気がついたらヒロインキャラがいなかった件 3
「殿下、本当ですか?」
「え、アース。グイグイくるね。どうでもいいじゃない」
俺は何とかはぐらかそうと試みる。
「どうでもいい訳ないです!」
あー、やっぱ駄目か。
「んー、まだハッキリ決めた訳じゃないけど。婚姻する気はないんだ。フォルセ兄上もそうだし。兄上達はちゃんと婚姻して子供も産まれてるから、僕達くらいは良いかなぁ? て、フォルセ兄上と言ってて」
「殿下、そうなんですか?」
「うん、レイ」
「なんでですか!?」
「本当、アース。グイグイくるね」
「いや、だって殿下なら選び放題じゃないですか!?」
なんだよ、その言い方は。
「アース、そんな言い方は良くない」
「あ、レイ。ごめん」
「ウフフフ」
「ディアはいつから殿下のことに気付いてたんだ?」
「レイ、いつから……とはハッキリは分からないのよ。でも、何となくです。
ああ、そうだわ。いつだったか、3人で辺境伯領に行ってらしたでしょう? あの後位に、もしかしたら? と、思いましたわ」
マジかよ。ディアはスゲーな。10歳の時だよ。自分で婚姻しないかもと思い出したのも、その頃だよ。
オクソールに、馬に乗せてもらいながらそんな話をしたのを覚えてる。
「そんな前ですか!」
ラルク、驚いてるね。て、事はだな。ラルクが気付いたのは、それよりも後って事だな。
「殿下、思われる事があるのですか?」
「ラルク、別に特別何かがある訳じゃないよ。ただね、僕の夢はさ。僕が歳をとってお爺さんになったら、兄上達の子供や孫に囲まれて過ごしたいな、て思ってる。そこに、自分の子供はいないんだ」
「殿下…… 」
「ラルク、そんなに深刻にならないで。フォルセ兄上と、お爺さんになっても一緒に遊ぶ約束してるから」
「まあ。可愛いお爺さんですこと。ウフフフ」
ディアはマイペースだね。懐が深いのか? でも、お陰で深刻な空気にならないですむよ。
「殿下、マジですか?」
「うん、アース。マジだよ。だから、僕に遠慮しなくて良いよ」
遠慮しないでゲットしたら? グフフ。アースとディアの子供も見てみたいよ。
「殿下、生温かい目で見るのは止めて下さい」
「アハハハ。アース、ゲットだぜ?」
「殿下! 笑い事じゃあないです! 俺はマジですよ!?」
「アース、僕だってふざけてないよ? ああ、ごめん。ゲットなんてディアに失礼だな。アース、後悔しないようにすれば良いよ」
「ウフフフ」
ディア、自分の事だって分かってるか?
「殿下、分かっておりますわよ?」
「そう?」
「はい」
「だって、アース」
「アース、お前顔が真っ赤だぞ?」
「レイ! 揶揄うな!」
いや、マジで真っ赤だよ。耳まで赤いよ。
「ウフフフ。私達だけで話をして良い事ではありません。アース、お父上と相談する方が良いわ」
おや、良いのか? 家から話をもって行かれると、断りにくいぞ?
「殿下、良いのですよ。私は殿下もレイもアースも好きですし、信頼しておりますから。掛け替えのない人達だと思ってます」
アハハハ、ディアには敵わないな。
「ね、レイ」
「ええ、殿下。やはり女子は違いますね」
「そうだね」
「何なんだよ! 殿下もレイも! 俺は意味分かんないのに!」
「だから、アース。家に帰って、素直な自分の気持ちをお父上に話せば良いんだよ」
「え……レイ。本当に?」
「ああ。ディアがそう言ってくれただろ?」
「ディア、本当に? 良いのか?」
「ウフフフ。はい」
余計にアースが真っ赤になったよ。
可愛いね。なんか青春だね。アオハルだよ。俺は中身はおっさんだからね。
だからと言う訳じゃないんだが。
「アース、お前大丈夫か?」
「うん。レイ、頑張るよ」
「ああ。頑張れ」
「うん。アース、頑張って」
「殿下、ありがとうございます。でも、4人はずっと歳をとっても友達ですからね」
「アース、もちろんだ」
「そうだよ、アース。変わらないよ」
「はい。変わりませんよ。ウフフフ」
アハハハ、嬉しい。無性に嬉しかった。
皆、変わらないと言ってくれた。そうはいかないかも知れないが、少なくともこの日は皆同じ気持ちだった。
それだけで、充分だよ。
暫くして、アースとディアの婚約が発表された。嬉しい。素直に嬉しいよ。二人共、幸せになってくれ。
「リリ! あなた、のんびりしてるから先を越されちゃったじゃない!」
俺の母だ。母は、俺の奥さんはディアがいいとイチオシだったからな。
「えー、母上。僕はいいです」
「もう! どうするの? もう良さそうな御令嬢は残っていないわよ!?」
「母上、婚姻しないと僕は母上と一緒にいられませんか?」
「やだ、そんな訳ないじゃない」
「そうですか?」
「もちろんよ。婚姻してもしなくても、リリは私の可愛い息子なんだから」
「母上、ありがとうございます。じゃあ、母上。ずっと一緒にいましょうね」
「もう……リリ。やだわ、嬉しいんですけど」
アハハハ、母が可愛い。
「いいわ。フォルセ殿下も婚姻なさらないらしいし。二人共、私が面倒を見るわ!」
え……?
「母に任せなさい! 忙しくなるわよ!」
あら……母が変に張り切ってしまった。
これは、俺が学園の高等部2年の時の出来事だ。
この頃にはニルはもちろん、オクソールもリュカも婚姻して子供もいた。
兄達の子供もいた。
子供達は皆、俺に懐いてくれて可愛くてもうそれだけで充分だった。
10歳の時にオクソールに……
「沢山の甥っ子や姪っ子に囲まれて生活するんだ」
と、話した事が現実になっている。
あの時には考えられなかった、オクソールとリュカの子供達にも会えた。
幸せだよ。こんな幸せな事はないさ。
欲を言えば……
前世の息子達の子供にも会いたかった。抱きしめたかったな。
元気にしてるかな? 俺のもう一つの家族。俺は、こっちの家族と幸せだよ。幸せだ。