番外編ーオクソールの婚姻 4
「リリ、レピオス、無理言って悪いね」
「とんでもございませんよ」
「兄さま、大丈夫ですよ。で、どの方が?」
「彼なんだけど」
フォルセ兄さまが紹介してくれたご学友の彼は、確かに目が落ち込んでクマができている。顔色も悪いな、辛そうだ。
「リリアス殿下、鑑定を」
「え? 分かった」
俺はその彼を鑑定する。レピオスはスキャンして見ている。
「これは……」
「殿下……」
俺とレピオスは思わず顔を見合わせた。
「何? リリ、レピオス、何なの?」
「兄さま……中毒です。まだ軽症ですが」
「え!? 中毒!? 一体何の中毒なの!?」
「国が違法薬物だと指定している物ですね。どうやって手に入れたのか……」
「ちょっと! そんな事してたの!?」
フォルセが学友を責める。
「殿下! 俺は全く訳が分かりません! そんな違法薬物なんかに手を出していませんよ!」
「じゃあ、何でだよ!?」
「俺にもさっぱり何の事なんだか……」
「兄さま、とにかく解毒します。レピオス、薬湯をお願い」
「はい。畏まりました」
違法薬物、前世で言うと麻薬だ。中毒性のある植物を違法薬物として国は指定している。もちろん、指定されたものは取り扱い禁止だ。
「中毒性はありますが、これは……何と言うか……少しの高揚感と誘引作用をもたらすのかな……で、摂取しないとなんとなくまた欲しくなる感じ。覚えがないですか?」
「また欲しくなる……あ……! クッキーだ!」
「「クッキー!?」」
そんな物が出回っているのか!? それはいかんな!
「殿下、例のクラッシャー令嬢です!」
「え? ああ、でも距離をおいていたんでしょう?」
「はい。でも毎日マメにクッキーだけ持って来ていたんですよ。自分が手作りしたクッキーだと言って。それが、令嬢が自宅謹慎になって持って来なくなってから、やたらとクッキーが食べたくなって……」
「マジ!? あんなヤバイ令嬢が作ったクッキーをよく食べる気になったね!」
「はぁ、すみません」
「リリ、他にもいるよね?」
「いるでしょうね。フォルセ兄さま、これはもうクーファル兄さまに話した方が良くないですか?」
「リリ、賢明な判断だね」
「クーファル兄さま!」
いつの間に来たのか、クーファルが部屋のドアのところに立っていた。超ヤベー!
「兄上! どうして!?」
「その薬物だよ。学園の教師の中に中毒症状を訴える者がいたんだ。それで、学園に通っているフォルセに注意する様言いに来たんだけどね、リリ」
「は、はい。兄さま」
「君たち2人で何をしていたのかな?」
「え……」
「フォルセ」
「はい! 兄上」
「リリ」
「は、はい、兄さま!」
「また君達2人なのかい?」
「「ごめんなさい!」」
実はこの頃から既に、フォルセ兄さまと俺は2人でチラホラとやらかしていた。
何度か、クーファルに叱られていたんだ。まだ、可愛いもんなんだぜ。中庭で2人してユキに乗って走ったりとかさ、その程度だよ。俺が、学園を卒業してアカデミーに通っていた頃なんて、本当によく2人で叱られた。思わずフォルセと2人で直立不動だ。
「で、そのクラッシャー令嬢が作ったクッキーだと」
「はい」
俺とフォルセは全部包み隠さずクーファルに話をした。俺なんてソファーの上に正座しようかって位だよ。
オクソールまで、何故か大きな身体を小さくして畏まっている。
「君は食べたのか。たしか、侯爵家だったね?」
「は、はい!」
「高位の侯爵家の子息ともあろう者がそんな令嬢からもらった物を口にするなど」
「申し訳ありません。腹が減っていたので……」
「危機感が無さすぎだね」
「言葉もありません」
可哀想に、フォルセの学友は俺達よりも小さくなっている。
「失礼致します。薬湯をお持ちしました……おや、クーファル殿下」
「レピオス、手間をかけるね」
「いえ、とんでもございません。この薬湯をお飲み下さい」
そう言ってレピオスが薬湯を渡す。が……
「しかしですね。これは1度飲んだからといって解毒できるものではないのですよ。数週間、もしくはそれ以上続けて飲んで頂かないといけません。中毒ですからね」
「はあ……」
「レピオス、彼1人じゃないんだ」
「クーファル殿下、それは……どう言う事になっているのですか?」
「君、そのクッキーは持っていないのか?」
「はい、全部食べてしまいました」
「本当に、呆れるよ」
「申し訳ありません」
なんか、可哀想になってきたぞ。
「殿下、そのクッキーが原因なのですか?」
「そうなんだ。学園に通っている1女生徒が男子生徒や教師に配っていたクッキーなんだそうだ」
「殿下、学生が手に入れられる様な物ではありません。もちろん、街の薬店にもありません」
「それはそうだろう。国では違法薬物を厳しく取り締まっているからね。それを売買したら重罪だ」
「え!? 俺……私は知らずに食べて……」
「ああ、大丈夫だ。君は被害者だろう」
被害者だとクーファルに言われてホッとしているフォルセの学友。
なんか、あれか? もしかして、高位の貴族子息に片っ端から配り歩いてるってヤツか?
「リリ、どうやらそうらしい」
あれ? 俺はまだ何も言ってないぞ? クーファル、やっぱ怖い。
「リリ、私は怖くないよ?」
「え? もちろんですよ、兄さま」
いかん、顔が引き攣るぜ。
しかし、オクソールの婚約者の話からえらい大事になってきた。
「で、そのクラッシャー令嬢がオクソールの婚約者の姉だと」
「はい、クーファル殿下」
「なんと、オクソール様の!?」
レピオスがビックリしてるよ。オクソール、もう大っぴらにしない訳にはいかないぜ。分かるよな? と、俺はオクソールを見る。
「殿下、仕方ありません」
「うん、そうだね」
「とにかく、この話は私が預かるよ。君はレピオスに薬湯の処方箋を書いてもらいなさい。いいかな? フォルセ、リリ。もう勝手に動いたら駄目だよ」
「「はい!」」
俺とフォルセはピシッと返事した。もちろん、怖いからだ。クーファルは兄弟の中でも1番怖い。いい兄なんだけどね。