番外編ーオクソールの婚姻 3
「リリ! いる!?」
突然、フォルセが俺の部屋にやって来た。あれ? 学園に行っている時間じゃないのか?
「フォルセ兄さま、どうしたんですか?」
「リリ、大変だよ! オクソールの婚約者が姉に階段から突き落とされた!」
「ええッ!?」
「信じらんないでしょう? 実の妹を突き落としたんだよ!? オクソールが自分を見てくれないのは妹のせいだって。邪魔するからだって。父親に告げ口したんだろって言ってたらしいよ!」
「兄さま……マズイですね」
「ね、ビックリしちゃった! まさかそんな事をすると思わないじゃない? でも、もっと証拠を集めてから慎重に動くべきだったよ!」
本当だ。フォルセ兄さまの言う通りだ。
俺達が軽はずみに動いたせいで。
「オク、行ってあげて!」
「しかし……」
「リリ、今はどこにいるのか分からないじゃん」
「あ、そうですね。父親は知らないのですか?」
「どうだろ? 僕、学園の先生達を探ってみようか?」
「兄さま、お願いします」
「うん、じゃあまた何か分かったら知らせるよ!」
フォルセがバタバタと部屋を出て行った。きっと、早く知らせようと学園を抜け出して来てくれたんだ。
「オク、父親は?」
「クルーガー伯爵は今頃だと城におられるかと」
「じゃあ、会いに行こう!」
「いえ、リリアス殿下が動かれると大事になってしまいます。私だけ行っても宜しいでしょうか?」
「そっか。うん、オク。行って! 助けてあげなきゃ!」
「では、少し離れます。リュカ、頼んだ」
「はい! 大丈夫ですから!」
オクソールが部屋を出て行った。
「オクソール様、珍しいですね」
「え? 何が?」
「何があっても殿下のそばを離れられない方なのに」
「んー、まあ今回は仕方ないよね。階段から落ちたって……最悪な事態も起こり得るからね」
「そうですね。ビックリです」
「本当だよね。やっぱ令嬢って怖いわ!」
「アハハハ! 殿下、そんな令嬢の方が珍しいですから」
「そうだけどさぁ」
俺、マジで令嬢不信になっちゃうよ。
結局、その後しばらく令嬢がどこにいるのか掴めなかったんだ。
父親の職場に行ったオクソールだけど、一歩遅かった。父親は早退した後だったんだ。その後、数日登城してこなかった。
フォルセ兄さまも学園の先生に聞いたりしてくれたけど、デリケートな問題だし、知る事はできなかった。
姉はと言うと、学園から自宅謹慎を言い渡されていた。
その時も、自分は突き落としていない。妹が勝手に落ちたんだとか言い訳していたらしいが、複数の目撃者がいたし姉の評判は先生方にも良くなかったんだ。
後から分かった事なんだが、数人の先生と問題を起こしていたらしい。それに、真面目な妹と違って成績が悪い。単位が欲しくて男性教諭に迫った事もあったらしい。
次から次へと出てくる悪い話に、俺は本当に驚いた。女の武器をフル活用していたんだ。
まさか、そんな令嬢がいたなんて。今迄父親が気付かなかった事も不思議だ。
あれだね、異性の前と同性の前とでは態度が違うって子だね。
数日後、父親が登城してきてやっと話が聞けたんだ。
「オク、で?」
「はい、大きな怪我もなく打身程度ですんだそうです。療養も兼ねて、父親の両親の家に預けているそうです。自宅謹慎になった姉が家にいるので、同じ家には置いてはおけないとの判断だそうです」
「そう、安全な場所にいるんだね」
「はい、らしいです」
「でも、一時凌ぎだよね」
「はい」
「伯爵が夫人や姉とちゃんと話をしなきゃ」
「仰る通りです」
「オクはどうすんの?」
「どうとは……?」
「だって、そんな家の令嬢でしょう?」
「はあ、そうなんですが……」
「が?」
「その……リタ……妹ですが、真面目な大人しい令嬢なのです」
「姉とは大違いなんだね」
「はい。しかし、今回母親と話して思ったのですが……」
「うん、何?」
「もしかしたら、彼女は幼い頃から母親や姉に虐められて育ったのではないかと」
「あー、あり得るよね」
「はい。伯爵は気付いていなかった様ですが」
「可哀想に……オクは、婚約を無かった事にするつもりはないんだね?」
「はい。もしも、虐められて育ってきたのなら、私位は味方になってあげたいと」
「そう。なら一層の事オクの実家で引き取っちゃえば?」
「殿下、それは……」
「だめ?」
「いや、両親は喜ぶと思いますが……」
「そうなの?」
「はい、両親は彼女を可愛がっておりますから。うちは男3人ですし」
「そうなんだ。でもまあ、伯爵のご両親がいるもんね」
「はい」
そうさ。クルーガー伯爵のご両親がいるのに、差し出がましい事はできない。
仕方ないけど、様子見だったんだ。
この事件が、また違う事件に結び付くとは思いもしなかった。
ホント、何がきっかけになるか分からない。
問題の姉が謹慎になってから、男性教諭と生徒の中に体調不良を訴える者が出だしたんだ。
皆、同じ症状で頭が重い、ボーッとする、吐き気がする。て、ものなんだが。
偶々、その症状を訴える生徒の中にフォルセの学友がいたんだ。
「リリ、忙しいかな?」
「フォルセ兄さま、いいえ。どうしました?」
「僕の友達なんだけどさぁ、ちょっと見てくれない?」
「兄さま、見るとは?」
「この2〜3日ね、頭がぼーっとして少し吐き気がするんだって。動けない程じゃないそうなんだけど。目の下にクマができていてさぁ、見てらんないんだ」
「体調不良ですか? なら、ボクよりレピオスの方が良くないですか?」
「もし平気なら2人に見てもらいたいんだ。実は例の令嬢と少し接点があった奴でね。あ、婚約破棄とかはしていないよ。ちゃんと気がついていて、線引きしていたから。でもね、なんか引っかかるって言うか、気になっちゃって」
「分かりました。レピオスと一緒に行きます」
「ホント? ありがとう! 部屋で待ってるね!」
フォルセのこんな時の『気になる』は無下にできない。勘がいいんだ。俺に婚姻するつもりがないのを唯一見抜いていたのもフォルセだ。
俺は早速、レピオスを連れてフォルセの部屋を訪ねた。