番外編ー10.討伐
それから俺達は討伐に出た。取り敢えず、昼までの少しの間だけでも実際に見せようと。
タクラート伯爵が馬を出してくれた。伯爵家の兵も付いてきている。
辺境伯領と違って、森までの距離があまりない。防御壁も簡単なものしかない。これじゃあ、魔物の被害は防げない。
アスラールとセインが色々指導している。この木の樹液が魔物避けになる。防御壁を作る時にも混ぜるといい。魔物避けには……と、逐一教えている。
帝国の辺境伯領では当たり前の防御が、こっちでは為されていない。と、言うか知識がなさすぎる。
馬は必要ないんじゃないか? て、距離でもうチラホラ魔物が出てきた。
まず、普段はどうやって討伐しているのか見せてもらった。この国では銃を使うんだ。兵達は撃っているが、命中しても1度では死なない。
しかも、まだまだ弱い種類の魔物だ。アレだよ。辺境伯領の森でも出てきた、でっかい蜘蛛とかグリーンマンティスだよ。そんなの皆一刀で倒していた。
「兄さま……」
「ああ、これじゃあ駄目だ」
クーファルが目配せすると、アスラールが出た。
バラバラと出てきていたグリーンマンティスをあっという間に討伐していく。それが、合図になり領主隊も騎士団も動き出した。
「凄い……」
「魔物は一気に首か頭だ。銃より剣。確実に急所を狙う事だ」
「殿下……しかし、剣だと接近戦になりますぞ」
「伯爵、何を言っている。当然だろう。その為に日々鍛練するんだ」
森を進んで行くと、ワニの魔物のリザードが出てきた。リザードマンより弱い魔物だ。下位種と言う感じ。
シェフが瞬殺した。他の隊員がマジックバッグに収納している。食べられないから自分のマジックバッグには入れないそうだ。シェフらしいな。
伯爵達はただただ感心して見ていた。子息2人もだ。危ないから念の為、シールドを張っておこう。
「リリ、我がする」
「ユキ、そう?」
ユキが造作もなくシールドを張る。それにも、驚きと感心の声が上がる。
こんな状態では、魔物を討伐するのも大変だろう。実力も知識も足りていない。
「リリアス殿下!」
お、呼ばれたぜ。なんだなんだ?
「見て下さい。あれは穢れですよね」
領主隊隊長のウルが確認してきた。ワニのお腹辺りから黒いモヤモヤが出ている。
「あらら、本当だね。モヤモヤ出てるじゃん。食べちゃったのかな?」
「殿下、取り敢えずやっちゃっていいってスか!?」
「リュカ、いいよ!」
次の瞬間、リュカがあっさりと倒した。
俺はそのモヤモヤが出ていたワニの魔物の側に行く。浄化しなきゃな。
『ピュリフィケーション』
魔物が白い光に包まれた。伯爵家の兵達がポカーンとして見ている。
「リュカ、身体の中に弾丸が入ってるね」
「みたいですね、ここら辺ですか?」
リュカがまだ黒いモヤモヤが浮き出ている部分をザックリと斬る。
「あー、あったあった」
コロンと真っ黒なクリスタルの弾丸が出てきた。
『ディスエンチャント』
弾丸が白く光り透明なクリスタルへと変化した。うん、もう大丈夫だ。
「リリアス殿下! こっちにもいます!」
「殿下! こっちもです!」
キリがないじゃんか!
「殿下、倒してまとめますか?」
「うん、リュカ。そうしてくれる?」
「了解ッス!」
リュカが声をかけてきた隊員の方へ走って行った。
俺は透明になったクリスタルを持って馬鹿子息のところへ向かう。
「リリ、我に乗れ」
「そう? ユキ、ありがとう」
よっこらしょとユキに乗って進む。なんせまだ5歳なもんでね。森の中を歩くのは危なっかしいんだ。
「これ、見て下さい。呪詛を解呪した弾丸です」
そう言ってユキに乗ったまま伯爵や子息達に見せる。
「さっき見てました? 黒いモヤモヤが出ていたでしょう。この呪詛で魔物が穢れてしまうのです。だから、穢れを浄化して尚且つ呪詛を込めた弾丸を解呪しないと駄目なんです。そのままにしておくと、魔物が凶暴化します。死体を放っておくと澱みになります。分かりますか? 自分が何をしていたか分かる? 国を潰す事になったかも知れないんだよ」
馬鹿子息は黙って見ている。
「でも! でも殿下! 普通の弾丸では魔物は死なないんです!」
「急所を狙わないからだよ。撃てばいいってもんじゃない。見て。領主隊も騎士団もみんな首を狙っているでしょう? 今日来ている隊員達が特別強いんじゃないんだ。帝国ではこれ位の実力がないと兵にはなれないんだよ」
そう言いながら、こちらに突進してきた魔物に魔法を放つ。
『ウインドカッター』
風の刃がシュンッと飛び、魔物の首を切り落とした。
「で、殿下……」
「ああ、ボクはまだ小さいから魔法が中心なんだ。剣は重いから」
「魔法……」
「そう、攻撃魔法ね。今のは簡単な魔法だから魔力があれば使える人もいる筈だ。弾丸より剣だよ。一気に首を落とす。若しくは魔法。確かに銃も威力はあるけど魔物にはイマイチだね。大型のライフル銃で狙いを定めて頭を撃ち抜く位じゃないと駄目だ。でも、いつどこから出てくるか分からない魔物に対して、狙いを定めるなんて難しいでしょ?」
リュカや隊員達が穢れている魔物をまとめておいてくれたから、それもサクッと解呪して浄化もした。さて、午前中はこれ位で良いんじゃないかな? と、クーファルを見る。
ソールが笛をふいた。散らばっていた隊員達が戻ってくる。
「兄さま、お腹がすきました」
「リリ、そんな時間か」
そうだよ、戻ろうぜ。昼食にしようぜ。
「1度、戻ろうか。昼食を食べてからまた出よう」
お、忘れてないか? 俺は昼食べたら寝ちゃうぜ。
「リリはいいんだよ。大事なんだろう?」
「はい、兄さま」
「リリアス殿下は何か大事な事がお有りなのですか?」
タクラート伯爵が聞いてきた。
「リリはお昼寝があるんだ」
「昼寝……ですか」
「お昼寝は大事」
「クククク……なんと、殿下はお可愛らしい」
まだ5歳だからね。お昼寝は大事さ。
明日が金曜日で良かった!
ラストがぁ! どうしよう!
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