番外編ー6.タクラート伯爵
応接室に入ると全員集合していた。シェフと騎士団長と領主隊隊長もいた。
「リリ、浄化は終わったか?」
「はい、兄さま。無事に終わりました」
「じゃあ、本題だ」
隣国の貴族だよな。どうすんだ?
「リリ、結論から言うとね……」
クーファルが言うには……
例の貴族オダール・タクラートの息子夫婦を解放する事。
隣領の馬鹿子息達を捕らえる事。
対岸の森に穢れを負った魔物がいれば討伐する事。ついでに、少し魔物を間引こう。
と、いう話になったらしい。だが、1番の問題がどうやって隣国の対岸領に行くかだ。
俺はまだ転移を覚えてないしなぁ。今、実際に転移出来るのはユキだけなんだよな。
「兄さま、1番肝心なとこですね」
「ああ、リリ。そうなんだ。ユキ、往復出来るか?」
「ああ、問題ない」
あら、ユキさん。本当に凄いね。
「リリ、僕を忘れてないか?」
ポンッとルーが現れた。
「最近、僕の出番が全然ないよね」
何言ってんだよ。ルーがいつもいないんじゃん。
「リリ、そんな事は……」
「あるじゃん」
「リリ、冷たいね」
まあ、何でもいいんだけどさ。でも、頼っていいなら助かるよ。
「ああ、リリ。今回だけ特別な。でも僕だって無限に転移させられる訳じゃないからね。何より隣国は光の神が加護を授けてないからね。僕は制限される」
そうなのか? よく分からんが。
「ルー、何人位いけそう? 後はユキに往復してもらうよ」
「そうか? で、メンバーは?」
そうだ。向こう側に行くメンバーだよ。
俺にクーファル、ソール、オクソール、リュカ、シェフ、ユキ、それからアスラールがこっちの領主代理で行く事になった。それから、アスラールの側近でセイン。後は騎士団と領主隊が行けるだけ連れて行きたい。
「そうか。じゃあ、とりあえず1度目はリリ達とあと4人かな。続けてまた僕が転移させてあげるよ」
「ルー、凄いね!」
「光の精霊だからね!」
「ルー様、大変申し訳ありません」
「いや、クーファル。延いては辺境伯領を守る為だろ? て、事は帝国の為だ」
「ルー、ありがとう! 頼りになる鳥さんだね!」
「リリ、それ止めて」
「アハハハ、本当にありがとう!」
「リリ、いいって事よ! また行く時に呼んでよ」
そしてまた、ポンッと消えた。なんかズルするみたいだけど、頼らせてもらおう。
「じゃあ、オダール・タクラートに話を聞きに行こうか」
大丈夫かな? 意識あるよな?
「大変ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ございません!」
部屋に行くと、オダール・タクラートがベッドから出てガバッと頭を下げてきた。
意識があるどころが、元気じゃん。
「駄目です! あまり急に動いたりしないで下さい! 回復した訳じゃないんですから!」
「構わないから、ベッドに戻りなさい」
クーファルに言われて申し訳なさそうにベッドに戻った。
「私は帝国第2皇子のクーファル・ド・アーサヘイムだ。其方を解毒したのが弟で第5皇子のリリアスだ。話を聞かせてもらえるか?」
「はい! もちろんでございます」
「私はこの領地の辺境伯、アラウィン・サウエルです。これは同行する事になる嫡男のアスラールです」
「私は対岸の領地を治めておりましたオダール・タクラートと申します。伯爵位を拝命しております。その、同行とは……?」
「ああ、タクラート伯爵か。其方を送らないといけないだろう。ご遺体もだ」
「皇子殿下、助けて頂いただけでも充分でございます。後は我が国の船でも待ちます」
おいおい、遠慮しているんだろうが。そんな猶予はないんだぜ。
「伯爵の夫人から文をもらって事情は把握している。いつ来るかも分からない船を待つ余裕はないだろう。ユキからも話を聞いた」
「皇子殿下、ユキとは?」
「其方を連れて来た神獣だ。リリアスを守護してくれている」
「なんと! 守護ですか!?」
タクラート伯爵だっけ。元気だな。ポーション効きすぎたか? 後が辛いぞ。
「しかし、河を渡る訳にもいきません」
「タクラート伯爵、帝国を甘く見るなよ」
クーファル、そんな凄まなくてもいいと俺は思うよ。
その後、クーファルが計画を説明した……今度はベッドの上で土下座したよ。タクラート伯爵がさ。
「誠に! 誠に申し訳ない事にございます! が、しかし! 誠に有り難く!」
ああ、はいはい。もういいからさぁ。
「あの、タクラート伯爵。今はボクが解毒をした後にヒールをしてポーションも飲んで薬湯も飲んでもらっているので元気なのです。でも、実際は身体は回復してませんから。もっと静かにされる方が良いですよ。後が辛くなりますよ」
「リリアス殿下、ヒールとは回復魔法を使われるのですか?」
「タクラート伯爵、君は知らないか? 帝国で光属性の魔力を持ち、光の精霊の加護を受けている皇子の事を」
「もちろん、存じております。有名な話ですから」
「その皇子がリリアスだ」
「な! な! なんとぉッ!!」
だからさぁ、もうちょっと大人しくしようぜ。
「殿下は、神獣の守護だけでなく精霊の加護まで!」
拝みたおす勢いだぜ。クーファルもう止めてくれ。
「伯爵の夫人も心配だろう。よくできた夫人ではないか。文には自分達を助けて欲しいとは一言も書かれていなかった。伯爵を助けて欲しいとそれだけだったぞ」
「そうですか……その様な事を。本当に突然の出来事だったのです。隠居されている前領主とは交流もあったのですが、この様な事を許される人ではないのです」
「長男に家督を譲られたのだったか」
「はい。今回乗り込んできたのは三男です。あの馬鹿三男坊がぁッ!!」
なるほどね。暴走でもしちゃったか?
でもホント、今は大人しくする方がいいよ、タクラート伯爵。