気がついたらヒロインキャラがいなかった件 2
「そ、そ、そんな事! 俺は言ってましぇん!」
アース、噛んでるぜ?
「アース、全部話してみろよ。何か言われたんだろ?」
レイの言う通りだな。でないとわざわざこんな話をしないよな。
「実は、学園の高等部に入ってから、グイグイくる令嬢がいまして」
「え! そうなの!?」
「アース、あれだろ。例の男爵令嬢だろ?」
「レイ、知ってたか?」
「ああ。あれは止めておけ。あの男爵令嬢はタチが悪い」
「え? え? 僕全然知らないよ?」
「そりゃ、皇子殿下ですから。さすがに皇子には近寄り難いんでしょう。ラルクがずっと側にいますし」
へえ。なんだか面白くなってきた。
レイとアースの話によると……
高等部から編入してきた男爵令嬢が、侯爵家限定で子息を狙って片っ端から言いよっているらしい。
レイと、アースには特になんだそうだ。なんせ、二人には婚約者がいない。
貴族は大体子供のうちに婚約してしまうからな。珍しいのだろう。
だから、未だに婚約者のいないレイとアースにロックオンなのだそうだ。
「ブハハハ! 良いじゃん! アース、レイ頑張って!」
「殿下、笑い事ではありません」
「え? ラルク、何?」
「その男爵令嬢、雑食とでも言いますか、私にまでうるさくつきまとってくるのです」
「ええーッ!?」
「まあ! ウフフフ」
もう、ディアは可愛いなぁ。ウフフフだってよ。てか、侯爵家限定じゃないじゃんか。
「ラルク、いつの間に?」
「先日、トイレを出待ちされた時は本当に引きました」
「マジッ!?」
「大マジです。うちは侯爵家ではないのですが。何を考えているのか」
「ラルクはだって殿下の側近だからだよ。安泰じゃない?」
「レイ様、止めて下さい」
「あれ? ラルクは婚約者がいるの?」
「私達は普通の家ではありませんからね。小さな頃に決められた婚約者がいますよ。ニル様とソール様の様に、同じお役目の家系の令嬢です。そうでないと、無理ですから」
「マジ、ラルク。知らなかったよ。ニルと言い、ラルクと言い。なんで話してくれないかなぁ?」
「え? 殿下。関係ありませんし」
「うわ、流石ニルの甥っこだよ」
「ありがとうございます」
「褒めてないからね!」
「ウフフフ」
ほんと、ニルの家系は天然なのかよ。いや、セティが天然な訳ないか。
「殿下、話がズレてます」
「ああ、アースごめん。で、アースはどうすんの?」
「どうするも何も、侯爵家と見れば言い寄る様な令嬢はごめんですよ」
「だよねー」
「あの……良い機会なので……」
レイが横から話に入ってきたよ。
「レイ、どうしたの?」
「実は僕は領地の方で良いなぁと思っている令嬢がいまして」
「まあ!」
「レイ! そうなのか!?」
「あー、うん。小さな頃から一緒に育ってきて、乳母をしてくれてた伯爵家の令嬢なんだけど。だから、乳兄妹て言うのかな」
マジかよ!? みんな秘密主義なんだな。俺は人間不信になっちゃうよ?
「いや、殿下。秘密にしていた訳ではないのです。僕も最近、気持ちに気付いたので」
なんだよ、なんだよそれ! 詳しくプリーズだよ!
レイが物心つく前から、それこそ赤ん坊の頃から一緒に育ってきた伯爵家の令嬢が領地にいるそうだ。
レイにとっては、同い年だけど妹の様で領地に帰った時はいつも仲良く一緒に過ごしていたらしい。
それが、最近その令嬢に婚約の打診があったそうだ。同じ領地を任せている子爵家の次男だ。
子爵家からしてみれば、格上の伯爵家の令嬢でしかも領主の子息と乳兄妹となれば、お近付きになりたいのだろう。
「その話を先日領地に行った時に聞かされまして。ああ、嫌だなぁ。と思ったんです」
「レイ、そこで初めて気がついたの?」
「はい、殿下」
「レイも、人の事言えないよね?」
「そうですか? でも、殿下よりはマシですよ?」
「なんでだよ! 似た様なもんだよ!」
もう、信じらんねーな!
「あの、また話がズレてます」
「ああ、アースごめん。で?」
「で? て、殿下。まだ全然話が進んでません」
「だって、ラルクとレイがさぁ」
本当、びっくりしたよ。
「あ、じゃあレイはその令嬢と婚約するの?」
「まあ、そうなると思います」
「じゃあ、ディアの事はレイの家ではどうなの?」
「だから、殿下。主にうちの親なんですよ」
ああ、アース。そうだね。そうなるか。
「アース、何を言われているんだ?」
「レイ、それが……」
「何? アース。言ってしまえば?」
「その……殿下にその気がないなら、さっさとディアを捕まえてこいと」
あら、直球だね。
「まあ!」
ディア、さっきから「まあ!」とか「ウフフフ」しか言ってないけど、自分も関係あると分かってるのか?
「殿下、分かってますわよ?」
あら、そ〜お?
「殿下は……言っても良いのでしょうか?」
「何? ディア、言ってみて?」
「では、失礼ですが。殿下は婚姻されるおつもりはないですよね?」
え……何で?
「殿下を見ていれば気付きますわよ?」
「殿下、そうなのですか?」
「殿下! マジですか!?」
「あーあ……」
ラルク、「あーあ」て何だよ!
「いえ、殿下はご自分では隠されているおつもりなのでしょうが」
「え? ラルク、そんな感じ? でも、レイとアースは分かってなかったよね?」
「レイ様とアース様がどうとかではなく、ご兄弟は気付いておられると思いますよ。
フォルセ殿下は確実に。フレイ殿下は怪しいですが」
そうなんだよ。フォルセは知ってるんだよ。
「ウフフフ」
まただよ。ディアは動じないね。
しかし、レイとアースも気付いてないのに、ディアだけは気付いた訳だよね。
侮るなかれ。やっぱ女子は怖い。