肝試しらよ」
「きも?」
「肝試し! どりぇだけ怖いのに耐えりゃりぇりゅか試すんらよ!」
「そんな事試さなくていいですって〜」
リュカは全く乗り気ではない。また怒られるのが目に見えている。
だって、隠密集団が見ているから。
それでも2人は城の奥へと進む。
「あら、リリアス殿下。今日は何のお遊びですか?」
途中で出会った侍女に声をかけられてしまう。
「うん、ちょっとね〜」
そうして、ピュ〜ッと走って行く。
今度はシェフが正面から歩いてきた。なんでこんな場所に?
「おやッ! 殿下! こんなところでどうされましたッ!?」
「え、シェフ! 何してんの!?」
「私は裏の畑に行ってましたッ! そうだ、殿下。クッキーがありますよ!」
「しょうなの?」
「はい、召し上がりますか?」
「え、しょう?」
「はいッ!」
脱線している。シェフと2人で廊下の隅に座り込んでクッキーを食べている。
「今日はいい天気らね〜」
「そうですね。昼間は少し暑いくらいですね」
「ね〜、別邸から帰ってきた時はまだ夜とか肌寒かったのに」
シェフとそんな取り留めの無い話をしながら、しっかりクッキーを食べたリリアス。
「ではッ!」
と、シェフが去って行った。
「殿下、何してんスか?」
「え? シェフのクッキーの誘惑には勝てないよ」
「そうッスか」
勝てないのはクッキーだけではないだろう。
それでも2人は城の奥へとやって来た。
ここまで来ると、全く人気がない。使われていないからだ。
「リュカ、もう見張りはいないよね?」
「え……」
いやめっちゃ見られてますけど。なんて事は言えない。
「リュカ、お喉が渇いた」
「クッキーなんて食べるからですよ」
「りんごジュースが飲みたいなぁ」
「飲みますか?」
と、リュカ。
「え? 持ってんの?」
「はい、ニル様に持たされました」
「早く言ってよ。飲むよ」
リュカにりんごジュースをもらってコクコクと飲む。一体何をしているのか?
「さ、戻りましょうか」
「え、なんれ?」
「奥まで来ましたし、クッキーも食べてりんごジュースも飲みましたし」
「リュカ、こりぇかりゃだよ」
マジッスかぁ〜!? とでも思っていそうなリュカ。
リリアスは行く気満々だ。
「リュカ、トイレないかな?」
「だからりんごジュースをあんなに一気に飲むからですよ。抱っこしますよ」
「うん」
リリアスを抱っこして近くのトイレへと走るリュカ。本当に何をしているのだろう。
「ふぅ、危なかった」
「はいはい」
「リュカ、行くよ!」
「はいはい」
リュカはもう諦めモードだ。
今迄に何度こうしてリリアスに連れられて何度一緒に怒られただろう。
そうこうしているうちに、目標の塔が見えてきた。
「リュカ、ありぇだよ」
「そうみたいッスね」
城の1番奥、岩石を切り出して造られた様な物々しい塔だ。きっと、有事の際はこの塔の1番上から見張ったりするのだろう。
入り口も厚みがある木で頑丈にできている。
その前でリリアスとリュカは止まった。
「殿下、開くんスか?」
「知りゃないよ」
「知らないんスか?」
「うん。知りゃない」
「じゃあ、開かなかったら諦めますね?」
「うん、仕方ないじゃん」
中に入れるかどうかも分からないのか? じゃあ何しにやって来たんだ? 中に入ってオバケを見るのじゃないのか?
リュカが扉に手をかけて押した。
「開かないッスね」
「リュカ、引くんだと思うよ?」
「そうッスか?」
リュカが今度は扉を引いてみる。すると、ギギギーと音を立てて扉が開いた。
「開いた!」
「開いてしまいましたねぇ」
2人して、そっと中を見てみる。暗い。灯りもない。
「ねえ、リュカ。入って」
「嫌ですよ。殿下が入って下さいよ」
まるで兄弟だ。
その時だ。リリアスとリュカの後ろに人影が……
「コラッ! またリリか!!」
お決まりだ。そこにはクーファルが立っていた。腕組みをして、正に仁王立ちだ。走って来たのか、少し息が上がっている。
「に、にーしゃま!」
ああ、またお説教だ。と、リュカはもう諦めている。
「ここに来ては駄目だと言ったはずだけどね。リリ、何をしているのかな? リュカ、君もそろそろリリを止められる様になってほしいね」
『そんなの無理ッス』
と、きっとリュカは思っているのだろう。眉を下げて情けない顔をしている。
「すみません。お止めはしたんですが」
「リリ……」
「にーしゃま、ごめんなさい」
「さぁ、部屋に戻ろう」
「えぇ〜、せっかくここまで来たのにぃ」
ああ、言ってしまった。そんな事を言ったら余計に怒られるぞ。
「リリ、だから駄目だと兄様は言ったんだよ」
「あい……」
クーファルにヒョイと抱き上げられる。まるで、連行されるみたいだ。
「ここは有事の際に使われるんだ。リリはまだ小さいから普段は近寄っては駄目だ。もしも扉が閉まってしまったらリリの力では開けられないだろう?」
「あい、にーしゃま」
「本当に、冒険もほどほどにしなさい」
「ごめんなしゃい」
クーファルに怒られて、来る時よりも身体を小さくしているリリ。
だが、これからもきっとリリは好奇心には勝てないだろう。
まだまだ、クーファルが走る事も多そうだ。
読んでいただき有難うございます!
最初は2話の予定でしたが3話できたので投稿します。
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6月1日発売の書籍版も宜しくお願いします!