番外編ー11.なってない
「殿下! お昼です!」
シェフだよ。張り切っているよ。てか、シェフもいつも元気だよね。
「隊員達は? 皆食べようよ」
「大丈夫ですよ。別の部屋で皆食べますから」
「そう? 伯爵も一緒にどうですか? ね、兄さま。シェフ、あるでしょ?」
「もちろんです! 沢山ありますよ!」
「リリ、こちらの料理人が用意しているだろう?」
「あ、兄さま。そうですか?」
「ああ。まあ、もしよければと声を掛けてみるかい?」
「はい、兄さま」
と、言う事で……
結局、皆で食べている。馬鹿子息と父親も一緒だ。
「こんな美味いものを食べた事がない!」
あー、はいはい。お決まりだねー。これは馬鹿子息の父親のセリフだ。元気なんだよ、この人も。
「ボクのシェフの料理は美味しいでしょ?」
「はい、殿下!」
これは、馬鹿子息だ。お前、自分がやった事を忘れたとは言わせねーぞ。ユキの事といいさ。昼食が終わったらゼッテーにシメてやるぜぃ!
なんて、思ってたんだけどさ。やっぱ寝てしまうさ。なんたって5歳だからさぁ。満腹になったらもう我慢できなかったわ。
「殿下、よく寝られましたか?」
「オク、うん。よく寝た。食べたらあの馬鹿子息、追い詰めてやろうと思っていたのに」
「アハハハ、皆また討伐に出てますよ」
「リュカも?」
「はい、出てます」
「あー……討伐と言えば、オク。あれじゃあ無理だよね?」
「はい。力不足ですね」
「それに防御壁もね」
「はい、その通りですね。アスラール殿が、魔物避けの作り方を教えておられましたよ」
だと、してもだ。
「なんで、河を挟んだだけでこんなに違うんだろう」
「何がです?」
「魔法が使えるか使えないかだよ」
「そうですね。建国当時は帝国が1番被害が酷かったからでしょうか? もしかしたら、魔法が使えないと生きて行けなかったのかも知れません。大河に挟まれて逃げ場もなかったでしょうし。
しかし、今実際にこの国の人達は使えないのですから仕方ありません。ただ、剣はもっと使えても良いかと思いますね。中途半端に銃などあるから飛び道具に頼ってしまうのでしょう」
「そうだね。あんなの、かすり傷じゃん」
「まったくです」
「接近戦が怖いんだよ」
「それは慣れです。あと日頃の鍛練ですね。自信がないから余計に怖いのでしょう」
なるほど……て、事はだな。
「鍛練が足らない?」
「はい、もちろんです。まったくなってないですね。帝国では騎士団どころか衛兵にさえなれません」
だよなぁ……でも、他国の事だしね。彼等でなんとかしなきゃだよ。
俺がまた応接室に戻ると、伯爵2人と馬鹿子息、クーファルとアスラールがいた。
「リリ、おきたかい」
「はい、兄さま。まだ討伐に出てるのですか?」
「ああ、少しでも減らしておきたいそうだよ。一応、穢れも注意している。もういないだろうけどね」
そう言いながらもクーファルは馬鹿子息を睨みつける。
めっちゃ小さくなってるよ。流石にもうバインドはしていないけどさ。本当、余計な事をしてくれたぜ。
「兄さま、あのご遺体は……」
「ああ、グラーク伯爵が責任をもって家族に連絡して弔うそうだ」
「そうですか、良かった」
まあ、それが決まったならもう俺は言う事ないね。ユキさんはどうだ?
「我もリリが良いなら良いぞ」
あれれ、もっと怒るのかと思ったよ。
「まあ、我も油断しておったしな。それにあれがなかったらリリとも会えなかっただろう?」
おっと。ユキちゃんがデレたよ。嬉しいねー。
ユキは知らん顔をしているが、尻尾が大きくゆっくりと振れているぞ。
「クーファル殿下、リリアス殿下……」
馬鹿子息の父親、グラーク伯爵だ。
「此度はこの馬鹿息子が大変なご迷惑をお掛けしまして、誠に申し訳ありませんでした。どうか、気の済む様に罰してやって下さい」
いやいや、俺はそんな気ないぜ? クーファルは?
「私達はこの国の人間ではない。其方達で良い様にすればいい」
「殿下! その様な訳には参りません! 隣国にまでご迷惑をお掛けしたのです! 此奴の命一つで許して頂けるなら……」
「あー、伯爵。やめてくれ。父である皇帝陛下にも了承を得ている。そう思うのであれば、命を賭して魔物対策をすればよい。実際に我が国の辺境伯領にまで魔物はやってきているのだからな」
うんうん、その通りだね。
「殿下! 誓います! 私の一生を懸けて魔物対策に取り組みます! 国にも進言しないと!」
「コラッ! お前の罪が消えた訳ではないぞ!! とんでもない事をやらかしたと自覚はあるのか!! あの遺体の3人は被害者だぞ!」
そう言いながらまた叩いている。元気だねー。まだまだ現役じゃんよ。何が隠居だ。
「ち、父上!」
「グラーク伯爵もまだまだ隠居するのは早いみたいですね」
「リリアス殿下、私も一緒に償って参ります! このご恩をどうお返しすれば良いのか!!」
アハハハ、いちいち大袈裟なんだよ。皇帝と偉い違いだ。
「リリ、それは思ってはいけない……」
「あらら、兄さま」
またクーファルに読まれちまったぜ。
「リリアス殿下、定期的に指導を兼ねて交流する事になりました」
「アスラ殿、そうなの? それは良い事だ」
「それでだ、リリ」
「はい、兄さま」
俺、りんごジュース飲もうかとしてたんだけど……タイミング悪いな。
いつも読んで頂きありがとうございます!
次話でラストです。多分……