41ーお呼び
「殿下、最近身体つきが変わってきましたね?」
と、ポーションを作りながらレピオスが言う。
「レピオス、5歳児に言うことじゃないね」
と、ポーションを作りながら俺が答える。
「ハッハッハッ! それはそうですね」
「もう、嫌だよ」
「何がですか?」
「オクのシゴキ」
「そうですか? 私はなかなか素晴らしいと見ておりましたが」
レピオス、いつ見てたんだよ。
ここはレピオスの研究室。騎士団から発注のあったポーション作成も佳境だ。
あれから午前中はオクソールの魔のシゴキ。昼食べて、ちょびっとお昼寝して、午後からレピオスの研究室に入り浸っている。5歳児だからね、まだお昼寝は必要なんだよ。ちょびっとだけね。
そうだ、忘れていたがリュカが無事、俺の従者になった。と、言ってもまだ従者の教育過程真っ最中だ。俺がここにいる間、リュカはオクソールと騎士団にいたり教育を受けていたりしている。午前中のシゴキも一緒に受けている。リュカは流石に獣人だ。リュカの体力は無限なのか? と、思う程バテる事がない。オクソールのシゴキにも楽勝でついていく。
だから俺は余計にキツイ。
リュカが楽勝なのに、俺一人へばっていたらカッコ悪いだろ? だから意地だよ。皇子の意地だ。
以前は常にニルが一緒にいたが、リュカが従者になった事でニルは身の回りの世話が中心になった。今はリュカの方が長い時間一緒にいる。
だが、ニルも俺担当の侍女である事には変わりない。部屋に戻ればニルはいる。
オクソールも、俺がレピオスの研究室にいる間は騎士団にいるが、基本は俺の専属護衛だ。これも変わりない。もちろん、リュカが研修やらでいない時はニルかオクがそばにいる。基本、俺が1人になる事はない。
別邸にいた俺担当の使用人達も、今は何をしているのか知らないが、俺担当のまま変わっていないらしい。
それと、例のシェフだが健在だ。相変わらず、食事をのせたワゴンと共に部屋の前でスタンバっている。
父や兄達と食堂で食べる時も、俺がいると何故かシェフがいる。ま、いいけどさ。
食事時になるとシェフがワゴンを押して爆走していると、少し名物になっている。あのテンションも健在。本当に俺の周りってなんでキャラの濃い奴が多いんだろ。
「よう、リリ。今日もポーション作ってんの?」
これはルーだ。相変わらず、いつもいない。
「だれ?」
「ひど! 僕も忙しいんだよ。色々発注が来るからさ」
「あ、そう」
発注てなんだよ。少し前は……
「精霊の国にちょっと里帰りしてくるね!」
と、言っていなかった。
最近は何か兄に言われて動いているらしい。
「リリ、5歳だからお披露目するんだろ?」
「え? 知らないよ?」
「殿下、ご存知ありませんか? 帝国では5歳になったらお披露目パーティーをするんですよ」
俺、そんな事全然知らないよ。
「レピオス……知らなかった」
「ほら、少し前に採寸されていたでしょう? あれはその衣装を作る為だと思いますよ」
「そうなの? てっきり、母さまのドレスを作るついでだと思ってた」
「勿論、エイル様も作られると思いますよ」
「そうなんだ。お城でするの?」
「そうですね。城のホールで、同じ5歳になる高位貴族の子女が集まってお披露目ですね」
「げ、貴族の子供もいっしょなの?」
「もちろんです。お披露目ですから」
「リリ、なんで? 嫌なのか?」
「……ん、まあね」
「なんで?」
「だって、ルー。あれが花を咲かせた皇子だー、みたいに見られるから」
「あー、まあ本当だし。仕方ないよ」
「ルーはさ、知らないからそんなこと言えるんだよ」
「なんでさ?」
「だって……小さくても貴族の令嬢は怖いよ」
「リリ、怖いのか?」
「うん、目が怖い。こう……獲物を狙ってるみたいな目が」
そう、もちろん獲物は俺だ。貴族の御令嬢は狩人だ。
「ブヒャヒャヒャ!」
「ルーは関係ないからいいよね」
「いや、今回は俺もリリの肩に止まっとけって言われた」
「えー、なんでだろ?」
「さあ? 知らないよ?」
「なんかあんのかな? まだなにも父さまから言われてないけど」
「殿下、ルー様がそばにいる様にという事は、用心する方が良いですね」
「うん。そうだよね。余計に嫌になってきた」
「失礼致します。殿下、陛下がお呼びです」
リュカが呼びに来た。このタイミングでお呼びという事はあれだよな。今話していたお披露目パーティーの事だよな。
「わかった。じゃあ、レピオス。ボク、行くよ」
「殿下、レピオス様もお呼びです」
「私もですか?」
「リリ、ついでにお披露目パーティーだけどボクは出ないよ、て言っておいてよ」
ルーがポンッと消えた。言い逃げしたな。
リュカとレピオスと一緒に廊下を歩く。レピオスの研究室から、父の執務室までは結構な距離がある。
「リュカ、あれだよね?」
「何がですか?」
「父さまのお話だよ。きっと5歳のお披露目パーティーだよね?」
「殿下、ご存知だったんですね」
「リュカ、何が?」
「いえ、殿下の事だからお披露目パーティーの事もご存知ないかと思ってました」
「ご存知なかったですよ」
レピオスにバラされた。そうさ、知らなかったよ。さっき知ったばかりだからね。
「うん。さっきルーにきいた」
「あー、ルー様ですか。なるほど」
「……やだなー」
「そうですか?」
「うん。リュカ、嫌だよ」
「殿下あれですか、ご令嬢の?」
「レピオス、そうだよ。あの獲物を狙う様な目がね。レピオスも一度見たらわかるよ」
「ブフッ、殿下が獲物ですか?」
「リュカ、怖いんだよ」
「ハハハ」
「しかし、私も一緒にお呼びという事は、違うお話ではないかと」
「レピオス、そう思う?」
「はい。多分」
「それも嫌なんだ」
「殿下、それも嫌なんですか?」
「うん。リュカだってそう思わない? レピオスも一緒なんだよ。いやな予感しかないよ」
「プハハッ」
オクソールの弟子も笑上戸だ。リュカは何故か何をしても可愛い。大の大人に可愛いもないけど。前世の息子に歳が近いからかも知れない。