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42ーサウエル辺境伯

「失礼致します。リリアス殿下とレピオス様をお連れ致しました」


 父の執務室のドアの前で、リュカが声をかける。


「入りなさい」


 父の声で返事があった。


「お呼びですか、父さま」


 俺に続いてレピオスとリュカが入る。

 執務室には父と側近のセティ、もう一人知らない貴族がいた。この貴族。只者じゃない。雰囲気や身体付きも普通じゃないぞ。


 俺の父、この国アーサヘイム帝国の皇帝だ。オージン・ド・アーサヘイム。御歳45歳。

 5男3女の父だ。見えないね〜。キラッキラのイケメン、いやイケオジになるのか? は健在だ。因みに俺は末っ子の第5皇子だ。


 2年前、3歳の時に俺は湖に突き落とされた。その時の犯人が第1側妃一派とその次女である第3皇女だった。

 第1側妃達一派は賜死。実行犯だった第3皇女は北の修道院へ。姉の第2皇女は、自らの希望でシスターになる為に教会へ。

 それ以降、順に繰り上がり第2側妃は第1側妃へ、俺の母は第3側妃から第2側妃になっている。

 あの事件の時に、光の精霊であるルーが……


「人間共よ。光の神を舐めるなよ」


 ……と、凄んだらしい。それ以降、俺は狙われる事もなく平和に過ごせている。

 あの事件は俺が前世を思い出したキッカケでもあり、実の姉に命を狙われたと言う1番苦い思い出でもある。


「ああ、リリ。オクソールの鍛練はどうだい?」

「父さま、ボクは毎日半分死んでます」

「ハハハ、そうかい? オクソールの鍛練はキツイらしいからね。でもリリ、初日から最後までこなしていたそうじゃないか」

「意地です」

「意地なのかい? ハハハ。リリ、レピオス紹介しよう。こちらはアラウィン・サウエル辺境伯だ。私の学友でもある」

「リリアス殿下、レピオス殿。お初にお目にかかります。アラウィン・サウエルでございます。どうぞお見知り置きを」


 そう言って軽く頭を下げる。辺境伯か。なるほど、普通じゃない筈だ。


 アラウィン・サウエル辺境伯。帝国の南端、帝国で唯一強い魔物が出る地域を守護してくれている。

 強い意志を感じさせる蒼色の瞳に、ブルーシルバーの長髪を無造作に後ろで結んでいる。ガタイが違う。見るからに屈強そうだ。


「初めまして、リリアスです」

「お初にお目にかかります。レピオス・コローニと申します」

「皆、掛けなさい」


 父に言われ、ソファにヨイショと座る。まだ小さいんだよ、俺。リュカが俺の後ろに控える。


「リリの5歳の披露目の話もしたいんだが、今日は違うんだ」


 違うのか。そうか、レピオスが一緒だもんな。辺境伯もいるし。


「陛下、私からお話致します」

「ああ、アラ頼む」

「その前に、リリアス殿下。辺境の事はどれ位ご存知でしょう?」


 辺境伯に聞かれたよ。どれ位って……殆ど知らないよね。


「リーセ河とノール河がボスコニ湾へと流れ込む周辺を含めた、南端の地。辺境伯はノール河沿岸の、魔物が出る地域も守って下さっている。位しか知りません。申し訳ないです」

「いいえ、リリアス殿下。普通はその程度です。その辺境の地をどう捉えておられますか?」


 なんだ? どうと言われてもね。


「ボクは……帝国の大変な地域を守って下さっている重要な地だと思っています」

「なるほど。充分でございます。時々馬鹿な貴族がおりまして、辺境はただのど田舎だと言う者がいるのです」

 

 そうなのか? 本当に馬鹿だな。


「辺境伯、帝国の貴族にその様な者がいるのですか?」

「はい。リリアス殿下」

「父さま、再教育しないと」

「ああ」

「それでは本題に入ります。3ヶ月程前になると思います。ノール河沿岸の森へ、討伐に出ていた兵の中に首や手首にかぶれを起こす者が出たのです。隊服から出ている部分でしたので、森の草木にでもかぶれたのだろうと軽く考えていました。何の症状もなく治る者もいるのですが、一部に発熱する者が出だしました。そのうち、家族にも同じ症状の者が出るようになりました。その原因が全く分からず、しかし魔物は待ってくれませんので森へ入らない訳にもいかず。それでご相談に上がった次第です」


 なるほど。草木、虫、蜘蛛、ダニ、毛虫……予想できる原因は多いな。しかも、発熱か……


「サウエル辺境伯様、例えばです。森を移動されている時に、チクッと刺された様な違和感があったとか、その様な事はありませんか?」


 さすが、レピオス。もう分かっているよ。


「それが、森の中はご存知の様に樹木だけではありません。背の低い草木もあります。ですので、常にチクチクしているとでも申しましょうか。魔物と向き合っている時は、その事も気にならないと申しますか…… 」


 まあ、そうだよなぁ。レピオスどうする?


「……殿下」


 え? レピオス、俺なの? いやいや。と、首を横に振る。


「殿下、取り急ぎ対処法ですが…… 」

 

 ああ、そっちね。対処法を説明すれば良いんだね。


「うん。とにかく身体を、肌を出さないことしかないです」

「肌を出さない、ですか」

「はい。手なら手袋です。できれば服の袖を中に入れられるような肘まである長さの。足はロングブーツですよね。靴下の中にズボンを入れその上からブーツ。首は……スカーフとか? あと布を巻いて口を隠すのもいいです。それと、森から出たら必ず服を脱いでよーく叩いてから家に入る。クリーンする。くらいかな?」

「はぁ…… 」

「今、殿下が言われたのは、草木のトゲなどを防ぐのにも有効です。あと虫ですね。小さい虫が付着しても防げます。かぶれ部分は流水で念入りに洗い流す。もし刺された様な、噛まれた様な痕があればその時に微量の毒を体内に入れられますので、直にではなく筒の様な物を当てて吸い出す。しかし、原因を特定しなければなんとも」

 

 そう、レピオス。その通りだ。


「リリ、レピオス。行ってくれるかい?」


 父よ。やっぱり、そう来たか。


「ちょうど騎士団が行くんだよ。ついでにさ、一緒にどう?」


 レピオス。頼むよ。


「……殿下。ご自分でどうぞ」


 いや、俺まだ5歳だよ。前世なら、義務教育前の幼児だ。幼稚園児だよ。辺境伯領は遠いよ? ちょっとお使いに、とかじゃないんだよ?


「父さま、またボクは一人ですか?」


 思い切り悲しそうな顔をして言ってみた。


「リリ、それは言ってはいけない」


 なんでだよ。だって、そうだよね。


「失礼致します!」


 急に勢いよくドアが開いた。そして入って来たのが……

 フィオン・ド・アーサヘイム 第1皇女だ。


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