ヒポポが欲しい 1
本編とはまったく関係ありません。
あしからず。
「リリアス殿下、どうされました? 選択科を変更される方が宜しいのではないでしょうか?」
「え……」
俺は、魔術アカデミーに進学して錬金術科を選択した。2年に上がる前の、担当教授との1対1の面談で言われた。
「殿下ほどの魔力量なら、なにも錬金術にこだわらなくともよろしいのでは?」
「僕はそんなに駄目ですか?」
「いえ、そんな訳ではありませんよ。決して駄目な事はありません。私は優秀な生徒だと思っております。
殿下はテストは学年で1番ですし、錬金術の基本とも言える純水の錬成は殿下の右に出る者はおりません」
「では……」
「いえね、殿下のその魔力量ですよ。
他の科ならもっと活かせるのではないかと思いまして」
えー…… かなり直球で他の科に移れと言われちゃったよねー。
でもなぁ……
「先生、でも僕は錬金術に夢をもっているのです」
「夢ですか?」
そうさ。彼の有名なアイザック•ニュートンだって、哲学者として錬金術研究をやっていたんだぜ。
それに、錬金術と言えばハガ◯ンだ!日本では超有名なんだぞ。夢見るに決まってるじゃねーか。
「はい。魔法ではできない事が錬金術では可能です。ポーションの作成だって、言ってみれば錬金術です」
「まあ、そうなりますかね」
「はい。そうです! 因みに僕は5歳の時に既に万能薬を作ってました!」
ちょっと癪だから自慢してやったぜ。
「ほう、それは素晴らしい。で、要するに殿下は何をおやりになりたいのですかな?」
「先生、笑わないですか?」
「それはお聞きしてみないと分かりませんが。努力致しましょう」
なんだよ、それ。笑っちゃう前提じゃねーか。
「実は僕……錬成獣を持ちたいのです」
「………… 」
教授がプルプルしている。明らかに笑いを堪えているじゃねーか。
「先生? 笑わないで下さいね」
「……努力しておりますよ。いや、笑う笑わないではなく。
リリアス殿下、錬成獣とは驚きました。もう、失われた術ですから。もちろん、ご存知だとは思いますが」
「はい。よく知っています。でも、復活できたら素晴らしいと思いませんか?」
「できればの話です」
それって、できないと言ってるよねー。
「で、どのような?」
「はい?」
「ですから、殿下はどのような錬成獣を持ちたいと思われるのでしょう?」
「先生、錬成獣と言えば!」
「言えば?」
「ヒポポタマスに決まってます!」
「…………」
また教授がプルプルしている。そんなにおかしい事か? ヒポポタマスとはカバだ。つぶらな瞳のカバさんだ。超可愛いじゃねーか!
「先生? 笑わないで下さいね」
「……努力しておりますよ。いや、驚きました。今時、そのような事を考える生徒がいるとは」
「え……そうですか?」
「そうですね」
「先生、錬金術と言えば錬成獣ヒポポタマスでしょう!」
「いやいや。それは殿下だけでしょう」
「え……マジですか?」
「はい。大マジです」
マジかよー! 錬金術科では当たり前だと思ってたよー! なんでだー!? 夢だろ? ロマンだろ?
「今時の生徒は、金の錬金方法の方が知りたがるでしょうに。殿下は目の付け所が他の生徒とは違いますな」
「え……そうですか?」
あれ? ディスられてる? ズレてるって言われてる? 俺、普通だよ? 超普通人だよ。
「ヒポポタマスを持ってどうなさるおつもりですか?」
「乗りたいのです」
「………… 」
またまた教授がプルプルしている。
なんでだよ!? ヒポポタマスは錬成獣の中でも騎獣だぞ。乗らないでどうするよ!
「先生? 笑わないで下さいね」
「……努力しておりますよ。いや、ただ乗るのですか? 乗って何をされますか?」
何って……考えてねーよ。ただ乗りたいだけだからな。そうだな、もしも乗れたら……
「ユキと一緒にお散歩でしょうか?」
「………… 」
またまたまた教授がプルプルしている。
おかしいか? 神獣のユキと一緒に、錬成獣のヒポポタマスに乗ってお散歩だよ。なんて贅沢なんだ!
「先生? 笑わないで下さいね」
「……努力しておりますよ。いや、お散歩とはまた驚きました。
ユキとは、殿下の神獣でしたか? 魔物討伐とかではないのですね」
「魔物を討伐するのは、ヒポポタマスに乗らなくてもできます」
「なるほど、なるほど。お話をお聞きして殿下が『夢』と仰る意味が分かりました」
「ありがとうございます」
そうだよ、夢なんだよ。ロマンだよ。
「まあ……そうですね。そこまで言われるのでしたら、私の秘密をお教えしましょう」
「先生の秘密ですか?」
「はい。殿下だけに特別ですよ。よく見ていて下さい」
「はい!」
なんだなんだ? ワクワクしてきたぞ!
教授が、パチンと指を鳴らすと何処からともなく1本のスクロールが出てきた。
見た事のないスクロールだ。教授は続ける。
「起動……展開」
スクロールが空中でスルスルと広がり固定される
「ここに発現……スパイダー……アラ」
教授がスクロールに手を伸ばし魔力を通した。
次の瞬間、キラキラと光を放ちながら教授の手のひらの上に顕現したのは小さな小さなミルク色の蜘蛛だった。
ピンクのリボンをつけている……何故蜘蛛にリボン? いや、女の子なのか?
「先生!! 超カッコいい!!」
「はい?」
「錬成獣ですか!?」
「その通りです。私の錬成獣、スパイダーのアラです」
「な、名前を付けておられるのですか!?」
「はい。アラちゃんです。一応、女性です」
いや、蜘蛛に女性てどうよ? てか、そんな事はいいんだ。それよりも、錬成獣だと!! 夢が現実になるじゃん。リアルじやん!
「私のごく普通の魔力量では、この小さな蜘蛛で精一杯なのですよ」
「でも、先生。先程、もう失われた術だと仰いました!」
「はい。申しました。それには理由があります」
まさか、錬成獣をこの目で見る事ができるなんて思わなかったよー!
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