番外編ー2.解呪と浄化
「おっちゃん、行こう! 連れてって」
「ニルズ、構わない。ご案内しなさい」
「ああ! すまねえ!」
俺と、ユキ、オクソールとリュカはニルズに案内されて邸の治療室へと急ぐ。
「薬師の人達が色々やってくれたんだが、駄目なんだ」
「おっちゃん、そりゃ無理だよ。それは呪詛だからね」
「じゅ、呪詛!?」
「そう。ユキが呪詛の込められた弾丸で撃たれてたんだ。きっと同じだよ」
「そうなのか!? あ、ユキを助けたってのは呪詛から助けたのか!?」
「うん、そうだよ」
「マジ、リリ殿下ハンパねーな!」
ん? 意味が分からんぞ? なんでだ?
治療室に入ると、レイリがいた。ベッドには元気だったテティが苦しそうな顔をして寝ている。
「リリアス殿下……!?」
「レイリ、ご苦労さま。治療できないでしょう?」
「そうなんです。何をやっても駄目で……」
「レイリ、テティは呪詛に侵されているんだ。穢れているんだよ。よーく、テティを見て。少し……微かだけど、黒いモヤモヤが見えない?」
「黒いモヤモヤですか……あ、ああ。確かに!」
「あれが、穢れなんだ。ご遺体が持っていたライフルに呪詛が込められた弾丸があったんだ。そのせいだよ」
テティは遺体を触ったのか? いや、ニルズの方が絶対に触ってるよな。とにかく、テティも確認しなきゃだな。
『鑑定』
やはりだ。呪詛による穢れに侵されている。これは、遺体が浮いていた近辺も確認する必要があるか?
俺は、苦しそうに寝ているテティに向かって手をかざす。
『ピュリフィケーション』
白い光がテティの身体を包み込み消えていった。
『鑑定』
「うん、おっちゃん。もう大丈夫だ」
「そうか! リリ殿下! ありがとうよ! 本当にありがとう!」
「おっちゃん、間に合って良かったよ。レイリ、体力がおちていると思うから薬湯でゆっくり回復して」
「はい、殿下。あの……先ほどは一体何を……?」
俺は、レイリに説明した。
呪詛による穢れに侵されているから、浄化したと。
「殿下、私には出来ませんか?」
「どうだろ……レイリ、ディスエンチャントはできる?」
「いえ、私はできませんが……アイシャが出来たはずです」
「そう、じゃあアイシャなら出来るかな? ピュリフィケーション、浄化だよ」
「なるほど、覚えておきます」
「うん、そうして。もしかしたらテティ以外にも浄化が必要な人がいるかも知れない」
その時、テティがゆっくりと目を覚ました。
「……え……? あ、リリ殿下……!」
「うん! テティ! もう大丈夫だよ!」
「私……身体が急に重くなって……」
「うん。テティ、ご遺体に触っちゃった?」
「いえ、ご遺体には触れてません。持ち物のバッグとかを運んだだけなんです」
持ち物か……バッグだと色々入っているよなぁ。
「殿下……」
「うん、オク。とにかく兄さまに報告だね」
「はい」
ま、とにかく良かったよ。さっきよりずっと顔色の良くなったテティを見る。
「テティ、久しぶりだね」
俺はテティの側にいき、手を握る。
「はい、殿下。またお世話になってしまいましたね」
「テティは元気でいてくれなきゃ」
「殿下、ありがとうございます」
「じゃあ、レイリ。あとはお願いね」
「はい、殿下」
俺達はニルズと一緒に応接室に戻る。まだ聞きたい事があるからな。
「リリ、どうだった?」
「はい、兄さま。やはり呪詛による穢れでした。浄化したのでもう大丈夫です。
兄さま、テティはご遺体には触れていないそうです。荷物のバッグを持っただけなんだそうです」
「そうか……バッグか。もしかしたら、他にも浄化が必要な者がいるかも知れないね」
「そうなんです。だから、おっちゃん。ご遺体を発見した時に一緒にいた人達の中で不調を訴える人がいないか調べられない?」
「簡単だ! 聞いてくるわ!」
「うん、お願い」
「リリ、ご遺体と所持品を見る必要があるね」
「はい、兄さま……」
ご遺体を見るのかぁ……ちょっと嫌だけど……仕方ない。
「クーファル殿下、流された時に河底に当たったらしく損傷が酷いのです」
「辺境伯、そうだろうね。しかし、見てみない事にはね。あと、所持品だ。領主隊や邸の者の中には体調不良を訴える者はいないのか?」
「私が直ぐに確認します」
「ああ、アスラール。頼む。じゃあ、リリ。嫌だろうが見に行こうか」
「はい、兄さま」
あれ? 俺が嫌だと思ってるってバレてるよ。クーファルいつも鋭いな。
アラウィンが言っていたように、遺体にはかなりの損傷があった。見たくなかったぜ。
「うッ……兄さま、酷いですね」
「ああ、そりゃそうだよ。河を流れて海まで出たのだからね。リリ、鑑定できるかい?」
「はい、兄さま」
『鑑定』
俺は3人の遺体を順に鑑定した。
「兄さま……酷いですね。もう亡くなっているのに穢れは残っています」
「リリ、3人共かい?」
「はい、兄さま。3人共です。アスラ殿、所持品やライフルは?」
「リリアス殿下、こちらに」
アスラールが遺体の横に置いてあった少し大きな木箱を差した。
俺は、それも鑑定する。
「あぁ……全滅だ」
「リリ、そっちもかい?」
「はい。よくこんな物持っていたと思います。絶対に亡くなる前から呪詛に侵されていたのでしょうね」
「呪詛の弾丸はあれだけではなかったんだね」
みたいだな。きっと、ライフルの中にもまだ残っているだろう。それに所持品からも呪詛が見られるから予備の弾丸もあるのだろうな。
そこまでして、ユキを捕らえたかったのか? ムカつく。
「ユキ、ユキを狙ってきたのは3人だった?」
「ああ、3人だけだった。三方向から撃たれてしまって、後は転移寸前に1発だ」
「そっか、それで3発を河の中で自分で身体の外に出したんだっけ?」
「ああ、そうだ」
合計4発だ。1発はユキの体の中から、あと3発は弾丸を飲み込んだ魚を食べた魔物から既に回収済みだ。
「ユキ、何で転移して河の中なの? 対岸まで届かなかったの?」
「呪詛の弾丸が身体に入っていたせいか、力が出なくて対岸まで転移できなかったんだ」
そっか……でも、ユキさん。強いのにどうして撃たれちゃったんだろ? いや、そっとしておこう。
「リリ、そうしてくれ」
あら、ユキさん。俺の心を読んだね。
「兄さま、解呪してしまっていいですか?」
「構わない。リリ、頼む」
よし、全部まとめて解呪だ。
『ディスエンチャント』
白い光が3体の遺体と、所持品を入れた木箱を包み消えていった。
『鑑定』
所持品は大丈夫だ。ご遺体はまだ穢れが残っているな。
『ピュリフィケーション』
もう一度、3体の遺体を白い光が包み込み消えていく。
『鑑定』
よし、大丈夫だ。
「兄さま、もう触っても大丈夫です」
「リリ、そうか」
アスラール達が所持品を調べ出す。